介護保険と入院医療
-高齢者入院医療の変遷を踏まえながら
工藤 浩司
はじめに
 介護保険の導入と医療保険制度との間には密凄な関係がある。訪問着護などの在宅医療や療♯型病床群の入院医療など医療サービスについても介護保険の給付内容となったのがその直接的な現れである。既に多くの論者が指摘しているように、介護保険制度の導入にはこれまで医#保換により行われていた介護色の強い医療サービスを医療保険から介護保険に移すことで、増大する高齢者医療費「対策」とするねらいがある。本箱では、この点について特に高齢者の入院医療の変遷を「社会的入院の制度化の逮巻」という視点で振り返ることにより、「介護色の強い医療サービス」すなわち「社会的入院」が医療保険において制度化されてきた過程を検討し、その医療保険を用いた安上がりの福祉政策が、新たな安上がりの福祉政策である介護保険にシフトしている点を指摘する。
 その上で、介護保険制度の導入が医療にどのような変化をもたらしたかを整理する。その意味では3年前にr医療・福祉研究」10号(1998年〉に掲載した拙稿「介護保険給付と医療」を補完するものであり、その際、触れることのできなかった介護保険の療養型について概説するのを主眼とする。なお、1998年の時点では判明しなかった点も踏まえ、在宅医療についても本希の趣旨と若干外れるが補足させていただいている。


1.高鮨者医療制度の変遷
(l〉老人病院の新設
1983年の老人保健法の施行は、それまでの老人福祉法による「老人医療費無料制度」から患者定額一部負担の導入という180度の制度転換が図られたものであり、高齢者医療制度を考える上での画期となるのは言うまでもない。社会的入院の制度化という観点からみても、老人保健法の制定は重要な意味を持つ。すなわち、「特例許可老人病院」の新設である。
 特例許可老人病院とは、「主として老人慢性疾患の患者を収容する病室を有する病院」と定義されているが、ここでのポイントは「特例許可」という文言である。病院における人員配置基準は医療法により定められており、例えばこの当時、看護婦は愚者4人に対して1人とされていたが、特例としてこの人員配置基準を満たさなくても医療法違反とならない病院が規定された。これが特例許可老人病院であり、医師数は医療法の標準に付し3分の1、看護戦月も患者6人に対し1人でよいとされ、新たに介護職月を配置することを義務づけたものであった。
 要するに、医療法の水準に満たなくても「特例」として「許可」された「老人病院」が制度化されたということになる。医師や看護婦の数が大幅に減ることでたとえ医療水準・看護水準が低下しても、介護中心の高齢者の「収容」を意図したこの老人病院は、まさに「社会的入院」の受け皿を医療制度の側で用意したものであり、制度としての社会的入院の端緒であるといえよう。
 老人保健法施行と同時に、診療報酬制度についても「老人医療」については「老人診療報酬点数表」として別立ての制度になった。同一の診療行為に対して高齢者と高齢者以外の診療報酬点数に格差を設ける差別医療の導入であり、この枠組みは今日まで続いている。それに加えて上述した「特例許可老人病院」についてはさらに別の体系が設定され、老人病院以外の病院に入院している高齢者からみても格差が設けられた二重差別の構造が設けられた。例えば、点滴注射を例にとると、高齢者以外の患者については1日あたり75点〈1点単価は10円)の点数が設定されているが、これが老人病院以外の病院に入院している高齢者になると1日あたり20点となり、さらに特例許可老人病院に入院している高齢者になると皮下・筋肉内注射、静脆注射とあわせて1日あたり 20点という設定がなされているのである。
 さらに診療報酬上の格差はこれだけに留まらず、特例許可老人病院と同時にもう一つ「特例許可外老人病院」という区分も導入された。これは70歳以上の高齢者が60%以上入院している病院(例外あり)のことで、この基準を満たして老人病院と認められると、通常の入院料よりも低い診療報酬点数が自動的に通用されることとなり、さらなる制限診療を余儀なくされることとなった。また、注目すべきものとして「特例許可外老人病院検査料」という診療報酬設定があげられる。これは、基本的な血液検査(尿酸、血糖、GOT、GPTなど)については1ケ月にどれだけ行っても150点の定額にするものであり、いわゆる定額払い制度のさきがけとなるものであった。
