医療・福祉問題研究会会報 NO.90 2009.1.26
第94回研究例会のご案内
日時 : 2009年2月14日(土)15時半〜17時半
会場 : 労済会館 金沢市西念1丁目12-22(tel 076-223-5911)
テーマ: 『韓国、小鹿島とドソン定着農園を尋ねて』
報告者:  莇 昭三さん(城北病院 医師)
昨年夏、莇さんは韓国・ソロクトを訪問されました。
莇さんが訪問したソロクトには、日本が朝鮮を植民地にしていた時代に建てられた「小鹿島(ソロクト)更生園」という、ハンセン病療養所があります。植民地に住んでいたハンセン病患者は強制収容、強制労働、断種堕胎の強制、恣意的処罰など、日本と同様の被害を受けた上、さらに「隔離」と「民族差別」の二重の差別を受けたと言われています。現在もなお700名を超える方がここで生活されており、この中にはハンセン病補償法(2001年制定)に基づく補償を求めて提起した「ソロクト訴訟」の原告の方々もいらっしゃいます。
今回の例会は、医師としての責任を自らと社会に厳しく問い続けてきた莇先生の報告です。たくさんの方にご参加いただきたいと思います。

※ 例会に先立ち、石川県社会保障推進協議会、いしかわ自治体問題研究所、医療・福祉問題研究会主催の「2009年新春社会保障講演会」が、同会場で開催されます。2月14日(土)は新春社会保障講演会から研究例会まで、万障お繰り合わせのうえご参加ください。
※ 例会終了後に事務局会議を予定しています。
第93回例会報告
『公的年金制度と社会保険庁改革の問題点について』
金沢福祉専門学校  冨家貴子
12月20日の例会では、密田逸郎氏による、標記の報告、質疑応答が行われた。密田氏の報告は、公的年金制度はそもそも誰のために、何のために制度設計されてきたのか、という根本的問題から改めて問いかけるものであった。
1960年、国民年金を創設するにあたっては、保険料の額をどうするか、集めた保険料をどのように使うかに議論の中心が置かれた。その背景には、高度経済成長期に向け、長期経済計画に年金問題を組み込み、保険料を投資に利用するという目的があった。そして、保険料を高く設定し、無業者・専業主婦を排除し、免除制度を使って保険料納付率は全体の60%とした。皆年金と言いながら、被保険者の40%を最初から排除していたのである。
厚生年金は、1941年の労働者年金保険法の成立によって創設された年金制度であるが、保険料は戦費調達に使われた。戦中、厚生年金の記録は、300万人分を413名の職員で作成・管理していた。戦後、加入者は1000万人に増加したので、本来、記録の作成・管理は3倍に増やさなければならないが、増えたかどうかは不明であり、1割程度は事故があったのではないかとされている。そして、1959年、行政管理庁は年金記録が不備と勧告した。戦中の記録はコンピュータに入っておらず、空襲で記録が焼けてしまったりしており、記録の確認作業に手がつけられていなかったのである。勧告を受け、1969年厚生年金改正法で、2万円年金実現とともに、記録管理の不備に対して、1957年9月以前については、年金資格取得日と喪失日の確認のみ行い、全ての被保険者の標準報酬月額を1万円にすることで対処した。これに対し、社会保険審議会では、二度とこのようなことをすべきでないとの答申が提出された。
国民年金創設時、前述のような厚生年金の教訓を活かさなければならないが、実際は活かされなかった。国民年金は本来国で記録管理をすべきだが、大蔵省は費用のかからない方法でと、市町村、都道府県、国の3者で行うという三層構造をとった。これは、後に年金記録が国で一括管理されるとき、記録が漏れる可能性を含んでいたのである。しかも、国民年金の保険料徴収は1961年から始まったにもかかわらず、記録管理事務の実施に入ったのは、1965〜1967年頃である。
今、年金記録管理問題の原因が何なのかを追及しないまま、社会保険庁改革が進められている。日本年機構法には、年金保険料の流用について上限がなく、また、日本年金機構に移行する際は、現職員を一旦解雇した上、人数を削減して再雇用する形になる。これは、複雑な年金制度を知る職員を削減し、社会保障責任を放棄することになる。そして、年金業務の民間委託について、3〜5年ごとに入札制度によって業者が入れ替われば、現在の「消えた年金」問題が再び起こる可能性が非常に高い、というものであった。
例会の最後に、司会の方の「年金記録の不備で、年金が遡及支給された高齢者がいたが、本来支給されるときに支給されていたら、その方の人生が変わったかもしれない。年金問題は人権問題である」という発言が強く心に残った。
会員レポート
四川(?川)大地震調査に参加して
金沢大学大学院人間社会環境研究科 井口克郎
 去る2009年1月3日〜9日、井上英夫団長を筆頭に金沢大学と医療・福祉問題研究会のメンバー計7名で中国を訪れ、四川省・?川大地震の調査を行った。現地では震災直後から支援活動入りし精力的に活動しているCODE(海外災害援助市民センター)のメンバーの吉椿さんや、金大大学院の修了生で中国の大学で教職についている娜拉さん、劉晴暄さん、劉綺莉さんらの案内で、被災地の視察や被災者および支援活動をしているNGO、研究機関を訪問し、聞き取り調査や議論を行った。
現地調査初日に北川県城と周辺の村を訪れた。北川県城はほぼ震源の断層上に位置し、山に囲まれた窪地に位置する街である。街全体が地震で崩壊して多くの犠牲者が出た上、地震後にも土石流に見舞われた。未だ瓦礫の下には収容されない遺体が埋まったままである。政府はすでに同市街地を立ち入り禁止にし、街全体を別の場所に移転することを決めている。その後も被害の大きかった綿竹市周辺でも被災者や支援団体に聞き取り調査を行った。政府や外部からの支援による仮設住宅もある程度建設されているが、それでは足らず、まるで被災した直後であるかのような瓦礫の村落の中に、人々がテントを張ったり仮設の小屋を作ったりして生活をしている。犠牲者数、被災した地理的範囲など、何もかもが阪神・淡路大震災の10倍というこの地震の被害に愕然とした。
しかし、このような甚大な被害にも拘らず聞き取りを進める中で驚いたのは、地震後わずか8ヶ月しか経っていないのに、被災した人々が自分たちの村の将来についてかなり明確なビジョンを持ち、復興にむけて取り組んでいることである。中国4大刺繍のひとつである四川の蜀繍で村の復興をしたいという刺繍師範の鐘さん(22歳・女性)。ウサギの養殖や有機野菜の栽培を広めて地域を復興したいという賈さん(24歳・男性)。しかも今回の調査で出会ったこれらの人たちは皆若いのである。被災地の若者たちが中国内外のNGOらの支援を受けて、主体的に自分たちの村・地域の復興をになっていこうとする姿は非常に印象的であった。
 今回の調査で出会った人たちと今後も交流を深めていくことを約束してきた。今回の調査を、能登と阪神・中越・宮城などの国内のネットワークを超えて、同じ問題を抱える人々が国境を超えてつながるための良い足がかりとしたい。
横山壽一(事務局・金沢大学地域創造学類)

