●介護保険制度の権利擁護のし<みと
高齢者の人権を守る市民活動
寺本 紀子
1 高齢者の人権を考える
(1)生活スタイルの自己決定はあたりまえのこと人は、それぞれ自分の生活スタイルを持っていて、日常ではそれを貫いたり、どこかで妥協したりしながら生きている。貫く度合いの強い人は、頑固とか、わがままといわれるが、自分の望む生活を実現しようとすることは、当たり前のことではないか。たとえ、高齢になっても、障害をもち日常生活で介助を必要としても、仮に判断能力が低下したとしても。自分が望む生活の実現に立ちはだかる障壁は、自分自身や家族に属するものであったり、社会が生み出しているものであったりするし、またその大きさも、厚さもさまざまである。叶うことと叶わぬこと、叶う人と叶わぬ人がいるのが現実であるとしても、だからといって現状を受け入れるだけ、仕方がないと諦めるだけでいいはずはない。さらには自分の生活のあり様を他の人が決定していいわけがない。

(2)生活スタイルの選択と決定、実行とその支援 ソーシャルワーカーなど相談援助業務にたずさわる者は、人の決定の場面に立ち会うことが多い。決定を押しつけることも容易くできる立場にある。時には本人を全く抜きにして、家族とだけでその人の生活の場所を決めてしまうことさえある。また本人自身が「決めて下さい。よく分かりませんから」と言う立場をとることも案外多い。「本人の望む生活実現のための支援」を忘れた専門職による本人不在の価値観や善意の押しつけ、サービス・制度の枠への生活の閉じこめなど、あまり問題にされないできたがよくある話である。こうした専門機関、専門職側の社会福祉の理念の欠如や技術の未熟からくる間遭は大きいが、それを許してしまっている市民(住民・国民・利用者)の主体性の未成熟も見過ごせない。介護保険制度の介護認定とケアブラン策定の現状は、高齢者の生活の「枠への閉じこめ」の最たるものではないかと思う。本来自分の望む生活がまずあり、その生活を営む上で支援は必要か、どんな支援を必要とするのか。支援の方法として、サービスや制度を利用するのか。ニーズにぴったりのサービスがない時はつくり出すことも計画に入れる。このように支援計画の策定は、非常に主体的で個別的であるはずだが、順序が逆転してしまうと、人間の尊厳を守る方法、いわゆる選択の自由からも自己決定からも遠ざかってしまうおそれがある。サービス利用の金額の枠と使えるサービスの枠の中に生活の有り様を措くことになってしまう。高齢者といえど、そういった事が自分の身に起きたとき、「いやだ、ちがう、こうするんだ」と自己主張のできる市民に育っていく必要がある。

2 介護保険制度の中の権利擁護のしくみ
(1)国や地方自治体の責任がみえにくい権利擁護のしくみ
 介護保険制度を契機に高齢者の権利擁護が必要であるとの認識が高まり、成年後見制度や地域福祉権利擁護事業の開始、介護保険法における苦情処理のしくみの法的な位置づけなどの前進がみられる。社会福祉法でもサービス利用援助事業や社会福祉事業の苦情解決機関である運営適正化委員会の設置が明記され、厚生省からは介護サービス利用者の声を聴く介護相談員派遣モデル事業が提起された。しかし、これらの施策は、措置から契約による利用制度への移行に伴い、サービス提供事業者より弱い立場になりやすい「消費者としての高齢者」の権利を守るという視点から創設されたものに偏っている(図1参照)。権利擁護をうたいながら、国や地方自治体がもつ権利保障の責任が巧みに隠されている。したがって、これらの権利擁護の仕組みを利用しても介護保険制度そのものが起こしている人権侵害(国・地方自治体の責任)の関親解決にはたどり着けない。