 高齢者の診療報酬設定に二重三重の格差を設けると同時に、社会的入院の受け皿としての老人病院には低額かつ定額の診療報酬設定とする政策は、この後の高齢者医療制度においても一貫しているのであるが、老人保健法施行時の1983年の時点において、既にその基本的骨組みは出来上がっていたのである。
 その後、1986年老人保健法は改正され、「老人保健施設」が新設された。社会的入院の制度化という観点からは重要な改正であるが、本稿では入院医療に限定して話を進める。またの機会に整理することでご容赦いただきたい。


(2)介護力強化型病院と療養型病床群
 高齢者の入院医療を論ずる上で第2の契機となるのは、1990年の診療報酬改定で導入された「特例許可老人病院入院医療管理料」である。この診療報酬点数は、特例許可老人病院における看護、投薬、注射、検査の費用を1日あたりの定額払いにするもので、これにより診療報酬体系に本格的に包括定額払い制度が取り入れられることとなった。なお、この医療管理料は特例許可老人病院が選択的に申請することができるものであり、従来どおりの出来高払いを維持することも可能であったので、定額の入院医療管理料を届け出た老人病院を、特に「介護力強化型病院」と呼ぶこととなった。介護力強化型病院の制度は3年後の医療法改正による療養型病床群を先取りしていたものとして注目される。そして、看護、投薬、注射、検査の費用の定額払いという診療報酬の枠組みは、さらに定額範囲を拡大した上で介護保険の「施設サービス費」の考え方につながっていくのである。
 もう一点指摘しておきたいのは、この入院医療管理料を選択した病棟においては、たとえ高 齢者以外の患者が入院した場合であっても定額払いの診療報酬となるという点である。社会的入院の受け皿となる老人病院において診療報酬の定額払いがスタートしたが、この定額化の流れがこの年から若年者の入院についても加速していくこととなったのである。1993年4月、医療法が改正され「療養型病床群」が制度化された。が、既に診療報酬上「介護力強化型病院」が制度化されており、構造設備基準については病室面積が1.5倍になった他、食堂、談話室、浴室等の必置義務などを講じたものの、人員配置基準や入院医療管理という考え方はほぼそのまま踏製したものである、診療報酬上、介護力強化型病院と同じく「療♯塑病床群入院医療管理料」が設定され、看♯、投薬、注射、検査の費用が包括化されたのである(出来高払いを維持することも可能)。
 介護保険施行前の最後の改定となる1998年の診療報酬改定においては、従来病院のみで認められていた療養型病床群が診療所においても簸められることとなった。また、定額の点数である「入院医療管理料」について、従来の看護、検査、投薬、注射に加えて一部の処置(創傷処置、湿布処置、酸素吸入などの基本的な処置)も包括化され、包括払いの範囲が拡大され、介護保険の導入を前に着々と準備が進められていた。
 以上、「社会的入院の制度化」について順を追って述べてきた。この過程は、本来社会福祉の措置制度で対応すべきであった高齢者の「入所」施設を医療横関に肩代わりさせることにより、医療保険の財源を用いた安上がりの福祉政策が推し進められてきた歴史と言えるだろう.そして「主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させる一群の病床」である療♯型病床群は介護保険に移行することにより、「有代わり」ではなく名実ともに高齢者の「入所」施設となるのである。

2.介護保険と医療保険
 介護保険法はその第1条で「必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため」制定されたと規定されており、「医療」についても介護保険給付の対象となることが明示された。2000年4月の制度実施を前に「医療」のどの部分が「介護」に移行するのかが注目されたが、介護療養型医療施設(療養型病床群等の介護保険指定施設)への入院、ショートステイの♯用と在宅医療の一部については介護保険に移ることになった。以下、療養型病床群をめぐる論点についてここでは触れていくが、その前に、本箱の趣旨と若干外れるが、在宅医療と介護保険の関係についても概説しておきたい。

(1)在宅医療と介護保険
 介護保険と医療保険の関係でまずおさえておかなければいけないのは、「介護保険給付優先の原則」である。すなわち、介護保険法の制定により改正された医療保険各法において、「医療保険給付は、これに相当する介護保険給付を受けることができる場合には行われない」とするもので、介護と医療で同種のサービスがあり競合する場合には介護保険から給付がなされ、医療から給付されることはないことを意味する。したがって介護保険給付において医療保険と同種のサービスがあれば、そのサービスは医療から介護へとシフトしたということができる。
