医療・福祉問題研究会会報
NO.88
2008.9.5
第92回研究例会のご案内
日時 : 2008年9月26日(金)18時半〜21時
会場 : 金沢市松ヶ枝福祉館 4階学習室
テーマ: 『タクシー労働者との関わりの中で見えてきたこと』
報告者: 広田 美代さん (城北病院 保健師)
私が勤務する城北病院・健康支援センターは、健診・労働安全衛生管理担当部署であり、年間7千名の労働者の健康診断、及び事後フォローなどの健康管理を行っています。
IT関係から土方まで様々な業種の方々の健康管理をしている中、私が最近特に注目しているのがタクシー労働者です。
2006年の暮れ、1人のタクシー労働者が、寮で孤独死されているのが見つかりました。足の踏み場もないような汚れた部屋の万年床で、仰向けになって「あぁっ・・」というような表情で、2日後に発見されました。
その事件を皮切りに、月に1回その事業所に保健師が出向くなど、タクシー労働者の方々の健康や生活の相談により一層力を入れています。
 その中で見えてきた、タクシー労働者の多くが抱える問題点と、そのもとになる社会的背景を、事例を交えて報告します。
 聴くと、タクシーに乗るのが少し怖くなってしまうかもしれませんが、ぜひ多数の方のご参加をお待ちしております。

※ 当日、17時より例会開催予定の学習室にて事務局会議を開催します。
ご都合のつく方は、あわせてご参加ください。
2008年度研究会総会報告
事務局 横山寿一
 7月26日、金沢市松ヶ枝福祉館において2008年度研究会総会を開催しました。当日は、会員の所属するいくつかの団体の企画と重なったこともあり参加者は多くありませんでしたが、今後の活動について活発な議論が行われました。
 総会では、最初に横山世話人から「2007年度の活動報告と2008年度の活動計画(案)」、広田世話人から「2007年度決算と2008年度予算(案)」、河野世話人から「雑誌会計報告(案)」がそれぞれ報告され、一括して議論が行われました。
 研究例会など今後の取り組みに関連して、石川県とも協力して県下の医療・福祉の実態を広く取りあげたシンポジウムを開催してはどうか、生活保護自立支援プログラムの現状と問題点を全国的な動向をも踏まえて議論してはどうか、福祉養成校が深刻な事態になっている、人材養成の問題を取り上げたらどうか、30歳代・40歳代の若年者の孤独死が広がっているので孤独死問題について議論したいなど、具体的な提案が相次ぎました。これらのテーマについては、シンポジウムの開催も含めて世話人会で議論し具体化することになりました。また、震災調査について、井上会員から金沢大学として能登の復興に取り組む研員が採用された旨の紹介があり、今後、研究員とも協力して調査を継続できること、当面、東北震災調査、中国四川震災調査が予定されていることが紹介されました。 
 さらに、来年度に全国組織の大会・研究集会が石川で開催されることから、研究会への協力要請がありました。具体的には、井上会員から全国老人福祉問題研究会の全国研究集会(10月〜11月)、中村会員から全日本視覚障害者協議会全国大会(6月12〜14日)の開催についてそれぞれ紹介と協力要請がありました。研究会としての参加の形態については、具体的な要請を受けて検討することとしました。
 なお、2007年度の活動に関連して、震災調査の取り組み、小川研究会の取り組みなどが紹介されました。また、財政に関連して、会費未納者への雑誌配布の見直し、雑誌編集に関わる諸経費の計上と個人負担の解消などの意見が出されました。これらの点については、世話人会で議論し、必要な改善を行っていくこととなりました。
 総会に引き続いて、総会記念シンポジウムが開催されました。その内容については、別途紹介していますので、参照ください。        
2008年度総会記念企画報告
「高齢者医療を考える―後期高齢者医療制度を徹底検証する―」
城北病院 筒井司郎
7月26日 土曜日、金沢市内の松ケ枝福祉会館において、医療福祉問題研究会の総会記念企画として、「後期高齢者医療制度」をテーマに、シンポジゥムを開催しました。
まず、司会の横山寿一氏(研究会事務局長)から、今回のシンポジゥムに取り組む意義として、それぞれのシンポジストの方々へ依頼した課題について紹介しました。
理論・運動を含む社会保障の研究者である、寺越博之氏には、制度自身の特徴と問題点を。医師である原和人氏には、「制度の提供する医療の内容」について。医療行政の最前線で活躍されている西川信一氏には、行政当局に寄せられている、高齢者の生の声を紹介などが提起されました。