(2)積極的側面−サービス利用者(消費者)保護のしくみ
 介護保険制度の権利擁護の仕組みの積極的側面として、第1に苦情解決の仕組みの整備がある。苦情相談・解決の横関やサービスとして、市町村の窓口、国保連合会、サービス提供事業者内苦情相談窓口、苦情を掘り起こす介護相談員派遣事業などが重層的につくられている。介護保険法〈以下法とする)では、市町村・特別区に「事業者への調査」(第23条)、「指定居宅サービス事業者の指定基準違反に係る県への通知」(第77条)を規定している。また国保連合会には、市町村の対応困難な苦情処理の役割をもたせ、「事業者等への調査と改善指導、助言」(第176条)を規定している。指定居宅サービス事業者は、法第73条で、介護保険施設は法第87、95、109条で「自らが提供するサービスの質の評価をすること」とされ、運営基準で指定居宅サービス事業者は「苦情に迅速かつ適切に対応するための必要な措置」を、介護保険施設は「苦情に迅速かつ適切に対応するための窓口を置く等の必要な措置」を規定してVlる。また、市町村や国保連合会の調査への協力、及び指導、助言に従い必要な改善を図ることとされている。また、社会福祉法第83条では、運営適正化委員会(都道府県社会福祉協議会設置)が、社会福祉法第2条規走の社会福祉事業の提供する福祉サービスの処遇内容、利用契約締結、履行、解除に関する苦情の解決槻閲とされている。これまでは、サービスに対する苦情は、利用者側からすれば「言ってはならないこと」、「言えば利用しずらくなるのでがまんする」ものであり、サービス提供事業者からすれば、うるさくやっかいなもので、できるだけ開きたくないことであった。介護保険制度では少なくとも制度上は、苦情は言ってもよいことになり、事業者側は積極的に解決すべきこととなった。利用者と事業者が共に良い質のサービスを作り出していこうという趣旨のもと、サービスを受けるだけであった利用者に、主体的、能動的な立場を認めたものといえる。第2には、サービス利用が自力では困難な人への支援の仕組みが出来たことである。都道府県社協の地域福祉権利擁護事業(社会福祉法のサービス利用援助事業)は、利用料の間親などがあるものの福祉サービスを利用する権利を保障するものであり、生活支援のひとつの方法として必要なものといえるだろう。


(3)被保険者としての権利擁護は?
 介護保険制度で、保険者と被保険者との関係での権利擁護機関として考えられるのは、市町村(保険者)の担当課の相談窓口と都道府県介護保険審査会である(図1参照)。
 市町村がおこなった行政処分・(介護認定・保険料徴収)に対する審査請求の審理・裁決をおこなう横閑が介護保険審査会であるが、介護認定の結果が不服であったり、保険料に納得がいかない場合でも、すぐに審査請求をおこなう人はまれである。まずは第1次的苦情受付窓口と位置づけられている市町村にもちこまれ、それでも納得のいく説明や解決が得られなかった時、あきらめたり妥協しない人が取る手段が、審査請求である。訴訟は、審査請求をした上でなければできないことになっている。

 a)市町村 〈保険者〉 の相談窓口の役割
 最初の相談窓口である市町村は、それ自身が不服を申し立てられる立場であることを考えると、介護保険審査会へ繋ぐことを積極的におこなうことはあまり期待できない。但し、行政から独立した第3者機関が介在する仕組みを、市町村(保険者)が独自に設置したところは、適切に介護保険審査会につなぐ可能性は期待できる。例えば金沢市は、市条例に基づき、介護保険運営委員会に苦情処理等専門委貞会(行政内オンプズバーソンの性格)を置き、第3者機関
の役割をもたせようとしている。

 b)介護保険審査会と審査請求の岡題点
 審査請求が本当の意味で被保険者の権利を擁護する手段とはなっていない、いくつかの問邁点がある。まず第1に審査請求から裁決までの時間がかかりすぎる点である。ある介護認定を不服とした事例は、審査請求から裁決まで4ケ月半を要している。その間に介護者は亡くなり、本人の身体状況はさらに悪化した。介護を必要とする人は、日々状態が変化しやすいことを考慮すれば、短期間での裁決が必要だろう。第2に審査請求手続きが煩雑すぎる点である。口頭での申し立てが可能となってはいるが、実際には煩雑な書類作成、審査会との連絡調整など介護の必要な高齢者やその家族にとっての負担は大きい。気軽に審査請求ができるとはいいがたい。第3に介護保険法による審査請求は、どのような結果であれ上位への申し立て制度がないため、納得のいかない結果に対して泣き寝入りをするか、訴訟に踏み切るかの選択肢しかない点である。再審査請求の仕組み、あるいは介護保険審査会の裁決内容への異義を申し立てる制度をつくる必要がある。また現制度の枠では却下になってしまうが、明らかに制度の矛盾、システムの矛盾から生じる被保険者の不利益については、制度の改善要求を介護保険審査会が厚生省に対しておこなう役割(クラスアドポカシーl))をもつべきであろう。第4に介護保険審査会のメンバー構成だが、介護保険法では、要介護認定に関する処分に対する審査請求の事件は公益代表委員のうちから3人の合議体でおこなうことになっており、被保険者を代表する委員が入っていない。公平性を担保する意味でメンバーに被保険者代表を入れるべきではないだろうか。
 石川県では、審査請求した事例の全てが却下か棄却である。介護保険審査会は、まるで大きな壁のように住民の介護ニーズに立ちはだかっており、被保険者のための権利擁護機関とは言い難い現状がある。