 この「同種のサービス」は次の5つの介護保険給付、すなわち、@訪問着護、A訪問リハビリテーション、B訪問薬剤管理指導、C訪問栄養食事指導、D訪問歯科衛生指導、である(B からDは、介護保険給付では「居宅療養管理指導」と称される。)。在宅における看護職則こよる看護サービス、理学療法士・作業療法士によるリハビリ、薬剤師による服薬指導、管理栄養 士による栄養指導、歯科衛生士等による口腔衛生指導については、要介護認定を受けた患者については医療保険からは給付されず介護保険から給付を受けることになったのである。この結果、従来は医師の判断により必要に応じて受けることのできたこれらのサービスは、2000年4月からは各要介護度に応じた支給限度額の範囲内でしか受給できなくなっている。また、これらのサービスを受ける際の1割負担は、法施行時の「老人医療」の定額負担と整合性がなく、同じサービスであっても医療保険の方が患者負担が少なくなり、せっかく受けた要介護認定を取 り下げるというケースまで現れている(2001年1月からは最後に触れるのであるが、この「整合性」をはかるために「老人医療」にも1割自己負担が導入され、患者負担を増やすことによってこの間親の解決をはかっている。)。なお、訪問者護については、末期癌等の難病の患者については要介護認定を受けていても医療保険で行われることになっており、また、容態が悪化した場合も14日間に限り医療保険で行われることになっている。
 上記以外にも、医療系の介護保険給付がいくつか設けられている0まず「同種のサービス」以外のサービスとして「医師・歯科医師の行う居宅療養管理指導」があげられる0これは1.居宅介護支援事業者等に対するケアブランの策定等に必要な情報提供、A患者又は家族等に対す る介護サービスを利用する上での留意点等についての指導及び助言、をそれぞれ評価したものであり、医療保険に同種のサービスがないので、医療保険の訪問診療等とは別に実施が可能 となったものである0この点は、医師の行う医療行為については介護保険により制約がないということで、介護保険法施行前に危惧されていた診療の制約については回避されているといえる(ただし、この費用はケアブランへの位置づけは不要とされたので、患者からみれば医師の訪問診療の際の負担金がこの居宅療養管理指導の1割分まるまる増えることとなった。)。
 もうひとつ、医療系の給付に「適所リハビリテーション」があるが、これは従来医療保険で行われていた「老人デイ・ケア」にあたるものである。なお、「老人デイ・ケア」は介護保険施行の3ケ月後に診療報酬の項目から削除されたており、適所リハビリは介護保険に完全に移行している。
 ところで、上述した「介護保険給付優先の原則」は、法律と大臣告示のレベルでは、その意味合いが異なっていることに触れておきたい。法律では、「医療、入院時食事療養費の支給又は特定療養費の支給は、当該疾病又は負傷につき、介護保険法の親定によりこれらの給付に相当する給付を受けることができるときは、行わない」(老人保健法第34条の2)と親走されているが、診療報酬と介護報酬の給付調整を定めたいわゆる「老人診療報酬点数表」では、「保険医療機関又は保険薬局において算定する医療に要する費用の額は、別に厚生大臣が定める場合を除き、介護保険法第62条に親走する要介護被保険者等については、算定しないものとする」(平成6年厚生省告示第72号、平成12年厚生省告示第78号により一部改正)となっており、後者の方がよりストレートに「介護優先」「医療例外」をうたっている0そして後者の「別に厚生大臣が定める場合」の親走いかんによっては、医療保険給付の範囲が不当に狭められるおそれが生ずる○現に適所リハビリテーションを行った月には診療報酬の再診料の「外来管理加算」が算定できない旨の取扱いが示されており、「同種のサービス」意外についても医療保険給付の制約がはじまっていることに留意しておきたい。
(2)入院医療と介護保険
