医療・福祉問題研究会会報NO.85
2008.1.8
第90回研究例会のご案内
日時 : 2008年2月2日(土)15〜17時半
会場 : 金沢市松ヶ枝福祉館 4階学習室
テーマ: 『農民工問題と現代中国の貧困研究』
報告者: 劉 綺莉さん
(金沢大学大学院社会環境科学研究科博士後期課程)
日本でも1960年代から70年代にかけて、農村地域から大都市へ出ていく出稼ぎ労働者が数多く存在したように、中国においても農村部から都市部への出稼ぎ労働者の問題が存在します。中国では彼らは「農民工」、「民工」、「農村流動人口」、「農村外来人口」などの名称で呼ばれており、中国の研究者の間ではこのような出稼ぎ労働者の呼び方と定義について様々な議論がされています。
中国における改革開放の推進は、農村社会内部に大きな変動をもたらしましたが、同時に農民とその外部環境にも変化を引き起しています。中でも特に注目すべき現象は、「民工潮」と呼ばれているほどの大量の農民の都市への流入です。今回の例会は、中国の貧困や「農民工」の問題について研究していらっしゃる劉さんを報告者にお招きして、農村の貧困から脱出を求めて、主に都市部へ流出してきた農民工の問題を中心に、彼らが中国都市社会における労働と生活の場面で抱えている貧困の問題とその特質について、考えてみたいと思います。
多数のご参加お待ちしております。
※ 例会前の午後1時〜2時半まで、同じ会場にて事務局会議を行います。
第89回研究例会報告
「731部隊の訪中調査報告―莇先生と日本の戦争責任について考える」
城北病院 河野 晃
2007年12月22日に、第89回研究例会が「731部隊の訪中調査報告―莇先生と日本の戦争責任について考える」と題して行われた。莇昭三さん(15年戦争と日本の医学医療研究会名誉幹事長)は2002年から2007年にかけて北京、上海、チチハル、ハルピン、平房、大連、瀋陽、長春など中国を6回訪問され、それらの膨大な調査結果に基づいて、15年戦争中の中国での人体実験、毒ガス実験等の「医学犯罪」について報告された。
関東軍731部隊本部は、ハルピンの近郊平房に、捕虜(マルタ)収容監獄、各種実験施設、実験用動物舎、神社などがあり、鉄道引込み線や飛行場を持つ巨大な施設であった。憲兵隊に捕らえられた捕虜(マルタ)を使って、ペスト菌、チフス菌、炭疽菌などの感染試験、凍傷実験、輸液実験、脱水、飢餓など極限状態での人体の反応、病理研究、手術練習など、非人道的な所業が行われた。犠牲となったマルタは3000人を越えたといわれ、生還者は一人もいなかった。
731部隊のみならず、1855部隊(北京)、1644部隊(南京)、8604部隊(広東)、9420部隊(シンガポール)など各地に、細菌兵器、毒ガス兵器、手術練習を行う、医師、技術者を中心とする部隊があり組織的な活動をしていた。
こうした731部隊等での「医学犯罪」は、個人的な思いつきで行われたのではない。当時の陸軍参謀本部、陸軍省医務局等の公認のもとで、膨大な資金を投じて実施された国をあげての犯罪であった。石井四郎軍医中将などの軍医はもとより、「陸軍技師」という身分での研究者が存在し、部隊各分野の研究責任者となっていた。彼等は京都帝国大学医学部、東京帝国大学部医学部、慶応義塾大学医学部、金沢医科大学(現金沢大学医学部)等の細菌学教室や病理学教室出身の名だたる研究者であった。部隊幹部の中には、戦後は戦犯に問われる事もなく、大学教授やミドリ十字などの会社幹部になったものも多い。
これは戦後、石井四郎等が米軍と取引し、人体実験などの研究成果を米軍に引き渡して免責された経緯があるからである。「戦時中の医学犯罪」を不問にしてきた日本の「医学会」と、ナチスに協力したことを反省するベルリン医師会との違いである。731部隊を免責するとアメリカが確約した時点で、「アメリカ軍が調査しているので731部隊問題は解決済み」であるので、「関係した医師、医学者の倫理上に問題はなかった」と問題がすり替えられ、さらに「戦時中の医学犯罪」が一括して不問にされ、何が問題であったか、そこから何を教訓とするか、を今日まで明確にされてこなかったのである。731部隊の「医学犯罪」は、戦前は「天皇の命令」で、戦後は「アメリカの施策」で免罪され、日本の医学界が自らの判断で反省することはなかったといえよう。
最後に、莇さんは731部隊にかかわった人々を裁く権限はないが、その歴史を記憶し、後世に伝えていく義務がある。過去の歴史的事実とどう向き合うか、そしてそこから未来に希望をどう伝えるかが重要であると述べられた。
