「第15回社会福祉研究交流集会に参加して」
  第15回社会福祉研究交流集会に参加して
文責:道見 藤治

 8月末に大阪で第15回社会福祉研究交流集会があり、私も参加させていただきました。拙い感想ですが、若干述べたいと思います。
私はこの集会にどのように臨むべきか迷っていました。というのは、障害のある人の就労支援を考える任意のネットワーク、金沢を中心とした「しゅうけん」の会合に出て、いかに実践が大事か痛感していたばかりだったので、果たして研究者の集まりでどのようにエッセンスを吸収したらよいか、戸惑っていました。

 1日目の講演・報告を聴いて上記の懸念は吹き飛びました。理論武装をしなければ、とんでもないことになると気付きました。

 記念講演の神戸女学院大学の石川康宏さんのお話によると、社会保障に廻す財源は、取れるところから取って、ムダをなくせば十分確保できると判りました。また、国家予算の使い方は、政府・与党の意思決定によることに他ならないと判りました。

 とかく、社会保障の充実には財源をどこに求めるかといった議論では、それは消費税の増税でまかなうべきとの短絡的な構図はおかしいと思います。構造改革のあおりで公共事業の投資が減って景気浮揚の抑制がかかったとの見方もありますが、社会保障の充実を図った上で、国民の消費が伸びる道筋をきちっと提示すべきと思います。かつて消費税の増税により、景気が悪くなったことを検証すべきと考えます。

 特別講演の同志社大学名誉教授、小倉襄二さんのお話で憲法9条、25条を堅持しなければならないとあらためて思いました。憲法改「正」の動きは9条だけに留まらず、生存権を保障する25条にまで手を伸ばして、暮らしを圧迫することも狙っており、大変危険だと思います。また小倉さんの言われる永く生きてきたものの責任も共感できました。

 基調報告の佛教大学の加美嘉史さんからは「ほんまもんの福祉」の実現をめざしてと題して、判り易い現状の報告がありました。若い人へのメッセージもありました。

 総じて1日目の企画はお腹の膨れるものでした。
 2日目の分科会は第3分科会「障害者・家族の貧困と真の自立を問う」に参加させてもらいました。これにはいささか不全感を持たざるを得ないものでした。その理由は、逼迫した障害のある人、家族の貧困の切実な状態を議論する展開を描けなかったこと、1日目の講演・報告とのつながりがよく見えていなかったことが要因に挙げられるかと思います。
 フロア発言がありましたが、個人的な問題意識に留まって、お腹の膨れる意見交換にはならなかったように感じました。またフロアから報告者に当事者を立てて欲しかったという意見もありました。

 そんな中、研究者からはいくらか問題提起がありました。助言者の立命館大学の山本耕平さんからは、実践が危機の状態に置かれていて、余裕がないこと、集団形成が困難な状況にあるとの指摘がありました。またかつて共同作業所を作る運動の歴史があったが、現状では施策そのものによって当事者と支援者が引き裂かれているとの意見がありました。問題提起として、生活がどうなっているのか事実を見よう、福祉は権利であるといったことが示されました。
 また、佛教大学の鈴木勉さんからは、政策課題として問題を受け止めよう、障害者自立支援法などについて、契約制度はメスを入れざるを得ない、対案を用意する必要があるとの問題提起がありました。

 現場実践の危機というキーワードを受けて、私から次のような発言をさせてもらいました。前述の「しゅうけん」において、就労支援ではより具体的に機能するネットワークの構築をやりたいという機運が盛り上がっていると述べました。すなわち障害のある人の情報とこういう仕事があるのだけれどといったニーズをうまくドッキングさせる情報交換をやるとよい、そのような合目的な配慮でもってネットワークを機能させたい、そのために何か法人格を持たねばならないのかな?と検討段階に入ろうとしている、以上のような内容です。

 障害者自立支援法が登場する少し前、遅れていた精神保健のフィールドでも有意義なサービスが準備されつつありました。この時期、本当に自立支援法が必要であったのか疑問視されます。利用料を取る方向に至ったのはおかしいと言えます。自立支援法後でも、旧法のままで移行をためらっている良心的な事業所もあります。

 今回の参加を通じて、実践と研究の両輪がうまくかみ合い、融合させていく努力をしていかなければとあらためて思いました。現場実践をされている関係者は理論の裏づけとして研鑽を重ね、研究者は福祉の現場で起こっている事実の掌握が必要だと思います。その融合を図るためには、仲立ちをする人の草の根的な行動が大切かなと思います。

 福祉の原点は運動であると全体会のまとめにもありました。折りしも政権交代がありました。福祉の舵取りを誤らずにしていくことが大切と思います。
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