医療・福祉問題研究会会報NO.84 2007.12.6
第89回研究例会のご案内

日時: 2007年12月22日(土)15〜17時半
会場: 金沢市松ヶ枝福祉館 4階集会室
テーマ: 『731部隊の訪中調査報告 
−莇先生と日本の戦争責任について考える−』
報告者: 莇 昭三 氏
731部隊の人体実験。15年戦争中に日本の一部の軍医、医学者によって行われたこの戦争犯罪はその事実が明確であるにもかかわらず、日本政府はそれを認めようとせず、むしろ忘れ去ろうとしています。医学犯罪に直接関わった関係者、そしてその事実をおそらく知っていたであろう医療・医学界もまた、自らの戦争責任を曖昧にし、何が問題であったのかを明らかにしてきませんでした。
莇先生は、「医師、医学者が免罪されてきたことが現在の血友病HIV感染被害へとつながった。過ちを二度と繰り返さないために今からでも事実を明らかにし、殺害された人々に謝罪し、そこからの教訓を明確にする必要がある」とし、731部隊をはじめとした戦時中の医学犯罪について、中国の現地調査をもとに研究を続けていらっしゃいます。
今回は、莇先生に訪中調査の報告をお願いするとともに、皆さんと日本の戦争責任について考えてみたいと思います。たくさんの方のご参加をお待ちしています。

