地域からの発信
老いても自分らしく生きられる社会をめざして

                   観  篤子




◎ 会発足の動機
 私の頭に7人の子供を育てた母は、60歳頃までは病気1つせず、働らくことしか知らない生活を送り、栄養管理などに気を使うゆとりはなかった。畑で転び、「骨租しょう症」と診断された。入院して一寸良くなると、また畑に出る、転ぶを繰り返し、病院一老健→特養ホームヘと生活の揚が変った。
 特養ホームヘ入るとき、父はがんこに反対し続けた。「病院の医者に治してもらわんといて、なんで老人ホームなんかへ入らなあかんのや」。亡くなった父の言葉が今も耳から離れない。順番が来てホームへようやく入所。一過間程したら、母は喋れなくなった。私たち子供がホームへ行くと帰りたい一心でペットの横に足を出し、「つれて帰ってほしい」ともだえるのであった。しかし、同居していた実家の弟夫婦は共働きのため、特養ホーム入所しか道はなかった。
 翌年3月で退職予定の私は、12月の上旬、仲間たち5人に相談した。「このことは1人の問題ではない。自分で自分の最期をどうするか決められない社会っておかしい」。「これは即自分のことになるよ。みんなで声を出していかなあかんのと違うかね」。
 早速仲間が仲間を呼び、25名で準備委員会を発足。16回の会合をもち、「すてきな高齢社会をつくる会・福井」を発足させることとなった。「結成記念講演会」と銘うち、多くの市民に呼びかけた。


◎ 産声は大きい程いい
 「結成記念講演」と宣伝したのが良かったのか、市民福祉会館の会場はいっぱいになり、
帰り際には85名の人が入会申し込みをし、会費を納めて帰られた。
 講師謝礼が充分出来ないことを大熊さんに伝えると、「それはいいけれど、そのかわり首長をその会にお呼びして、私の講演を聞いていただき、私と対談をさせて下さい。福祉は首長が変らないと駄目なのよ」と言われた。
 もうひくにひけない立場であり、交渉した。市長は「福祉のことは何も知らないし」と言われたが、「知らないことは知らないでいいわね。正直な方が大事ですものね」ということで実現。参加者のアンケートの中に「市長が最初から最後まで出席している会は初めてだ。市長を見直した」との賛辞の言葉が大半だったのには驚いた。後日、市長は「あの時は旨くはめられてしまったよ」と述懐されたのだが。


◎ 福祉のお世話にだけはなりたくない。
 まだそれ程落ちぶれてはいませんもの市民に根ざすこの思い、考えを払拭したい、そのための啓蒙が必要ではないかと役員会で議論しあい、すてきな講師を国内からお呼びしよう。一回一回の行事を大切に、あの会の主催なら間違いはないよと言われるように。
 「介護保険と私たちのくらし」、法案成立後の「あなたの介護はどうなるのか」の井上先生の講演は、制度のもつ背景、人権保障、介護保障などについて、とても解りやすく親しみをこめてお話をいただいた。以後、私の方へ井上先生へのお問合せが何件もあり、お忙がしい先生がご都合をつけて福井の地で何度もご講演いただいたことは本当にうれしい限りである。
 「住民の選んだ町の福祉」は、他団体と共催を組み、その楽しさと市民活動の大切さを学ばせていただいた。
 「ボケにだけはなりたくない」。そのような講演を是非との市民の方の要望に応えて、出雲市でクリニックを開設、NHKでも放映された「悠々たりポケ人生」のビデオ持参の高橋先生のお話はダビングして各地で観ていただいている。あるところでは、お寺さんのお説教の時間をさいてみんなでみせてもらいました、との声も届いている。

◎ 行政を育てるのは私たち、情報は本来住民みんなのもの
 今までは何もかも県や市でやっていただくもの、ましてや行政に意見など言うことはいけないとの意識が、私たちの仲間の中にも根強くあるが、市民の思いを伝え、話合うことの出来る市民団体でありたいと思っている。
 井上先生から学んだ介護保険法については「法制度グループ」が学習を積み重ねており、行政への提言書としてまとめ(総会の承認を得て)、会員在住の市町村の会員と共に直接首長に提言、不在の市町村へは発送し、後日取りまとめる予定をしている。この行動を通して、会員の方々は政治を身近かなものに感じると言われている。また井上先生と法制度グループリーダーが、福井放送のテレビで介護保険についての対談を行い、好評を博した。
 「施設グループ」は、特別養護老人ホームの老人施設指導台帳の情報公開(1昨年、昨年の2年間分)を行い、検討に入っている。そして2周年大会(10月3日)には、愛媛オンプズネットの永和良之助先生の講演を企画している。


◎ 最後に、医療・福祉問簸研究会にお願い
 行政の方々とも対等に話し合うためには、その人達以上に現状把握、物事の本質など実力を備える必要がある。それが自信につながり行動力に結びつくのだと思う。
 その点で、貴研究会の存在は私たちの会に大きな意義と勇気を与えていただいている。研究者としての立場から出される問題点が私たち市民の中にしっかりと「そうやね」と受けとめられる時、私たち活動団体はいきいき出来る。とくに臨時増刊号の座談会は興味深く拝読させていただいた。私たちの会も「これまでの10年、これからの10年」と銘うって形ばかりのものでも出来たらすてきだなあ−と夢をみている。
 どうぞ今後とも、意気消沈しないように会の先導役としてぐいぐいと引張ってほしいと願わずにはおれない。


【主な会の活動】1996年10月〜98年6月
96年
10,6 結成記念講演会 〈講師=ジャーナリスト大熊由紀子氏/演題「老いて美しく輝くために一福祉が変わる、市町村が変わる−」550名参加)対談/大熊氏と酒井福井市長(「福井から新しい風を」)

97年
1.15 第1号会報発行

2.8 講演会(講師=金沢大学法学部教授井上英夫氏/演題「介護保険と私たちのくらし」/126名参加)
2.26 第2号会報発行

3.29 学習会(高齢者福祉サービスの現状/新ゴールドプランまでの福祉制度の経緯=常任委員松田美恵子/福祉サービスの実状を会員から学ぶ=福井市福祉公社山川明美・前在宅介護支援センター牧野幸子・福井ケアセンター佐島利幸)

4.30 第3号会報発行

5.31第1回総会講演会(出雲市小山の家・高橋幸男氏/演題「悠々たりぼけ人生」/215名参加)

6.17 第4号会報発行

7.5 映画上映(「住民が選択した町の福祉」(2回上映)/955名参加)・講演会(監督・羽田澄子氏)

8.20 第5号会報発行(市民映画団体と共催)

9.27 自主活動グループ発足(法制度、在宅、施設)

10.20 第6号会報発行

11.19〜20 研修旅行(長野県北佐久郡北御牧村「ケアポートみまき」/会員21名参加)

98年

1.17 新春のつどい(会員63名参加/報告、学習、レクレーション、会食他)

2.10 第7号会報発行

2.21講演会(講師=金沢大学法学部教授井上英夫氏/演題「あなたの介護はどうなるのか一介護保障と介護保険」/215名参加)

4.20 第8号会報発行

5.23 第2回総会講演会〈講師=淑徳大学講師中西光彦氏/演題「今をときめいて一老人介護の発想転換−」/74名参加

6.1県・福井市長に対して「介護保険制度
   施行への市民提言」を提出

6.25 第9号会報発行

6.25 参議院選挙立候補者に対して「福祉に
   関する公開質問状」送付

7.6 候補者全員(4人)から回答届く


    かん とくこ/
    すてきな高齢社会をつくる会・福井代表
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