公的介護保険導入に向けての民間事業者としての展望 荒 木 明 意 |
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ベネッセ介護センター金沢の概況 「ベネッセ介護センター金沢」はベネッセコーポレーションが行うシニア事業の拠点として、平成9年4月にオープンしました。金沢での介護関連事業としては、これに先立つ平成8年7月よりホームヘルパー2級養成講座を開講しています。その後、平成9年7月にはホームヘルプサービスを開始し、同年11月には福祉サービス公社より受託、翌平成10年4月には金沢市より受託し今日に至っています。 今日、2級養成講座は13期が開講しており、これまでに500名以上の修了生を輩出しています。また、ホームヘルプサービスを利用される方は約60名となり、介護保険スタートに向けてさらに人数が急増しそうな状況です。 介護事業の基本理念 ベネッセコーポレーションの介護事業が掲げる基本理念として、以下の3点があります。 1.要介護高齢者の自己実現と自立支援を目標としたサービスを提供する。 2.介護サービスにおける質の向上・量の拡大に民間企業として貢献する。 3.介護サービスの人材育成カを柱にして経営基盤を構築する。 まず、要介護高齢者の自己実現と自立支援を重視するということに関しては、これまでの施設・在宅介護でも当然行われてきたことですが、私どもも「ベネッセ=よく生きる」いう社名に掲げた理念を事業内容に盛り込みたいと考えています。 次に、質の向上・量の拡大に民間企業として貢献するという点ですが、そもそもこれまでの措置制度のもとでは、利用者がサービスを選択するということがありませんでしたが、介護保険が導入されることにより、「市場原理」によってサービスの質が鍛えられ、需要の増大によってサービス量が拡大していくことになるため、私どもはそこに民間企業としての工夫を盛り込むことを目指しています。 3番目の人材育成カを柱にした事業展開についてですが、ベネッセコーポレーションはこれまで「進研ゼミ」を中心とした教育事業を展開してきたという経緯もあり、その協力者を組織化するノウハウを介護事業にも活かしていく方針です。 このように上記3つの基本理念をふまえ、さらに「ベネッセ介護センター金沢」では、より掘り下げた取り組みを行っています。今回のレポートでは、この当介護センターにおける取り組みを中心にまとめてみたいと思います。 顧客満足度の重視 さて、「ベネッセ介護センター金沢」で実施している研修事業(ホームヘルパー講座等)とホームヘルプ事業の両方において注カしていることとして「CS(customersatisfaction顧客満足度)の重視」があります。これは、研修事業では受講生が顧客でありホームヘルプ事業では利用者が顧客であることから、これら顧客の満足度を高めるのがサービスの品質向上につながるというものです。この「顧客満足度(CS)の重視」の取り組みを研修事業・ホームヘルプ事業にそれぞれ分けて述べてみます。 まず、研修事業ですが、毎回実技講習の終了時に受講生アンケートをとっており、そのアンケート結果をもとに講師とスタッフで反省会を実施しています。受講生が授業を理解できているか、また運営上の課題が発生していないかを受講生の生の声によって確認します。内容によっては、講師と指導内容並びに指導方法を改善していきます。次に、授業のカリキュラムの中に現役ホームヘルパーの体験発表を導入し、現場の状況を受講生に伝えることによりホームヘルパーとして働きたいという意欲を引き出そうと考えています。その他、授業の講義の中に在宅介護に関係する事例を豊富に盛り込むなど、講師とスタッフが一丸となって顧客満足度(CS)の向上を図っています。 次に、ホームヘルプ事業ですが、私どもはサービスの利用者を「お客様」と呼んでいます。民間企業としての事業である以上、顧客は全て「お客様」であり、品質の良いサービスを提供して顧客満足度(CS)を高めねばなりません。一般的な商品の製造・販売であれば、顧客満足度(CS)が高まれば何度も購入していただける訳ですが、ホームヘルプサービスは一定期間利用された後、入院や施設入過所、お亡くなりになることもあり、リピーターにはなりにくいという特徴があります。しかし、質の高いサービスを提供することによってその利用者または家族の知人に評判が広がることになり、その紹介がまたサービス利用につながるため、やはり顧客満足度(CS)が重要だと考えています。 では、どのようなサービスが質の高いサービスなのかといえば、たとえばお客様から担当ヘルパーに「また来てね」と言われる状態であると考えます。そのようなサービスが提供できるようになるには、ヘルパーのスキルアツプが一番重要です。私ビもは、稼働しているヘルパーを中心に年間通した研修計画を立てています。それは集合研修であったり個別指導やチームミーティングであったりします。