※ 例会前の午後1時〜2時半まで、同じ会場にて事務局会議を行います。
また、例会終了後に毎年恒例の大忘年会を企画しています。末尾の案内をご覧の上、事務局まで参加のご連絡をお願いします。
第87回研究例会報告
『障害者自立支援法−完全施行1年を経て見えてきたもの−』道見 藤治
2007年9月30日、表記テーマにて研究例会があった。1部は3名の方より報告を受け、2部はオープンディスカッションを行なった。
 報告から。石川県視覚障害者の生活と権利を守る会事務局長、不破伸一さんからは「自立支援法と障害のある人の願い」として次のような報告があった。
@「障害者にも負担を」が前面に
 日常生活用具給付事業に定率1割負担と所得制限が導入されてきた。金沢市ではマル障、福祉タクシーにも所得制限が導入され、サービスを受けることが出来ない人が増えてきた。一時的な見直しでなく「応益負担」そのものを撤廃してほしい。
A制度がわかりにくくなった
 いきなり導入されたこと、運動の成果でもあるがあわてて「見直し」したこと、さらに地域生活支援事業は地域によって実施状況が違うことなどから、制度を一望しにくくなった。
Bみえない将来像 憲法理念に沿った問題解決の方向が曖昧に
 ※憲法に示された人権を障害のある人にも保障させるという目標が、地域の実情・ニーズという言葉でうやむやにされているよう。厚生労働省に言っても、「周知する」、「よい事例があれば紹介する」ということで、誰が障害のある人の福祉に最終責任を持っているのかはっきりしない。
C財源不足を理由にした削減の対象とはしてほしくない
障害のある人への福祉は、人間らしく生きるためのサービス。財源不足とは関係ない。
D大きな制度変更にはあらかじめ当事者と国民の意見を聞いてほしい
 福祉を向上させる制度、わかりやすい制度、使いやすい制度をつくる早道であり、民主主義の基本。
E障害ゆえに必要なサービスは、社会が負担する原則の確立を
 ソーシャルネットかがやき、西脇瑞枝さんからは「事業者からの声」として次のような報告があった。
 利用者負担が当初1割負担と出された時は、障害年金だけで生活している利用者さんが実際に生活していけなくなると心配した。しかしそのうち減額されほっとした分、事業者への給付額がどんと低くなり、特に居宅介護の給付額が安く設定された。特に、長時間のヘルパーの利用では長くなるほど減額の巾が大きくなり、介護保険の単価に比べてすべて安くなっている。せめて介護保険と同額にならないと、ヘルパーの給料が保障されない状況で特に人材不足となっている福祉事業者の先行きが見えてこない。これが進むと障害のある方へのヘルパー事業をする事業者が少なくなり、サービスの担い手が少なくなることであり、結果として利用者の生活が危ぶまれ、従来利用者が事業者を選択してきたことが、反対になり、事業者が利用者を選ぶことになりかねない。
 地域生活支援事業として市町村事業になった移動支援についても安全性重視で支援内容に制限があったり、通学の送り迎えは家族がどうしても出来ない場合でも考慮されていない。支援費制度では、外出援助が全国どこでも使えたが、市町村事業になってからは使うのが非常に困難になっている。障害のある人たちにとって、自由に外へ出かけられるようになったことは大きな福祉の前進であったはずである。金沢市の移動支援についての考え方は、障害のある方たちの行動を制限することであり、これは大きな福祉の後退であるといえよう。
 施設から出て生活の場と日中活動の場でそれぞれの利用者が生き生きと生活できるようにという自立支援法の構想であるが、大型施設では新しい制度への切り替えには慎重で、経過措置があるためか緊張感が伴っていないように見受けられる。給付額が少なくてもわれわれ小さな事業者は、利用者が求めるものをどのように作っていこうかと頑張っている。大型施設への多額の建設資金や施設整備、施設給付などを見直し、地域で生活している利用者が安心してその人らしい生き方が出来るようになることがわれわれの使命であると思っている。利用者の権利を守るためにも利用者と事業者が一緒に歩みながら、事業者の場合は、働く人の権利を保障することにつながるだろう。
 金沢大学教育学部、河合隆平さんからは次のような報告があった。
障害者自立支援法によって、「児童福祉」としての障害児福祉から「自立支援法」としての障害児福祉へと変質したところに大きな矛盾と問題がある。自立支援法施行に伴う2006年度児童福祉法改正は、「自立支援法」としての障害児福祉に向けた「途中下車」であり、2009年度の改定で結論が出される予定である。今回は、とりわけ障害児施設の問題について報告した。
改正児童福祉法第24条の2には、障害児施設給付費支給に関する事項(施設利用にあたり給付決定を受けた保護者が施設に申請して利用開始;いわゆる「契約制度」)が挿入されたが、児童相談所の職務(第26条)および都道府県の措置権限(第27条)は未改正のままである。したがって、障害児施設利用については、措置制度と利用契約制度が法制上、併存している状態にある。
施設利用状況については、知的障害児施設で就学前入所が微増傾向にあり、乳児院・児童養護施設からの措置変更が7%である。肢体不自由児施設でも20%が社会的入所であり、入所経路の半数が児童養護施設からという施設もみられる。こうした状況において、児童の施設入所(支給決定)にあたっては、保護者の「契約能力」だけではなく「養護能力」を加味する方向にあるが、厚生労働省の「原則として利用契約制度に移行」という基本方針に変更はない。
2006年10月の自立支援法本格実施以降、満18歳未満措置率の都道府県間格差が生まれており(たとえば、三重;96.6%、山口;0%)、費用負担の問題から退所等が後を絶たない現状がある。利用契約者と措置者の負担格差、滞納・未収への対応、学校教育との連携・連絡(就学奨励費、給食費など)などの課題が山積している。
 オープンディスカッションでは法実施後の施設運営、利用者の変化の報告があった。医療や介護・福祉事業者の確保と養成が大変厳しい実態になっている問題が出た。法については、応益負担の撤回、事業報酬の低さの改善、日割りの撤廃等の意見・要望が出た。
 今回の例会テーマは時宜にかなったテーマであり、現状と問題を参加者が共有できた。残念にも出にくい時間帯のため参加者が少なかった。
第2回 石川県社会保障学校記念講演報告
金沢大学大学院人間社会環境研究科 村田隆史
9月22日、第2回石川県社会保障学校が生涯学習センターにて開催された。
「自主的」な保護の辞退による餓死事件、保護の「適正化」、水際作戦、硫黄島作戦、老齢加算の廃止、母子加算の縮小・廃止など生活保護制度をめぐる状況は極めて厳しいものであるが、その中でもドイツの公的扶助との比較を行ないながら生活保障と自立支援・就労支援をテーマに研究され、実際に社会保障審議会福祉部会「生活保護制度の在り方に関する専門委員会」の委員も務められた静岡大学・布川日佐史先生のお話をお聞きすることができた。
布川先生からは現状を見ると、格差ではなく貧困まで議論がされていて、なおかつ貧困が社会の問題として認識されてきていること、それによって今まで潜在化していた問題が顕在化してきていることが重要であり、生活保護の受給率を上げることが問題の顕在化をさらに支えていくということ、生活保護制度を改善していくには窓口の対応を変えることやただ単に保護受給者を増やすだけではなく、自分で努力できる環境を整備するためにも生活支援・就労支援・自立支援をした上でまずは安定した生活を送ることが不可欠であり、それが結果的に社会保障費削減にもつながるとことなどが報告された。実際は窓口で申請用紙をもらうことすら困難で、生活支援をせずに就労支援(これもハローワークに行くよう指示するに過ぎない)のみを行っている自治体が多い。しかし、自立支援プログラムをマニュアル化しているだけの自治体が多い中で先進的事例も生まれてきているという(高校進学プログラムや障害者の自宅での生活支援など)。フロアからの「北九州などの事件が起きるのは職員の資質の問題か?」、「福祉事務所に行くと必ず自動車の保有が問題になるのでどうすればよいか?」という質問に対しては「職員の資質というよりも基準(数字設定)が定められるシステムの問題」、「自動車の保有を認めている福祉事務所もあるので、これらの例を提示して自立支援のためには自動車が不可欠と指摘する方法がある」と答えていただいた。
報告にあったように問題を顕在化させるために漏救を防ぎ、問題を顕在化させることが必要である。ケースワーカーへの調査を行ったことがあるが、「漏救者がたくさんいるので、受給者が濫救しているように見える」と言っていた。また、自立支援プログラムを策定していく際に外から働きかけていくことが重要であるとあったが、生活保護制度に関わる一人ひとりのこれからの課題であり、先進事例から学びながら改善に取り組む必要があると思う。
第88回例会報告
「構造改革下の生活保護行政を考える」
城北病院 筒井 司郎
10月26日松ヶ枝間福祉館にて、生活保護の現状と課題と題した例会が開催された。北九州市において、2年連続で生活保護を打ち切られた市民が餓死するというショッキングなニュ―スは、生活保護行政の最前線において深刻な問題が進行していることを浮き彫りにした。同時に、その現場を指導・拘束する立場の厚生労働省、ひいては日本政府の生活保護というものに対する認識の未熟さ・不備も明らかにしているといえる。
今回の例会では、この現状を見つめ直す意味も含めて、比較的、私たちの身近にある金沢市の生活保護行政の問題点について、最新の情報を提供していただくとともに、生活保護への締め付けがより激烈になってきたといえる2000年以降の、構造改革下での政策運営についても概観することを目的として企画された。
まず前半は、研究会の生活保護関連の企画では、無くてはならない存在の金沢生活と健康を守る会の広田敏雄氏より、最近の金沢市との交渉で明らかになった問題について報告を受けた。
今回、特に重大視されたのは、「特別控除」「未成年者控除」が金沢市でおいて行われてこなかったという問題であるが、これは、生活保護行政のバイブルというべき存在である「生活保護手帳」の中の生活保護実施要綱の誤読によるものとしか思われないが、結局、金沢市は誤りを認めず、それでいて実際の保護内容は改善されている。しかし、誤りを認めないから遡っての対応は行われなかった。挙句の果てに、申し立てる人間がいなかったからと強弁する始末であったということであった。こういう所に、生活保護行政の根本的な問題が如実に示されていると思われる。
後半は、金沢大学大学院の村田隆史氏から、小泉構造改革下の生活保護施策の変遷について報告を受けた。1990年代末に策定された社会福祉基礎構造改革の計画が、小泉内閣の構造改革路線のもとで、どの様な形で生活保護行政に反映されたのかを、厚生白書の記述に触れながら、時系列的に紹介した。
また、報告の中では、都留文科大学・地方自治論ゼミが東京都足立区で行った「貧困実態調査」について紹介されたが、足立区においては、生保受給者の人権擁護に、労働組合が積極的な役割果たした話などは印象的であった。
次に日本との比較という意味で、ドイツ、イギリスの生活保護の現状について簡単にふれたが、日本同様、厳しい財政事情のもと、給付期限の縮小や、給付額の削減などが行われている。しかし、日本との大きな違いは最初の訪問で、申請書類が渡されることは稀という様な、給付の入口での排除は絶対行われないということであった。
報告のまとめとして、憲法の理念から遠くなってしまっている、現在の生活保護行政・施策に対して、先に触れた労働組合をはじめ、社会福祉や環境保護などの様々な角度・レベルから人権を考える人々の連帯により、憲法を有名無実化にしている権力側(あえてこう云わせてもらう)の流れに対して、対抗勢力の形成が急務であることが強調された。