 明けましておめでとうございます。今年は、日本にとっても、世界にとっても、そして社会保障にとっても大きな転換点になりそうです。
アメリカ発の金融危機・経済危機は、市場と競争を最優先するグローバリゼーションとそれを推進する新自由主義路線の破たんを露わにしました。日本では、雇用問題の深刻化、貧困格差の広がり、地域経済・地域医療の崩壊現象など、2006年あたりを境にその破たんが具体的な姿をとって現れ、小泉流「急進改革」路線は、修正を余儀なくされてきましたが、世界的な金融危機・経済危機でそのことが一層明確になってきました。日本政府は、外的ショックを受けた被害者のように振る舞っていますが、アメリカと一緒になってグローバリゼーションを推進してきたのが日本であり、その意味で危機をもたらした張本人でもあります。しかも、国際競力の強化を悪戯に求め、国内市場を縮小させて日本経済を外需依存の脆弱な体質にし、日本の危機を一層深刻なものにしたのも日本政府であり、その責任は重大です。
 構造改革の破たんが明らかになるにつれて、政府・与党内部での矛盾と抗争も激しさを増しています。選挙を前にしているだけに、一層激しさを増しています。社会保障分野でも、2200億円削減を、表向きの看板はそのままにして実質的に変更せざるを得なくなりました。そうした潮目の変化は、医師増員への方針転換、後期高齢者医療制度の見直し、障害者自立支援法の見直し、保育制度「改革」の先送りなどによっても確かめることができます。
 しかし、政府・与党、財界が自ら進んで構造改革を中止し、率先して社会保障に予算を振り向けてくるなどという期待はできません。社会保障で生じている変化も、国民の粘り強い運動があってこその成果です。政府は、構造改革がもたらした社会保障の「ほころび」を手当し機能を強めるかのように装いながら、構造改革の戦略的課題のひとつである消費税増税と社会保障の一層の効率化を強行しようとしています。その意図を見抜き、真の社会保障の充実を求めていく取り組みを強め、新しい潮の流れを手繰り寄せて構造改革路線に決着をつける、これこそが私たち国民の今年の最優先課題です。
医療・福祉問題研究会も、研究・調査・政策提言などの活動を通じて、そうした取り組みの一端を担えればと思います。今年もよろしくお願いします。
新春 会員メッセージ
道見藤治(金沢市障害者施策推進協議会委員)

私の担当の訪問看護師さんはこれまで年々仕事量が増えていると捉えています。私は毎年これで限界と感じてきました。けれども昨年は山のエッセイをこしらえる余裕がありました。
 今年はまだどれだけ仕事があるのか不透明ですので、遊ぶ余裕があるのか見当がつきません。でも先々の見通しを早く立てています。5月頃に「障害のある人の就労の問題」をテーマに研究例会を催す予定で、お膳立てを画策しようとしています。6月以降に、さいたま市のやどかりの里で講演会を催すことが決まっています。
 仕事を見い出す先見性とそれを首尾よくこなす実行力の管理能力が問われていると思います。まずは1月が超多忙ですので、それをこなして、その勢いでもって頑張りたいです。
事務局短信
◎ 第10回小川著作集を学ぶ会 
2009年2月6日(金)午後6時30分〜  松ヶ枝福祉館にて
◎ 2009年度新春社会保障講演会
日時 :  2009年2月14日(土)13:00〜15:00
場所 :  労済会館ホール
講 師:  都留民子さん(県立広島大学教授)
テーマ :  「フランス労働者の働き方と暮らし 」
主 催 :  石川県社会保障推進協議会、医療・福祉問題研究会
     いしかわ自治体問題研究所
後 援 :  金沢あすなろ会(多重債務被害者の会)
       北陸クレ・サラ・ヤミ金、商工ローン対策会議