一番手の、石川県社会保障推進協議会の寺越博之氏は、後期高齢者医療制度の概観と問題点について報告がありました。この報告の中で寺越氏は、保険者が「広域連合」という、自主財源を持たない、責任主体として曖昧なものであることや、年金からの天引きという強制的な徴収方法であること、そもそもの問題として、高齢者を75歳以上を分岐点として分ける合理性か無いことなどを指摘して、こういう制度は廃止すべきだ、と主張しました。また、財政論からの、こうした制度の必要論に対して、世界的に見た、日本の医療制度の優位性を守ることの重要性や、必要性・緊急性に疑問がある大型公共事業に大きな財政支出があることや、不況時に導入された、大企業への課税軽減処置が景気回復後も続けられていることを指摘して、財政支出の優先順位として、社会保障関連費を最上位に置くべきだとのべました。
二番手は、市内の金沢市内の民間病院に勤務する原和人氏です。医師の立場、医療現場からみた「後期高齢者医療制度」の提供している「医療」の問題点について報告しました。
原氏はまず、この制度の元になった、医療「改革」関連法の成立後の社会保障制度審議会の議論について紹介し、この中では、財政論的な議論もされているが、高齢者の尊厳に議論や75歳以上を区分けすることへの疑問も出されている、しかし、後期高齢者医療制度の提供する「医療」には、診療報酬上から見た限り、そうした議論は全く生かされているとはいえず、後期高齢者医療制度というものが政府の中でも「異常」なものになっているのではないかという点を指摘しました。そして、診療報酬という点から、この制度の主柱となっている「後期高齢者診療科」について、詳しく説明されました。特に後期高齢者診療科が、主病を一つしぼることの問題点を厳しく指摘されました。
また、各方面から激しい批判を受けている「後期高齢者終末期相談支援料」については、死と向き合っている人間の尊厳を侮辱するものに他ならず、「私の勤務している病院では、絶対に算定しない」と明言しました。
最後に、この制度は高齢者の医療に様々な差別を持ち込むものだと断罪し、寺越氏と同様、廃止すべきであると結論づけました。
三番手の、西川信一氏は、金沢市の職員として、法制定から制度実施までの2年間の準備に当たってきた方です。このあいたの説明会などで、多くの高齢者の方々と接した経験を中心に報告されました。
まず、広域連合について、本来なら国民健康保険の様に、自治体レベルで保険者となるべきだが、保険料が自治体ごとに大きな差が出る恐れがあり、県も保険者になることを躊躇したため、保険料を平均化するためにも、「広域連合」という方式とならざるおえなかったことを説明しました。そして、制度が複雑で、説明する側の人間でも、相当の勉強を重ねて、やっと理解できる状況で、一回の説明会で、当事者である高齢者の方に理解を求めることは、そもそも無理があることや、どこの説明会でも、当事者の方から出される質問は、「自分の負担はいくらになる」ということばかりで、高齢者の方々の不安というものを痛切に感じたことを話されました。
そして、多方面からの批判を受けて、運用面での変更が成されていることについて、一時的な処置としては有効かもしれないが、問題があれば、法改正での対処を原則とすべきだとのべられました。
三人の方の報告の後、研究会事務局のメンバ―から、現在の日本の医療制度を考える参考として、アメリカ、ドイツ、イギリスの医療制度と比較検討するミニ報告がありました。詳しい内容については省略させていただきますが、65歳以上を公的医療の対象としているアメリカの例はあるものの、日本の後期高齢者医療の様な制度は他に例をみないのは、明らかの様です。討論では、当事者となっている75歳以上の方をはじめ、医師や、長期療養経験のある方など、様々な発言があり、終了時間を30分近く延長することになりました。
ただ、残念なことは、参加者が30人余りと少なく、宣伝方法などで、検討の必要があることも痛感させられました。報告者の皆さんや、準備や当日の運営に当たられた事務局の皆さんに深く感謝いたします。
行事案内  「第3回 石川県社会保障学校」
日時:9月21日(日)10;00〜16:00
場所:石川県生涯学習センター
参加費: 500円(資料代)
◇分科会 10;00〜12:00
@貧困・格差の現状と打開にむけて
A地域医療・高齢者の医療と介護
B健やかに子どもが発達するために 
◇記念講演 13:00〜16:00
講師 湯浅誠さん(反貧困ネットワーク事務局長)
テーマ 連帯と共同の力で貧困を絶滅しよう