地域からの発信 住みなれた地域で安心して老いるために ヽ 宅老所「駒どりの家」からの報告 神 生 昭 夫 |
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(1)安心して老いられる街をめぎして 神戸市長田区南部は5人に1人が高齢者で、しかも一人ぐらし老人が多い。「自分たちの将来はどうなるのか」との心配が話しあわれ、1985年に「街の中に特別養護老人ホームを市有地の提供で」の運動が始まり、1990年に市の車庫跡地提供で特養ホ「ム建設が実現した。 この特別養護老人ホームの委託先の公募がされ、私たちも神戸福祉会をつくって手をあげたが実績がない、資金力がない、法人でないなどの理由で外され、既存の社会福祉法人が受託した。しかしこの運動の成果として、市の土地の無償提供制度の実現、市街地での特養ホームの実現という二つの成果があった。 私たちはこれで「安心して老いられる街」づくりは終わっていないと、1990年12月から一人ぐらし老人の給食サービスを始めた。場所は借家で家賃6万円、毎週木曜日に9畳の部屋と6畳の調理室で開始した。 給食サービスを始めてみると、地域に痴呆性老人を抱えて困惑している家族と苦難な暮らしに戸惑っている痴呆性老人が見えてきた。 そこで、1991年12月から痴呆性老人の宅老所を始めた。最初は昼食会の家の向いの家を借り(家賃2万円)、11.5畳のデイケア室、6畳の土間、4.5畳の調理室で毎週木曜日に実施し始めた。1992年12月からこの昼食会の家で曜日を変えて宅老所も開始した(昼食会は木曜日、宅老所は水曜日に)。 しかしこの借家も3年で返さなければならなくなって、1994年2月9日、古家を購入して現在地で開始した。昼食会は木曜日、宅老所は水曜日に。 ところが1995年1月17日、阪神大震災に遭遇。屋根瓦が落ちたが、建物は補強していたので健気にも残った。2月13日から再開して緊急デイケアとして「心の安らぎのケア」を3月末まで日曜日・休日以外の毎日に実施。3月中頃にガス・水道が回復するまでは、食品はもちろん水とガスの殆どを全国からの救援物資で行なった。 この期間に全国からの支援ボランティア364人、駒どりのボランティアも全壊半壊の被害を受けながらも延ベ343人が活動する。ボランティアたちは活動することで震災のショックから立ち直った。1995年4月1日から宅老事業は水曜日と金曜日の週2回実施する。その後、知的障害者の共同作業所を併設したが、1995年10月から共同作業所を中止し、宅老所を月・火・水・金曜の週4回とした。震災後の毎日の活動が社会的に高く評価されて、義援金や救援物資などの支援を全国からうける。 震災後地震の際の共同活動などをきっかけにして、駒どりの家と、特養ホームづくり運動の母体の一つであった神戸医療生協との間で、社会福祉法人を設立しようとの話し合いを重ねる。 1996年6月に新法人「駒どり」準備会が発足し、神戸市、兵庫県と協議を重ねる。1997年8月神戸市より社会福祉法人「駒どり」の認可を受け、9月1日法人登記完了。単独型デイサービスとして初めての法人認可を受ける。1998年2月デイサービスセンター「いたやど」を開設し、神戸市の事業委託をうけてデイサービス事業B型として発足。「駒どりの家」はボランティア部門として活動を継続している。 (2)始めるに当たっての問題 このような活動は一人ではできない。3人集まれば核ができる。核ができれば呼びかけができて、十数人が集まる。十数人集まれば出発できる。 昼食会のボランティアは、運動の中心になった人たちと駒ケ林の地元の人たち。宅老所のボランティアは、この運動の中心になった人たちと、新しく介護のボランティアに応募した人達。元保母、児童館の元指導員、元教師、その他いろんな人たちが集まった。 数人集まれば、始められる。始めれば、いろんな人が集まってくる。 @ 素人でできるのか 専門家もいないのにできるのか?素人でできるのか? 人生の同じ仲間として考えれば何とかなる。同じ仲間、同じ目線でつきあうことだ。はじめは素人ばかり、それでもできた。経験しながら介護の仕方を作り上げていった。実績を積む中で、病院との連携ができてくる。 いろいろなボランティアが参加してきた。踊りの先生、大工さん、字や絵を書く人、午前だけの人、午後だけの人、話し相手に午後2時間くる人、調理だけの人、知的障害者。高齢の人でも傍にいるだけでも立派なボランティア。 今では毎日のようにくる人が数人いる。94年9月から退職した看護婦がボランティアに参加した。 A 運営費はどうするのか いろいろな設備・器財・備品は、最初は古いものや不要品を貰って始め、活動しながら助成を得て順次整備していった。始めから整ったものではなかった。初めから完璧を求めていたら、何事もすすまない。 利用料と自治体や社会福祉協議会からの助成と、器具備品、建物の修繕などは福祉活動への助成団体に申請して助成を受ける。