医療・福祉問題研究会会報
NO.87
2008.6.24
医療・福祉問題研究会 2008年度総会記念企画
日時: 7月26日(土)15時〜17時半
会場: 金沢市松ヶ枝福祉館 4階集会室
テーマ:『高齢者医療を考える
         ―後期高齢者医療制度を徹底検証する―』
シンポジスト:
  工藤浩司さん(石川県保険医協会事務局次長)
  原 和人さん(城北病院医師)
  西川信一さん(金沢市福祉健康局医療保険課担当課長補佐)
2006年の医療改革関連法で制度化が決まり、2008年4月からスタートした後期高齢者医療制度は、高齢者をはじめ国民のかつてなく大きな反発を招き、国会では廃止法案が提出されるなど、存続自体をめぐって国民的な議論が行われています。シンポジウムでは、あらためてこの後期高齢者医療制度の内容を取りあげて徹底検証するとともに、高齢者医療のあり方について、各国の制度も参考にしつつ考えてみたいと思います。
後期高齢者医療制度については、制度・しくみ自体の問題、提供される医療内容の問題、高齢者生活の問題などが指摘されています。そこで、シンポジストには、後期高齢者医療制度について、制度面からの検証、医療内容からの検証、行政窓口からの検証をそれぞれお願いし、それをもとに後期高齢者医療制度の問題点および高齢者医療のあり方について議論したいと考えております。議論を深めるために、研究会として各国の高齢者医療の現状について情報提供する予定にしています。
多数のご参加をお待ちしています。
医療・福祉問題研究会 総会のご案内 
総会記念企画に先立ち、2008年度医療・福祉問題研究会の総会を下記のとおり開催いたします。会員の皆様につきましては、ご出席のほどよろしくお願いいたします。

日時: 7月26日(土)13時〜14時半 
会場: 金沢市松ヶ枝福祉館 

2007年度の活動報告と2008年度の活動計画案
2007年度の決算報告と2008年度の予算案   など
事務局短信 懇親会のお知らせ
医療・福祉問題研究会総会記念企画の後は、恒例の懇親会を予定しています。
多数のご参加をお待ちしております。

日時:7月26日(土)18時から20時ごろまで
場所:座・いっく(名鉄エムザ裏 武蔵町16−48 電話:224-1919)
会費:5,000円  ※学生は、3,000円

