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第74回研究例会報告
鈴木 静(愛媛大)
 

1月29日、障害部会担当の初の例会が開かれ、35人以上の多くの人が集まりました。テーマは「障害のある人が地域で暮らすことと法制度」で、これまで障害部会(通称DON3)が、準備を重ねてこられたそうです。
第一部は沼澤千加さんの「もりちか珍道中日記」、第二部は井上英夫先生「『固有のニーズ』をもつ人と人権保障」でした。第一部では、ダウン症である娘さんを育てられてきた沼澤さんの、娘さんの出生から療育機関に通った経験、地域の小学校入学から卒業まで、子どもを支える視点や現実、中学校卒業後から現在まで保育所で「ちょっと」働きをしていることを通じ、地域で暮らすことの意味、保護者の視点から見た学校制度やこれまでの活動についてお話されました。なかでも印象的なのは、沼沢さんたちがやってきた運動は、障害のあることない子を分けないことを原則としてこられたことです。これまでの教育現場では、常に「能力」によって障害のある子が分けられてきたが、沼澤さんはその「能力」の捉え方はおかしいといいます。「能力」とは、それぞれ個人の内側にあるもので、それは優先順位や状況によっても異なるものであり、社会の中では折り合いを付けていくような人間関係の中にこそ存在すると言います。それが発揮される場所は、どこかではなく、今いる場所でありそこを居場所につくっていくことであると強調されました。
第二部では、沼澤さんの話を受け、井上先生が障害のある人や子どもの人権保障を考える際の原理・原則について話されました。人権保障を考える際に重要なのは、原理・原則であり、そのための法の仕組みとその中身を充実させていくことだと強調されました。保障と擁護の違い、「特別」と「固有」ニーズの違い、差別と区別の違い、機会の平等と結果の平等の違い等、具体的かつ重要な事柄の説明を通じて、人権保障の原則を確認されました。原理・原則がしっかりしているから、現実のなかでは柔軟に対応できること、金沢市では「障害者」計画『ノーマライゼーションプラン2004』が策定された段階で、今後これに対して障害のある人や保護者、関係者に活用してほしいと話されました。これらの報告を受けた質疑応答では、保護者の方から子育てや教育現場の中で原理・原則を貫き続けることの難しさや悩みなどが出され、報告者のほか参加者からも経験を踏まえた貴重な発言がありました。教育の場面では教育基本法の改正、社会保障の場面では介護保険と支援費の「統合」など現実には、障害のある子どもや人々にとって厳しい現状にある中で、原理・原則の大切さを確認しあった例会でした。
その日の飲み会では、沼澤森絵ちゃんの成人式のお祝いをしました。沼澤さんと森絵ちゃんがお互いを尊重している関係がよくわかり、また着実に大人の階段を上っている森絵ちゃんのたくましさを感じました。とても楽しいひと時でした。

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