社協と相談し、連携を密にする。 木曜日の昼食会と水曜日の宅老所の週2回の給食サービスの助成をうける。ガス台、流し器具、調理台、冷蔵庫、エアコンや入浴設備、改装費等の設備備品の助成をうける。 95年4月から入浴サービスの助成をうける。一人について月2回、1回3000円(公的なデイサービスの利用者は適用外)。 B 利用料はいくら7 利用料は地域の実情によって違ってくる。利用希望者に試案を提示相談しながら金額を決めてきた。91年12月〜94年1月まで、食費込み1000円。94年2月〜95年1月震災まで、食費込み1300円。 95年2月13日〜2月29日の閏、震災による緊急デイケア(毎日)と入浴サービスを開始、利用料無料(95年3月末までは食費代のみにて実施)。 95年4月1日から、食費と入浴込み1500円、宅老日を水・金曜日の週2回へ。 95年10月から、食費と入浴込み1500円で、宅老日を月・火・水・金曜日の週4回の実施へ。 C 場所をどうするか *普通の家でもできる 利用者の住みなれた家や生まれ育った家に近い所が一番よい。普通の家だと違和感がないので、すぐ馴染んでもらえる。見学者は「駒どりの家」を見て「これでいいんだ。これなら自分たちでもできる」と確信をもって帰られる。 最初は10畳の部屋でデイケア、利用者6〜10人、1年間。翌年から9畳の部屋でデイケア、利用者8〜13人、2年間。現在は、19畳でデイケア。 *家庭的雰囲気をつくる 障子、ふすま、たんす、食器棚、テレビ、ラジカセ、カラオケ、こたつ、座椅子、車つき椅子、本箱、押し入れ等利用者の家庭生活の延長を重視。利用者が異和感を持たないように、利用者の育ったころの家に近づけることが大切。座るも腰かけるも自由、はいまわり歩きまわるも自由、車椅子のままもオーケーに。家への出入りも自由、地域の人も出入り自由、不意の来客も見学者も大歓迎。来客が一人増えれば、それだけその日の暮らしが豊かになる。それだけ多くの人たちの理解が深まる。 *トイレに手すり、段差にスロープ 必要なところに手すりをつける。段差があればスロープにする。 D 遇1固ならどこでもできる 宅老は月1回より週1回がやりやすい。地域の生活は週間のサイクルで動いているので、そのくらしのサイクルに組み込める。始めから週一回だったので、それに合わせてボランティアが集まってきた。 (3)「駒どりの家」は地域住民の支えあい 「駒どりの家」は、地域住民による支えあいですすめられている。一般のデイサービス施設と違って、地域住民の主体的な活動として行なわれている。 @ サービスの種類 老人デイケアと一人ぐらし老人の給食サービス、配食サービスである。 デイケアは、健康チェック、入浴、昼食、生活リハ、散歩、その他個人の特性に合わせた処遇をしている。一日10人、痴呆性老人、身体障害のある老人、虚弱な老人。送迎は家族がするが、一部はボランティアが送迎もしている。 給食サービスは、65歳以上の一人ぐらし老人と高齢者世帯の必要で希望する人に行っている。 A 利用日 デイケアは、月・水・金曜日である(火曜日は当分休みであるが利用者の状況に応じて実施、日曜日・休日は検討中)。朝9時から午後5時まで。 給食サービスは、毎週木曜日、11時半から12時半まで受付。参加できない老人の一部に利用者による配食をしている。 B 住民のボランティアで 家族は介護の素人だから、相手から必要な事を学び、経験を重ねながら、専門家からも学びなから介護方法を身につけてゆく。専門家も初めから専門家ではない。相手から学びながら介護方法を身につけている。介護の必要な人たちは、それぞれ個性があり、その人の特徴や特別の障害がある。当然その違いによって介護方法も違ってくる。介護者は、相手の状況から学びながら、その人にとって必要な介護をしている。 地域住民にとって何が出来るかは、住民ボランティアの構成によって変ってくる。住民にとって一番できやすいのは、高齢者の見守り、傍にともにいること。ともに過ごし、相手の話しに耳を傾け、話せなくなっても傍にいて心に寄り添い、心を分かちあうことならできる。傍にいるだけでも立派なボランティア、傍に人がいてくれるだけで利用者の心が和む。そこから自然なふれあいが自然にできてくる。 障害を持った高齢者は、自分から能動的に楽しい仲間づくりが出来なくなっているのだから、元気な高齢者が傍にいてくれると、楽しく一日をすごすことが出来る。お互いに同じ人間の仲間として、同じ目線で心を寄せあい心を分かちあうことが出来る。ボランティアも利用者もともに楽しくすごすことによって、利用者にとって心地よい環境が出来るし、楽しく生きいきすごせるようになる。 駒どりの家は、利用者にとっても地域の高齢者にとっても、そこが居場所になっており、心安らぐ場所であり、生きがいの場所になっている。