 医療保険から介護保険へとシフトした医療施設は、介護老人保健施設と介護療養型医療施設の2種類である0介護老人保健施設とは介護保険法施行前の老人保健施設のことであるが、介護療養型医療施設には療養型病床群、介護力強化型病院、老人性痴呆疾患療養病棟の3つが含まれる0療養型病床群と介護力強化型病院については前述したとおりだが、老人性痴呆疾患療養病棟とは、精神病棟であって精神状態が著しい痴呆性高齢者に大して療養を行う病棟のことで、医療保険においては1992年の診療報酬改定において「老人性痴呆疾患療養病棟入院医療管理札として既に制度化されていたものである。
 ところで、介護療養型医療施設となる3種の医療機関は、自動的にすべて介護保険施設となるわけではなく、医療機関からの届出により指定を受けることによってはじめて介護保険施設となる0したがって、介護保険通用の療養型病床群等と医療保険通用の療養型病床群等が介護保険施行後も並存しており、後者の場合は従来どおり医療保険から入院にかかわる費用を診療報酬として受け月♯認定を受けた月医療保険の療養彗点は在宅医療の月が康先している≠  さて、前節で遡盤いて医療保険介護中心の報酬として受け取ることができる。また、要介護認定を受けた患者であっても主治医の判断で医療保険の療養型にも入院が可能であり、この点は在宅医療の場合と違って必ずしも介護保険が優先しているわけではないことが注目される。さて、前節で述べたように介護保険施行前において医療保険の側では既に療養型病床群という介護中心の医療施設が制度化されており、介護を必要とする高齢者の「入所」施設として実質的に機能していた。また、診療報酬上も「入院医療管理料」という点数設定を行うことにょって介護保険の施設サービス費と同様に1日あたりの定額払いが実施されていた。したがって、介護保険に移行後も劇的な変動が起こったわけではなかったことを触れておきたい。人員配置基準や設備基準には介護保険の療養型と医療保険の療養型でほとんど差はなく、介護保険の療養型にはケアマネジャーの配置を義務付けることがもっとも大きな相違点と言っていい。つまり、極論すれば、療養環境についての差異は介護保険の療養型と医療保険の療養型ではほとんどなく、ただ利用する保険が介護保険か医療保険か(医療機関からみれば介護報酬で請求するか診療報酬で請求するか)の違いのみであるともいえる。
 次に報酬の面から両者の違いをみていく。介護療養型医療施設の基本施設サービス費は1日あたりの定額の設定になっているが、その包括範囲は診療報酬でいえば入院料と投薬、検査、注射、一部の処置であり、医療保険の療養型の診療報酬における包括範囲と共通している。また、包括範朗を超えた医療が必要な場合には出来高算定も可能であり、この点についても医療保険との相違はない。ただし、介護保険の療養型の場合は介護報酬で出来高請求する基礎的な医療と診療報酬で出来高請求する複雑な医療との二本立てになっている。前者の介護保険に出来高請求する医療を「特定診療費」と呼び、その主な内容はエックス線単純撮影や薬剤管理指導、リハビリテーション等で、算定要件についても診療報酬とは若干の差異がみられるものがある。なお、食事については、医療保険の「入院時食事療養費」にあたるものとして介護保険では「基本食事サービス費」という報酬が設定され、その金額、実施要領等についても両者に差異はみられない。
 報酬の面で違いがあるのは次のとおりである。@介護保険の療養型では要介護度により給付額(基本施設サービス費)に差がある。A介護保険の療養型には入院当初の30日間の初期加算を除いて入院期間による給付額の増減はないが、医療保険の療養型では入院期間に応じた逓減制がある。B介護保険の療養型ではおむつ代は給付額に含まれており患者から別途徴収することはできないが、医療保険の療養型では別途徴収可能である。
 さて、介護保険の療養型と医療保険の療養型では大きな差はみられないと述べてきたわけであるが、だからといって何も変化が起こらないわけではない。既に介護保険の論理・構造と整合性を保つためという考え方で、医療保険に介護保険の論理がどんどん導入されている。以下にその一例として診療報酬について整理しておく。


(3)2000年診療報酬改定にみる介護保険の影響