 参加される方は、7月22日までに下記(事務局 河野)まで連絡ください。
  e-mail     yyhms182@ybb.ne.jp
 TEL/FAX   076-252-7775 
第91回例会報告
「生活保護の実態調査からみえてきたもの」
金沢福祉専門学校 冨家貴子
 5月31日の例会では、「生活保護の実態調査からみえてきたもの」の報告、意見交換が行われた。その内容は、@2006年度からの老齢加算完全廃止による、高齢生活保護世帯の生活変化(全日本民主医療連合会の調査結果報告)、Aホームレスだった方の退院後の聞き取り調査結果報告(城北病院の取り組み)、の2点であった。
 @に関して、食費の節約だけでなく、被服費や教養娯楽費を捻出できない、交際費は1ヶ月5千円以下が9割で、町会費が払えない、地域行事に参加できない、親族との交際もできない等、生活保護基準の低さから、生命の再生産と社会関係の維持が同時に困難になっていた。また、老齢加算廃止を知らなかった世帯が約半数もいたこと、要介護認定を受けている世帯が多いに関わらず、住環境は高齢者の身体状況に適していなかった。
Aに関して、対象者は、21人中20人が男性、年齢は50〜60代が殆どであった。退院後、アパート生活を始めても、アルコール依存症や孤独死が見つかる、新しい友人関係を築けていない等、生活がうまくいくわけではないこと、また、生活保護基準の低さから、住環境が良好でなく(騒音、老朽化)、電化製品を購入も廃棄もできないでいた。しかし、このような困難な状況にありながら、「未来に望むこと」を尋ねると、「もう一度結婚したい」、「家族で生活したい」、そして、「もう一度働きたい」等、生きがいや人との交流を求めていた。
質疑応答・意見交換では、◎高齢者の社会生活の確立にはお金が必要(老人クラブや町内会活動など)、◎厚生労働省は、ホームレスの支援は、最終的には「就労」としているが、福祉事務所のマンパワーを増やし、仕事のあり方を変えないと本当の支援はできない、◎「健康で文化的な最低限度の生活」の実現には、国民による具体的な生活保護基準の提起が必要等の意見が出た。また、◎金沢の医療ソーシャルワーカー間での生活保護や貧困問題の共有の必要性、◎当事者に実態を語ってもらうことの必要性も取り上げられた。
今回の報告を聞いて、高齢者の最低生活の検証は、高齢者の生活全体を見なければ検証したとはいえないことを改めて感じた。また、日本だけでなく先進国の貧困対策が「就労支援」を中心としたものになっているが、ホームレスの状態から脱却して、まず何が必要なのか、当事者に語ってもらうことの重要性と必要性を考えさせられるものであった。
会員報告       長島愛生園を訪ねて
小野栄子(石川県保険医協会事務局)
2月9日・10日、愛媛の鈴木靜さんのお誘いで、河野さん、曽我さん、橋爪さん、井口さんとともに、長島愛生園を訪ねてきました。
長島愛生園は、研究会の例会でも講演してくださった宇佐美治さんがいらっしゃるところです。初めて訪れた長島愛生園は、穏やかな瀬戸内海の中にありました。本土と島の間に架かる「人間回復の橋」はわずか30メートル。想像していたよりも短かったことに驚きました。橋が掛かった意義を思いながら渡り終えると、すぐ先にまるで「検問所」のような建物があるではないですか。後で聞くとこれは「案内所」ということでしたが、早朝から夜中まで見張りがいるそうで、果たしてそこに必要なのか・・・隔離とはもう言わないまでも、いまだに「管理」の対象である療養所の姿を見た気がしました。
しかし、驚くのはこればかりではありません。愛生園内に到着し、愛生園の事務所を出ると、我々のまん前に光田健輔の胸像が立っているのです。しかもその上には「屋根」まで付いているのです。療養所では未だに彼が奉られる存在であることを改めて知りました。
患者作業で開拓された急な坂道、脇に目をやれば不器量に積み重ねられた石垣。これらの石ひとつひとつもまた患者さんの手で運ばれ、築かれたものなのでしょう。収容桟橋、回春寮、監房跡地周辺、新良田教室、これらは錆付き、床が落ち、雑草が生い茂って風化こそすれ、使われなくなったときのまま残されていました。「保存」されているのか「放置」されているのか分からない状態、それが余計に生々しく当時の様子を物語っているように感じました。また、宇佐美さんが我々にどうしても見せたいとおっしゃった邑久光明園の事務所前に立つ碑、強制収容が行われた当時立てられたものだと思いますが、そこに刻まれた言葉を読み、背筋が凍る思いがしました。「・・・一旦業病センカ其の禍九族ニ及ビ・・・」(いったんハンセン病に罹れば、その禍いは自分も含めて先祖4代、子孫4代にまで及ぶ)まるで呪いの言葉です。これが国の政策であり、絶対・強制隔離の大義名分だったのです。
このように、長島愛生園にはハンセン病隔離政策の負の遺産が数多く残されていましたが、そのひとつ「新良田教室」が来年に取り壊されるという話を聞きました。これをきっかけに、療養所はどんどんきれいな療養所へと様変わりしようとしているのではないでしょうか。確かに、負の遺産はいずれも劣化がかなり進んでいました。しかしこれらが無くなれば、当時を知る人がいなくなったとき、私たちはまた同じ過ちを繰り返すことになるでしょう。私も含め、当時を知らない世代が当時を想像し、隔離された人びとの苦しみに思いを馳せ、強制・絶対隔離政策を繰り返さないことを確認する場として、これらの負の遺産は遺していくべきです。できるなら、解体して一部を残すのではなく、今のままの状態で。
私は一歩一歩足を踏み入れるごとに息苦しくなる感覚に襲われながら、二度とこんな場所を造ってはいけないと改めて思いました。今回は1泊2日の慌しい訪問で見逃したところが多々あり、宇佐美さんのお話をゆっくりお聞きする余裕もないまま帰途についたことが残念です。次回はもっと長い期間で訪れたいと思っています。
『医療・福祉研究』第17号を読んで