なお、1945年8月12日、敗戦を察知するや、731部隊は施設を爆破し、マルタを殺害・焼却して、石炭殻と混ぜて粉砕して松花江に投棄して証拠隠滅をはかり逃亡した。小数の幹部は飛行機で、他の隊員や家族は特別列車をしたてての真っ先の隠密逃避行であった。追いすがる邦人避難民を振り捨てて、平壌、京城、釜山港を経て門司にたどり着いたのは、同年8月下旬のことであった。
日本の加害の事実を知り、被害を受けたアジア諸国民と歴史・記憶を共有することにより、はじめてアジアにおける真の友好関係を構築することができると思った。

(第27回日本医学会総会出展「戦争と医学」展実行委員会編『戦争と医の倫理』かもがわ出版、2007年。莇昭三『戦争と医療』かもがわ出版、2000年。郡司陽子編『〔真相〕石井細菌部隊』徳間書店、1982年などを参照した)
2007年大忘年会開催!
 去る2007年12月22日、例会の場にはいなかったメンバーもどこからともなく続々と集結し、20数名の会員の参加で毎年恒例の大忘年会が開かれました。
「忘年会だけは毎年欠かさず出席している!」など、自負する会員も毎度のことながら多数いる中で、中華料理を囲みながら、会員それぞれが近況報告も含め2007年をたっぷりと振り返った楽しいひとときとなりました。
 参加された会員の多くは、きっと英気をたくさん養ったことでしょう。個人的には、例会の参加者も同じくらい増えることを願っています。ぜひ、研究会を今年も頑張って盛り上げていきましょう。 
会員のみなさまにとって、2008年がよい年になりますようお祈り申し上げます。(G)
新年にあたって若手会員からのひとこと
村田 隆史さん(金沢大学大学院人間社会環境研究科)
医療福祉問題研究会の皆さま、新年明けましておめでとうございます。旧年中はお世話になり大変ありがとうございました。本年もよろしくお願いします。
新年の抱負ということですが、今年は昨年に引き続き能登半島震災調査に取り組んで行きたいと思います。最近では、マスコミなどで取り上げられることも少なくなってきました。しかし、現地に行くたびに「復興」へと向かう道筋が見える一方で、従来から抱えていた問題の深刻化と新たな問題が発生していることがわかります。長いスパンで調査に取り組んでいきたいと考えています。また、今年から「小川著作集の研究会」を始めることになりました。これも5年ぐらいのスパンで取り組むつもりですので、ぜひ皆さんご参加ください。研究会例会・事務局会議にも積極的に参加していきたいと思います。最後に個人的なことですが、横山先生の睡眠時間を削ることなく修士論文を無事に提出することを密かな目標としています。
新規入会された H さん
平成20年、平成になってから20年も経ったのかと時間の経つ早さを感じている。
時間は膨大なようでもあり、一瞬のようなものでもあるかな。
新年は、どういう年にしたいか? 一言ならば充実した年にしたい。私は、障害を持ちながら就労している。今までは続かなかった。しかし、就労にチャレンジしたい。メーリングリストに書いたので重複するかもしれないが、精神に障害があると疲れやすさが半端ではなくなるのである。それをいかに強くするか、援助をしてもらうにしても援助者と考えて、良い方向へと自分を導きたい。
もう一つ書くとすると、福祉の事で自分に出来ることはないかと思っている。私は福祉の人に助けられたと思っているので、今度は自分が何か出来ないだろうかと。私の得意分野はパソコン系とイラストや写真である。それを使って、面白いことを出来ないだろうかと考えている。ネットやパソコンを利用して、福祉のサービスのサポート、アナウンス、システム構築などが出来たら良いし、勉強をしたい。
川合 優さん(城北病院 医療ソーシャルワーカー)
私は昨年11月に結婚して、現在新しい生活を始めています。仕事と家庭の両立の難しさをすでに感じながらも今年は「攻め」の姿勢で何事にも積極的にチャレンジしていこうと思っています。ソーシャルワーカーとしても4年目になるので、今年は自分自身でも成長できたと感じられる一年にしたいと思っています。
医療福祉問題研究会に入会してもうすぐ3年になりますが、これまで多くの例会や事務局会議を通して、日常では知ることができない沢山のことを学ぶことができました。研究会への参加がソーシャルワーカーとしての成長に?がっていると思い、研究会にとても感謝しています。
今年も多くの例会や事務局会議に参加させていただきたいと思っていますので、皆様よろしくお願い致します。
事務局短信
1/18 「小川著作集から人権としての社会保障を学ぶ会」発足!!