 既に「社会的入院の制度化」の議論で触れているのであるが診療報酬の改定をみていくと、介護保険の特色である1日あたりの定額払い方式がますます増えてきている。2000年の介護保険施行日と同日に実施された診療報酬改定では、まず入院料が抜本的に改まった。従来、入院料には、ベッド利用料としての「入院環境料」、看護・介護戦則こよる看護・介護費用としての「看護料」、医師による医学的管理の費用としての「入院時医学管理料」の3つに区分されていたが、前述した介護報酬がこの3つを包括したように、「入院基本料」という診療報酬点数に一本化された。また、それにあわせて、従来出来高で評価されていた「入院診療計画作成」と「院内感染防止対策」について同じく基本料に包括することとなり、未実施の場合は減算するという考え方が導入された。診療報酬は出来高払いが基本になっていたので、従来サービス等の充実は「加算」で評価されていたのであるが、ここにも介護報酬の考え方が導入されたのである。ちなみに、介護保険の療養型では夜勤体制や療養環境の評価を施設サービス費に織り込んでおり、一定の水準に達していない場合には減算するという仕組みが用いられている。
 このように介護保険実施と同時に入院診療報酬の包括範囲が一気に拡大した。今後の診療報酬改定においてこれまで個別に評価されていた事項が、1日あたりいくらのブラックボックスの中に埋没してしまうことは想像に難くない。
 さらに、診療報酬の定額化はこれに留まらない。前述したように老人病院や療養型病床群においては既に「入院医療管理料」という形で定額化されていた。が、これはあくまでも医療機関の選択制であり、出来高の入院医療を選ぶ道も介護保険施行前は残されていた。しかし、2000年の診療報酬改定でこの取扱いが変更され、老人病院や療養型病床群では、入院料、検査、投薬、注射、一部の処置がすべて包括された基本料のみの算定となり、出来高による算定ができなくなった。つまり、高齢者の長期療養病棟においては、医療保険、介護保険を問わず〈というよりも医療保険を介護保険にあわせる形で)定額払いの報酬体系となったのである。
 そして、この定額化の波は療養型ではない一般病棟にも及んできている。既に1998年の診療報酬改定において、一般病棟に6ケ月を超えて入院している高齢者は「特定長期入院患者」として他の入院患者と区別し、「特定長期入院医療管理料」という包括点数を算定する制度が導入された。この取扱いが2000年の診療報酬改定でさらに強化され、一般病棟に3ケ月以上入院している高齢者を「特定患者」として区分し、療養型の病床と同じく出来高算定ができなくなってしまったのである。つまり、高齢者の入院に関しては、入院期間が3ケ月以内の急性疾患の患者以外は、ほとんどすべて定額払いの診療報酬となっているのである。高齢者に対する必要な入院医療の保障という観点でみると、その報酬のほとんどが定額化されている現状は、非常に深刻であるといわざるを得ない。


   むすびにかえて
 介護保険と整合するように医療保険を変えるということをもっともわかりやすく示したのは、2001年1月の高齢者医療の窓口負担の改定であった。1日につき定額の負担(外来であれば530円を月4回〉から原則定率1割の負担に変更されたのである。もちろん診療所については1日 800円の負担の定額制を選択できたり、1割負担とはいっても3000円の上限(200床以上の病院は5000円)が設けられているなどの激変緩和措置は講じられてはいるが、これが本質的な改定であったのは間違いない。
 さらに、介護保険の特徴的な仕組みである高齢者からの保険料の徴収、しかも年金からの徴収という仕組みも、医療保険への導入が企てられている。これが高齢者医療制度の抜本改革と呼ばれるもので、本稿執筆時点では2002年度の実施を目指して議論が進んでいる。現在、医師会や健康保険組合連合会、経団連などさまざま な用体が案を出している状況ではあるが、それらのどの実にも共通するのは高齢者からも保険料を徴収するという負担増の考え方である。今後も高齢者に必要な医療が保障される制度であるかという観点を基本にこれらの動きを注視していきたいと考えている。
 なお、窓口負担の定率1割化とほば同時期に公布、施行されている第4次医療法改正についても、介護保険との関連が色濃くみられる。この点についても本稿で節を立てて議論する予定でいたが、執筆者の力不足もありまだ一次資料を読み込んでいる段階でまとめきれずにいる。ただし、医療法改正については医療提供体制の機能分化、すなわち一般病床と療養病床との二分化がその主眼であるが、これは介護保険によって、急性期医療は一般病院で、慢性期医療は介護療養型医療施設で給付するという区分けを明確化したことと無関係ではなく、むしろ介護保険が医療法改正の布石であったことだけは指摘しておきたい。この点については今後の課題とさせていただければ幸いである。

  くくどう こうじ/石川県保険医協会)
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