3 国民の主権者としての権利と国・地
  方自治体の責任
1991年に、国連がだした「高齢者のための国連原則」は、人間の尊厳を理念として5つの原理〈独立・参加・ケア・自己実現・尊厳)と18の原則を掲げている。2)これは国際的に認められている保障されるべき人権であり、これらの原理・原則は介護保険制度の不十分さや改善点を提起していく上での指針となるものである。また、国連は、1999年を高齢者の尊厳と人権を保障するための国際高齢者年とした。これは、人権の普遍性をうたう世界人権宣言、国際人権現約をベースに、特別のニーズ(高齢者特有のニーズ)への対応の必要性を認め、高齢者が安心して自分の生き方、あるいは自分の運命を自分で決めていくことができるよう、社会の仕組みを租本的に変えていく出発点になる年として位置づけたものである。
 日本では、日本国憲法第25条が社会保障に対する国民の権利と国の責任を示す原点としてあり、国民が国に対して具体的な実体のある給付を、社会保障として要求できる権利(実体的給付請求権)を持っていることは定説となっている。3)また、憲法第25条の第2項の国の社会福祉の向上増進義務や、第13条個人の尊重・幸福追求権、第14条の平等権などが国の社会保障の責任を明らかにしている。4)介護保険の運営主体が市町村になったからといって、国の責任が軽くなったような、または無くなったような印象を持つのは錯覚である。国の責任をベースに、地域社会の実状にあった、ニーズにきめ細かく対応した具体的施策、つまり一人一人の尊厳を尊重した個別的な生活支援と権利擁護を展開する責任が地方自治体にはあるといえる。地方自治体は、政策立案からの住民の参加の仕組みをはじめとして、国民としての権利、住民としての権利が保障されるよう、〈例えば保険料・利用料の減免制度、第3者苦情解決機関の設置等)独自の施策を条例で定め、展開することで責任を果たすことができるようになるのではないだろうか。また、制度の矛盾をキャッチし、制度を改善していく働きかけ(クラスアドポカシー1〉)の役割は、地方自治体、介護保険審査会、国保連合会などの介護保険関係の横関にもその役割があることを自覚することが重要である。またこれらの機関がそのことに気づき、動きを作ることができるような働きかけをする市民運動レベルのクラスアドポカシーが非常に重要になるであろう。

4 全国的な権利擁護活動のようす
(1)日本の福祉オンプズマンの概要
 日本での最初の福祉オンプズマンは、行政内オンプズマンで1990年に中野区が始めたものである。1991年には東京都が権利擁護センターすてっぷを社会福祉協議会内に設けている。単独施設型の福祉オンプズマンは、1992年東京都多摩更生園に始まり、以後いくつかの障害者施設に設置されているが、高齢者施設の単独型福祉オンプズマンは、1995年の清流苑(大分県)が初である。地域ネットワーク型は、1997年の湘南ネットワークを皮切りに各地に広がっていく。基本的には施設内の権利擁護のための福祉オンプズマンではあるが、複数の施設がネットワークをくみオンブズマンを共有することで、自己完結的な処理から、地域全体のケアの質の向上へと視野が広がっていく。またえひめ福祉オンプズネット 〈1997年)のように、市民オンプズマン情報公開手法を取り入れ、福祉サービスの向上のための活動をする市民運動型も生まれた。このように日本の福祉オンプズマンは、単独施設の自発的活動、複数施設の地域ネットワーク型、市民運動型、行政型という4っのタイブ5)で、施設サービスを受ける例の権利がサービス提供者によって侵害されていることへの第3者苦情解決機関として、発展してきた(表1参照)。福祉オンプズマンは、利用者