報告後の討論の中では、実際に生活保護を受給されている方からの発言がなされたが、健康上の問題から、十分に就労できす、賃貸住宅からの立ち退きを求められているという深刻な生活問題を持って、福祉事務所窓口へ相談しているにもかかわらず、行政側から、生活保護制度の活用など具体的な社会資源の活用についての情報の提供は全く無く、「地域の民生委員に相談を」などという本末転倒の指導がなされたことや、知り合いを介して、市会議員の助言が得られなければ生活保護制度の存在すら知らなかったなど、現在の生活保護制度の内容を云々する以前の問題についてリアルに語っていただいた。
さらに、村田氏からだされた資料のから、被保護世帯の中で稼働世帯、つまり世帯の中で、たとえ僅かでも就労している人がいる世帯の比率が1990年から95年にかけて激減し、保護世帯が増えているにもかかわらず、その水準が続いていることに関して、少しでも就労できるなら、保護基準をはるかに下回る収入しか得られなくとも生活保護を受給させないのではないか、という現在の生活保護行政の問題の一面を指摘する意見も出された。
今後も、研究会として、生活保護の問題に積極的に取り組んでいく課題であるが、制度の運用がひどすぎるために、その点ばかりに目がいくけれども、制度そのものの問題点についても、検討する必要があるのではないか、つまり、憲法との関連で、本来あるべき生活保護法は、どの様ものなのか、ということを模索することも考えていきたいと思う。

今回の例会は、生活保護に対する関心の高さを反映して、平日の例会としては久々に30名近い参加者を得て盛況であった。また、マスコミの取材もあったが、この点について司会者の不手際で、事前に参加者に報告がなされなかったことについて、この場をかりてお詫びする。
事務局短信
医療・福祉問題研究会 2007年大忘年会のご案内
毎年恒例の医療・福祉問題研究会の忘年会を企画しました。年末の忙しい時期ですが、今年一年を振り返り、会員の皆様方と大いに語り合えるひと時を過ごすことができればと思います。多数の御参加をお待ちしています。

日時:12月22日(土)18時〜20時(例会終了後 移動)
場所: 菜香楼 (金沢市武蔵町15-1 めいてつエムザ地下1階)TEL 076-221-3156