金沢大学大学院人間社会環境研究科 村田隆史
2008年1月18日(金)の午後6時30分から松ヶ枝福祉会館で「小川著作集から人権としての社会保障を学ぶ会」を月に1回のペースで開催することになりました。医療・福祉問題研究会の皆さまももちろん購入されたと思いますが、興味のある方はお時間がある時に是非ご参加ください。たくさんの方の参加をお待ちしています。
 研究会を行おうと考えた理由は何点かあります。1点目は現在の社会保障制度を厳しい状況に追い込んでいる新自由主義・社会保障「構造改革」に対抗するための武器を身につけたいと思ったからです。朝日訴訟以来一貫して「権利としての社会保障」を掲げている「小川権利論」を学ぶことは絶対に今日でも有益だと思います。2点目は難しい本を読むことは1人では難しいですが、多くの人で読めば読み続けることができ、なおかつ本の内容がより理解されると思ったからです。本棚に並ぶ「小川政亮著作集」を見て何か成し遂げた気持ちになっている人はいませんか?自分もその感覚に近いものになっていましたが、やはりしっかり読まなくては意味がないと思います。
 分量が多いので、かなり長い時間をかけた計画になると思います。途中でくじけることがあるかもしれませんが、一人ひとりが「小川権利論」を学ぶことが社会保障制度の発展につながると信じて取り組んでいきます。
『福祉マップ改訂第7版』がついに発刊!!
まる1年かけて編集をしてまいりました『福祉マップ改訂第7版』が、この程ようやく発刊の運びとなりました。
研究会でもおなじみの皆さんに、編集委員やコラム執筆者としてご参加いただき、また関係各位のご尽力のおかげで、今回も"力作"の『福祉マップ』となりました。
今版は、@ひと目でわかる医療・福祉サービス利用マップ(通称「社会資源マップ」。制度の枠を超えたサービス検索が可能。)、A最新の医療保険・介護保険制度に対応、08年4月から始まる後期高齢者医療制度の概要についても解説、B障害者自立支援法に対応、C充実した権利擁護解説、などを主な改訂点として編集しています。
特にABCについては、制度ごとに「こんな内容です」「利用できる人」「手続き」を基本に、必要に応じて「利用料」「問合せ先」を掲載し、制度を利用しやすく解説しています。また福祉や医療にまつわる動きや現場からの生の声、意外と知られていない制度や団体情報など、興味深いテーマを取り上げた「コラム」や「ご存知ですか」欄も好評です。さらに今回は、かわいらしいイラストが適所に入り、制度をより身近に感じさせてくれています。
当会では、本書を医療機関や介護関連施設の窓口をはじめ、行政担当者、保健福祉センター、社会福祉協議会、地域包括支援センター、民生委員、ホームヘルパー、そして実際に高齢者や障害のある人、その家族など広く一般の人々にも活用していただけるよう願っています。

●A4版、274頁、定価1,500円(税込、送料別)
●石川県内主要書店で販売しているほか、全国の書店やインターネット上の書店で注文が可能です。
●問い合わせは、石川県保険医協会
=電話076-222-5373・ファクス076-231-5156=へ。