橋爪真奈美「高齢者の孤独死問題と地域福祉」を読んで
曽我千春(金沢星稜大学人間科学部)
 後期高齢者医療制度の話題が世間の注目をあび、公的責任による高齢者の生活保障の後退が周知されることとなった。このようななか、高齢者の「孤独死」に焦点を当てた橋爪論文は、高齢者の生活保障についての公的責任の必要性を示唆している。
 社会福祉士という、社会保障・社会福祉のにない手の最前線に座り、実態と制度・政策のギャップを肌で感じ、「何とかしなければ」という「危機感」をもたざるを得ない状況にいてこそ、可能となる論文である。
 橋爪論文の大きな特徴として、以下の2点をあげることができる。
第一に、筆者である橋爪氏が「孤独死定義」を立てていることである。この定義は、今後の高齢者福祉施策を含む福祉施策へ大きな影響を与えることは間違いないであろう。

「孤独死」とは「年齢は問わず、ひとり暮らし世帯であるがゆえに誰にも看取られずに死に至ったもの。また、ひとり暮らし世帯もしくはひとり暮らし世帯に限らず、所得保障、医療ならびに介護等生きていく上での必要なサービスにアクセスできない、もしくは敢えてアクセスしないといった原因が基本にあった上で死に至るとき」
 
第二に、「金沢市の孤独死の実態」として、大規模な金沢市民生委員へのアンケート調査と聞き取り調査を実施している点はオリジナリティーを発揮している。「孤独死」といった場合、多くは「神戸・淡路大震災」後の仮設住宅や「地域の希薄な関係」といわれている大都市の公団住宅等において問題とされてきた。しかし、大規模でかつ綿密な民生委員への調査結果から地方都市である金沢市においても「孤独死」は発生していることが明らかになっている。そして、「地域福祉」の名にかりた公的責任の「民間・地域」への丸投げによる、民生委員の苦悩が浮き彫りになっている。
 「コミュニティ」や民生委員の「責任」が強調されつつあるなか、「地域福祉」とはなにか、民生委員の「役割」は、そして「孤独死」を防ぐための施策の確立・運営の真の責任の主体はどこに求めるべきか、原理原則に立ち返り、改めて、住民のいのちや暮らし、健康を保障する責任の所在を明確にしなければならないということを感じた。
『医療・福祉研究』第17号を読んで
会員 Y・H
今回の「医療・福祉研究17号」は、特集1「現代の格差・差別・不平等と社会保障」、特集2「能登半島地震と生活再建」の構成です。両方の特集ともそれだけで、本が何冊も書けそうなくらい大きな問題です。
まず、特集1について、最近、テレビで貧困問題を取り上げた番組もよく放送され「もやい」の湯浅誠さんや作家の雨宮処凛さんなどがよく登場します。もはや貧困問題は無視できない大問題になっています。しかし、東京で起こっていることが、そのまま石川県に起こることは無く、県内では貧困の問題があまり深刻でないような印象を受けます。金沢駅にホームレスがいるといってもそんなに人数も多くないし、ネットカフェ難民というのも都会の話といった感じです。地方では、貧困の現れ方がより見えにくくなっていると思います。
しかし、特集1では自分達の住んでいる石川県内でも確実に貧困の問題が存在するということを論じています。とくに吉原さんのホームレスの「自立支援」に関する一考察については、元ホームレスの生活問題について、きちんと調べているなと感じました。これは本来なら自立を支援すべき行政側こそが取り組むべき調査だと思いました。全国の福祉事務所で「自立支援プログラム」が進められていますが、「就労支援」という名の元に強行に「就労指導」が進められ、それ以外のプログラムはあまり進んでいないのが実態ではないでしょうか。生活保護制度を利用している人が「寝て食べる」だけでない、真に人間らしい生活を送るために、どのような支援が必要なのか考えられました。
次に特集2について、私自身が能登の出身です。地震では幸い実家は無事でしたが、同じ町内でも家が全壊したところもあって、子供のころよくいった近所のお店も更地になっていました。後継者もいないし、過疎化と高齢化で地域の将来が見えない、それに地震の被害、もう限界だったようです。能登半島の復興には地域住民の努力に加えて、国や県が復興に向けてどれほど力を入れるかが課題であると感じました。
両方の問題とも問題の大きさの前に、何をすればよいのか分からなくなりそうな状態ですが、解決のきっかけとなるような論文がいくつも収載されてる今回の医療・福祉研究第17号、是非読まれることをお勧めします。