介護保険への提言 医療・福祉問題研究会 介護保険プロジェクトチーム |
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はじめに 介護保険のスタートが目前に迫ってきました。制度の具体的な内容がわかってくるにつれて国民の間では期待より不安の方が強くなっています。サービスの拡充・改善や便利さをもたらすはずの新しい制度の発足が、かえって利用できるサービスの量を低下させたり、これまで利用できていた人が利用できなくなるおそれさえあります。利用のしやすさの面でも後退がみられます。さらには新制度への移行を理由に、現行制度の利用を制限する動きさえ見られます。 こうした問題の板本的原因は、いうまでもなく介護保険制度の仕組み自体にあります。したがって真に問題を解決するためには制度の仕組みを変える必要があります。しかし同時に、制約は多いものの、自治体の取り組み次第では問題を軽減したり、利用者への負担を一定回避することができる側面もあります。医療・福祉問題研究会では、介護保険制度に根本的な疑問をもちつつも、上記のような視点から、自治体がいま取り組むべき改善課題を中心に検討を進めてきました。このたぴ、その内容を「介護保険への提言」として以下の13項目にまとめました。 私たちは、介護サービスをはじめ地域における保健・医療・福祉は、地域の主人公である住民と住民の健康・生命・生活に責任をもつ自治体とが協力・共同して、画一的ではなくその地域の特色を生かしたサービス・制度をつくりあげることが重要であると考えています。今回は、そうした取り組みの一環として、自治体を応援しともに知恵を出し合ってよりよりサービスをつくりあげていく立場から提言しています。下記の項目についての実施を強く求めるとともに、根本的な問題解決にむけて国に強力に働きかけられるよう要望するものです。 提言 1.現行サービスの利用者および待機者に対して、サービスの利用制限を行わないこと。 介護保険によって高齢者福祉の利用方式は大きく変わりますが、そのことを理由にして、特別養護老人ホームやデイサービスなどの申請をさせないケースが生じています。制度の変更にともなう不利益の発生を未然に防ぎ、発生した場合はそれを解消し 住民の利益を守る責任が自治体にはあります。自治体が、制度の変更を理由に住民のサービス利用権を制限するのは、二重三重に誤りです。申請があったケースは、あらためて受け付けるとともに、今後申請があれば従来どおり受け付けることを求めます。 2.現行サービス利用者には少なくとも現在 利用している水準のサービス提供を行うこと。 現在サービスを利用している人が、要介護認定で「自立」と判定され保険の対象外となるケースや、要介護度が低く判定されて現在利用しているサービスが低下してしまうケースが出る可能性があります。これは1で述べた制度変更にともなう不利益の発生に該当します。こうした事態を防ぐためにも、少なくとも現在利用している水準のサービスは引き続き利用できるような措置をとることを求めます。 3.現在実施をしている高齢者福祉サービスを維持すること。 介護保険の実施を契機に、介護保険に含まれない高齢者福祉サービスを廃止したり、整理・縮少することを検討している自治体があると聞きます。介護保険は、高齢者福祉サービスのあくまで一部であってすべてではありません。継ぎ接ぎになっている従来のサービスを見直してより効果的な内容に改善することは必要ですが、介護保険に含まれないことを理由に廃止や縮少をすることは、高齢者福祉の後退を意味します。 現在実施している高齢者福祉サービスを維持し、介護保険で不十分なものについてはむしろ現在のサービスを拡充してその不十分さを補うよう求めます。 4.訪同調査は民間事業者へ委託せず、自治体の責任で実施すること。 要介護認定にあたって実施される訪問調査は、自治体が指定民間事業者に委託することも可能な仕組みになっています。しかし、民間事業者が果たして中立・公平の立場をどこまで守ることができるか大いに疑問です。また調査内容が調査にあたった事業者に漏れない保障はまったくありません。