特に、集合研修である定期研修はほほ毎月1回のペースで実施しており、ヘルパー全体のサービスのレベルアップ・維持につながっています。 [研修の流れ] ホームヘルパーの要件定義一年間研修計画 一定期研修・個別指導一現場一再指導一‥‥ ところで、これまで研修事業とホームヘルプ事業における顧客満足度(CS)について述べてきましたが、事業を進めていくにあたり顧客満足度(CS)と同様に重要なのは、従業員満足度(ES:employee satisfaction)です。従業員満足度とはすなわち、在宅介護に携わるが誇りや働き甲斐を感じるということです。関係者同士のコミュニケーションをいかに増やしていくかが大きな鍵を握っているように思います。 事業展開における課題 次に、事業を進めていくにあたり、現在感じている課題について2、3述べてみます。平成12年というのは、高齢者福祉の分野にとって大きなバラデイムの転換が行われる年であり、この介護保険導入をきっかけに高齢者介護の重要性が改めて見直されてくることになります。措置制度の時代にはいわゆる行政処分だった高齢者福祉の分野が、介護保険によって広く民間にも開放され、やっと国民一人一人に認知される状況が生れようとしています。 そのような中で今全国的な問題にまでなっているのは、「介護人材の不足」ということです。特に、21世紀の高齢者介護は在宅介護(居宅介護)が中心になるため、ホームヘルパーの不足が深刻です。ホームヘルパーの人数については、数字上は新ゴールドプランの目標を上回る状態で来ていますが、地域格差や有資格者数に比べて実稼働者が少ないという問題もあり、実際は実働ヘルパーが充足していません。私ども介護センターでも、ヘルパーの確保にかなりのパワーを割いています。ホームヘルパーの認知度は近年高まっていますが、まだ仕事として発展途上の部分があるためか急速に増えているという状態ではありません。 また、「介護人材の不足」ということでは、介護支援専門貞が明らかに不足するものと思われます。石川県では昨年の合格者が1000名強(金沢市でも約400名)いますが、合格者のほとんどが病院や福祉施設に勤務する看護婦や相談員であり、実際に介護支援専門員として活動するのは3割程度と言われています。この3割も現職をなげうって他の職場に移る人はほとんどいないものと考えられ、もっと介護人材の流動化が促進されないと新規の雇用ができなくなり、サービス規模が先細りしてしまうことになります。 さらに、「介護人材の養成」という観点から考えると、難問山積みといった観があります。たとえば、ホームヘルパーに関しては、大学での教員養成課程に介護実習が入ってきたこと等により、施設でも実習生を受けきれない状況が出てきています。つまり、実際にホームヘルパーになる人が少ないという点、またホームヘルパーの養成課程でも課題があるという点で二重の壁があります。 「福祉」「介護」というのは一対一の直接人的サービスであり、規模の経済がはたらかないため、ニーズの増大に合わせて介護人材を増員しないと「保険あってサービスなし」という状態になります。介護職としての人材をいかに確保し、そのスキルをどのように高めていくかが、介護保険下で福祉をすみずみまで行き渡らせるための私ビもの使命であると考えています。 今後の私どもの介護事業の展望 さて、最後に今後の私どもの介護事業の展望に触れたいと思います。介護保険制度においても、平成12年からの10ケ年計画においても在宅介護が重視されており、「人材育成カ」がトリガーになることはほぼ間違いありません。また、たとえば最近増えてきているものとして商店街の空き店舗や学校の空き教室を利用したデイサービスとか、民家を改造したグループホーム・グループリビング・宅老所等があります。このようなサービス機関が増えてくると、グループホームに近所の住民が訪ねてきたり、デイサービスやグループホームのお年寄りが近くの幼稚園・保育園の行事に参加したりといった交流が増えていくものと予想されます。したがって、今後求められるサービスの形態としては、地域の中に開かれたサービス機関があり、そこには長期入所・短期入所(ショートステイ)・デイサービス・在宅介護支援センター等の機能が備わっているようなスタイルが考えられます。ベネッセ介護センター金沢でもそのようなサービス提供スタイルを検討していきます。地域に根ざした、イメージとしてはコンビニエンスストアのような気軽に利用できる介護サービスが目標です。そして、「また来てね」という声が飛び交うようなサービスを目指します。 |
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(あらき あきのり/ ベネッセ介護センター金沢) |
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