そして何より駒どりの家は、介護の必要な人を地域住民で支える「大家族の家」になっている。駒どりの家にこられる人は、利用者であろうと、ボランティアであろうと、不意の外来者であろうと、見学者であろうと、そこに来れば、駒どりの家の「家族」の一員なのである。利用者もボランティアにとっても、もう一つの「家」、もう一つの「家族」なのである。 (4)家庭的雰囲気で高齢者の居場所をつ くり、「安らぎ」の心のケア *利用者が主役 一言語障害があっても読書の楽しみをとりもどしたAさん。 *徹底した家族的な対応 −ともに支えあって90歳と85歳の一人ぐらしを支える。 *受容的で暖かい自然体 一重度の情緒障害から自分をとりもどした痴呆のYさん。 *自己決定をサポート ー俳桐するCさんとともに歩いて穏やかな生涯を支える。 *ともに楽しくすごす −ともに踊り、ともに歌って、痴呆性老人の居場所をつくる。 *開放的でのびやかに −84歳の一人ぐらしの痴呆性老人を支え、最後をみとる。 *心を分かちあう −いつも感謝の心を忘れない97歳Mさんから私たちは人生の生き方を学んでいる。 (5)明るく楽しい生きいきした ボランティア仲間 ボランティア集団のありようが、利用者のすごし方に大きく影響する。受容的で尭容と包容力のある明るく生きいきのびのびしたボランティア仲間づくりが、よい宅老所づくりの決め手になっている。 最高82歳のボランティアが週2回活動している。曜日や活動時間も、本人の自由であり、来れる日に、来れる時間帯で活動する。週1回の人、週2回の人、週3回の人、毎日の人。全目の人、午前の人、午後の人、1〜2時間の人。月に1〜2回の人、必要な時に来てくれる人。いろんな人たちがかかわっている。 一人増えるとそれだけその日の生活がその分だけ豊かになるという考え方で、どんなボランティアでも大歓迎、見学者も大歓迎である。 活動の種類は、調理、介護、庶務等で全員が主役。介護は、入浴介助、車椅子介助、トイレ介助、食事介助、歩行介助、散歩付添い、話し相手、歌や踊り遊び、将棋等の相手。何もできなくてもよい。傍にいるだけでも立派なボランティア。心を寄せあい、心を分かちあうことなら誰でもできるのだ。 利用者の心安らぐ「場」になるには、よいボランティア集団の支えが必要である。そのようなボランティア集団には次のような5つの条件がある。 @ 横ならぴで、平等の人間関係 指示命令型の取り仕切り屋はいらない。ボスや殿様や王様や指揮官をつくらない。指示や命令はしない。自発、自主、自律で、いつも創造的創意的に。 A 出来ることで出来る時間に参加し持味や特技を清かす 参加の時間や曜日を指示・強制しない。あくまで本人の自発・自主・自律で。お互いに相談、依頼、融通、支援、協力、協調で。 B プラスの評価で、プラスの思考で マイナス評価はしない、前進的に考える。受容的な、優しく暖かい包容の人間関係で。互いの喜びと感謝と、配慮の支えあいで。受容、ねぎらい、感謝で、各人の存在感と充実感を互いに配慮しあう。いつも笑顔を忘れず、笑顔には笑顔で、ともに楽しく。 C 全員が主役、明るく楽しく生きいきと 開放的でのびやかに。一人ひとりが生きいきと、楽しくしてこそボランティア。 D リーダーの役割 ボランティア集団でのリーダーの役割は大きい。リーダーのありようが集団の善し悪しを決める。ボランティア集団は、ほかの社会組織と違って、社会的義務からの規制も報酬からの規制もない。しかしボランティア集団には独自の規範がある。それを踏み外すとよい集団にならないばかりか、その集団の継続も難しくなる。 リーダーだけが生きいきしない、指示命令型の取り仕切り屋にならない、指示命令しない。各人が生きいき活動できるように、全員が主役をサポートする。善意を寄せ合い、心を寄せ合うのをサポートする。自分を自慢せず、自分を誇らず、まわりを褒め、いつもねぎらいと感謝でプラスの評価をしていく。 このようなボランティア集巨=ま、明るく生きいきしており、笑顔が一杯である。ボランティアたちがよい笑顔をしているから、利用者も安心しておれる。ボランティアたちがよい笑顔をしているから、利用者も安らかになれる。ボランティアたちが楽しくしているから、利用者も楽しく一日をすごせる。ボランティアたちが優しいから、利用者も心が落ち着ける。ボランティアたちの心安らぐ居場所だから、利用者もJL、安らぐ居場所になってゆく。 ボランティアたちのステキな笑顔や明るく楽しい雰囲気から、「駒どりの家」を訪れる人たちは安心と解放感を覚えているのであろう。 ボランティア集団のこのような人間関係のなかでこそ、一人ひとりの自発性、自主性、自律性と責任性が高まり、創意的創造的な活動が盛り上と考えている。 かみお あきお/ 神戸市長田区の宅老所「駒どりの家」運営委員 |
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