サービスの利用を事実上決定づける訪問調査は、自治体が責任をもって行うことを求めます。 5.介護認定審査会は、十分時間をとって審査できるように可能な限り多くの設置を行うこと。 介護認定に要する期間、すなわち申請から認定まではできるだけ短くする必要がありますが、同時に認定作業には慎重さと対象者への細やかな配慮が求められます。この二つを両立させるためには、全体の審査能力を向上させなければなりません。厚生省は1ケースあたりの審査時間を4分間として介護認定審査会の必要数を計算していますが、4分間で責任ある審査ができるとは思われません。とくに制度施行時は、いろいろトラブルが予想されますので、ゆとりのもてる体制にしておく必要があります。審査会の設置は、地域ごとの高齢者数等にも配慮しながら、可能な限り多くすることを求めます。 6.介護給付の拡充は自治体の独自負担で行うこと。 自治体が独自に行う標準的な介護給付への上乗せ・横出し部分は、1号被保険者の保険料でその費用を賄う仕組みになっています。しかしこの仕組みでは、サービスの水準を高めれば高めるほど1号被保険者の保険料が高くなり、負担能力をこえてしまう恐れがあります。逆に標準的な水準では介護ニーズを満たすことができない可能性があります。したがって、介護給付の拡充は、介護保険とは切り離して自治体の独自負担で実施するよう求めます。 7.高齢者が生活援助サービスを気軽に利用できる仕組みを設けること。 現在ホームヘルプサービスやデイサービスを利用している人のなかには、身体上の不都合はそれ程でもないが諸々の事情で生活援助の必要があり、サービスの利用があってはじめて在宅生活や一人暮らしができている人たちがおられます。こうした利用者は、介護保険のもとでは「自立」と判定されてサービスが利用できなくなる可能性が少なくありません。そうなれば現在の生活が維持できなくなるばかりか、やがて要介護・要支援状態になることは十分考えられます。要介護・要支援状態になれば介護保険の対象とはなりますが、できるだけ自立度の高い生活を維持できることの方がその人の生活にとっては重要です。身体上にそれ程不都合がない場合でも生活援助が利用できる仕組み、例えば家事援助のみのホームヘルプサービスの利用や、交流を目的としたデイサービスの利用などが可能となるような仕組みを設けることを求めます。 また、上記のような在宅福祉サービスの利用者については、制度施行にともなう全面的な見直し・変更は避け、利用可能な仕組みができるまで一定の経過措置を設けるよう求めます。 8.自治体はサービスの提供に責任をもつことができるように自治体関与のサービス提供機関の整備・拡充を図ること。 介護保険のサービスは、指定業者であれば営利・非営利を問わず誰でも提供できることになっています。しかし、民間事業者は採算がとれ一定の利益が確保できなければ、たとえ一時的にはサービス提供を行ったとしても継続して行う保証は全くありません。したがって、民間事業者任せでは、サービスを安定的に供給する責任ある体制を確立することは不可能です。自治体は、サービス提供の最終的な責任を負っているという立場を再認識し、直営事業の維持はもとより、自治体が関与して設立した提供機関についも、縮少ではなくむしろ整備・拡充し、民間事業者に対して優位性を発揮できるような組織とするように求めます。 9.自治体は、介護保険事業に従事するヘルパーの賃金・労働条件の改善に努めること。介護保険事業には多くの保健・医療・福祉関係者が従事することになりますが、数のうえでも、利用者との関係でも中心となるのがヘルパーです。ヘルパーは、現在でも常勤の比率はきわめて低く、大部分がパートや登録ヘルパーによって占められていますが、介護保険のもとでは事業者間の競争激化によって、こうした傾向が一段と進行するおそれがあります。訪問介護事業者の指定基準案も常勤2.5人と最小限の設定になっています。しかし、不安定な身分のままで高齢者の生命と生活を直接左右する仕事に従事することは、働く本人にとっても利用者にとっても問題です。介護サービスはトータルな生活支援の一環であり、ヘルパーには専門的な知識と経験に裏づけられた「その人らしい生活とはなにかを見抜く感と必要な手をさしのべられる感性」が 求められます。それは、お互いが十分時間をとって経験を交流し学びあう環境のなかでこそ獲得されていくもので、必要な時だけ声をかけられ細切れにサービスだけを提供する勤務の形態では困難です。自治体は提供されるサービスの質に付する責任を負っています。それは同時に、求められるサービスの質に相応しい人材と労働環境を確保することに対しても章任を持たなければならない立場にあることを意味します。自治体は、ヘルパーが意欲をもって働くことができ、利用者も安心してサービスを受けられるように、ヘルパーの身分保障、労働条件の改善、研修制度の充実などに積極的に取り組むとともに、事業者にも然るべき指導と援助を行うよう求めます。 10.保険料及び利用料については、法や通知によって定められた減免制度を、被保険者及び利用者の生活困窮の状態に即して適用すること。 保険料及び利用料に対する減免制度は設けられることになってはいますが、基本は特別な場合に限定されていて生活困窮は直渡その事由にされていません。このままでは負担能力のない人たちが保険料未納になって制度から排除されたり、利用料が払えなくて利用を自粛せざるをえないケースが続出することは必至です。こうした事態を避けるために、法や通知が定める理由以外にも自治体の裁量で減免制度の適用ができるようにすること、具体的には一定の低所得者に村しては理由を問わず減免の措置をとることができるような仕組みにすることを求めます。 11.保険料滞納者への制裁措置は行わないこと。 介護保険法は、保険料の未納・滞納者に対して給付の差し止めや給付率の制限(利用者負担の引き上げ)等の厳しい制裁措置を設けています。しかしこうした規定は、サービスが必要であるが負担能力がない人や低い人を制度から排除するという、福祉制度の目的に相反する内容であるといわざるをえません。 しかも国民健康保険の被保険者の場合、国保保険料に介護保険料を上乗せして一体的に徴収する仕組みが考えられているため、未納・滞納者は介護給付だけでなく医療保険の給付もストップさせられるおそれがあります。所得が低くて支払いが困難な場合は制裁措置を行わないことを明確にするよう求めます。 12.自治体の責任で第3者による監視機関を設けること。 介護保険の利用にあたっては、認定結果に対する不服申し立てを受け付ける介護保険審査会や、苦情処理を担当する国保連合会の窓口が設けられることになっています。 また、自治体では独自の相談窓口を設ける準備をしているところもあります。しかし、提供されるサービスの貿を日常的に点検し、そのつど必要があれば改善を求める仕組みは、事業者相互の競争と利用者による事後チェックによってサービス向上を図ることができるという考えが制度の前提になっているため、まったく考えられていません。 しかし、競争や事後チェックがサービスの向上へつながる保証は全くありません。自治体は、自らの章任で第3者による監視機関を設けるとともに、住民による自主的な監視活動による改善提案に対しても謙虚に受け止める姿勢に立つよう求めます。 13.都道府県は介護保険審査会が実質的な機能を果たすことができるよう市町村ごとに設置すること.また、市町村は自らの責任で苦情処理と相談窓口を設けること。 介護保険法は、認定審査や保険料等に関する不服申し立ての機関として介護保険審査会を都道府県に設けることを規定しています。また諸々の苦情については、国保連合会のもとに設けられる窓口で対応することになっています。しかしこれらの機関は、都道府県レベルで数ケ所設けられても実質的な機能を果たし得ないのは明らかです。都道府県には、介護保険審査会を市町村ごとに設置して実質的な機能が果たせるよう体制をとるとともに、国保連合会が苦情への適切な村応がとれるよう支援を行うことを求めます。また市町村には、それらとは別に自らの責任で介護保険全般についての苦情と相談を受付ける独自の窓口を高齢者が気軽に行くことができる場所にきめ細かく配置するよう求めます。 |
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