表1福祉オンブズマン(施設単独型・ネットワーク型)
’92 東京都多摩更生園〈身体障害者療護施設)・苦情処理運営委員会
’93 内潟療護園(身体障害者療護施設/青森県中里町〉・オンプズマン委員会
,94 清瀬療護園(身体障害者療護施設/東京都清瀬市〉・人権擁護委貞会 厚木精華園(知的障害者更生施設/神奈川県厚木市)・オンブズマン
,95. 清流苑(特別養護老人ホーム/大分市)・オンプズマン 池ケ岡の家(特別養護老人ホーム/函館市)・高齢者福祉オンブズマン会議 榊奈川県知的障害者施設協会・オンプズマン(あおぞらマン)
’97 正書苑(特別養護老人ホーム/東京都)・オンプズマン 湘南ふくしネットワーク(Sネット/袖奈川県湘南地区他)・オンブズマン委員会 えひめ福祉オンプズネット(愛媛県)
’98 徳島しょうがい福祉ネットワーク(Tネット/徳島県〉 多摩福祉オンプズネット(東京都多摩地区) いわてぎんがねっと(岩手県〉 あいち・名古屋ふくしネットワーク・あいち福祉オンプズマン(愛知・名古屋)
’99 北海道福祉人権ネット(Doネット/北海道) 成年後見・権利擁護大分ネット(大分市) 横浜ふくしネットワーク〈Yネット/横浜市) 厚木ふくしネットワーク(Aネット/厚木市)
’00 介護保険市民オンプズマン機構・大阪(大阪府) 民間ふくしオンプズバーソン調査会(福祉ラインくるめ) 国際高齢者年・石川NGO・介護保険オンプズバーソン委員会〈石川県) 福祉オンプズマン(福祉オンプズマン研究会〉・石渡和英新開記事・インターネット等からの情報を加筆したものと提供者の対等な関係の確立をめざし、利用者の自己決定、自己選択、自己責任、エンパワメント、契約、情報公開、説明責任などをキーワードにして、具体的には利用者の声をきくこと、我慢して声に出さない利用者の意識を変え主張する力を付与すること、出された声を施設や社会・行政に提言し行動すること、利用者の声を代弁すること、声を受け止め行動した結果とそのプロセスの説明をする責任を果たすことといった役割で活動している。「全国の福祉オンプズマンの特色と課題」からの資料に
(2)国際高齢者年・石川NGO、介護保険オンブズバーソン委員会の活動
 a)活動の趣旨
1999年国際高齢者年に、「高齢者の国連原則」を市民に広げ、高齢者の尊厳と自己決定が保障される社会をめざす活動を展開する国際高齢者年・石川NGO(以下NGO)ができた。その活動の中心に、介護保険に関する権利擁護活動を市民の立場からおこなう「介護保険オンプズバーソン委員会(以下OP委員会)」がある。社会福祉基礎構造改革では、事業者と利用者の契約関係での権利擁護の仕組みが協調され、権利保障、権利擁護を狭く限定する傾向があるが、NGOおよびOP委員会は、国・地方自治体の社会保障における責任と国際的な人権保障の認識をベースにして、真に人間の尊厳を守り、生活のスタイルを選択、自己決定できるための権利擁護という広い鞄囲の権利を視野に入れた活動をめざしている。活動の担い手は、弁護士、医師、司法書士、ソーシャルワーカー、ケアマネジヤー、研究者など専門家による介護保険オンプズバーソンと養成講座修了者・市民オンプズバーソンである。

 b)OP委員会の活動と今後の課題
 @ ケースアドボカシー
 契約関係で生ずるサービス提供事業者への苦情相談は、これまでにも述べてきたように、公的な相談機関が比較的整備されていること、まだ苦情をいうことに利用者がなれていないことなどから相談件数は少ない。むしろ、公的機関の支援が不足している被保険者の権利擁護活動である審査請求に関する相談・支援にニーズがあると思われる。支援の効果を上げるため、OP委員とその他の関係機関専門家による事例検討会を引き続き定例化し、協議していくことが課簸である。
 A クラスアドボカシー(制度改善、新たな制度構築への提案)
 個別の相談活動から分析した運用上のまたは制度そのものの間遁点と改善提案をおこなっている。具体的には金沢市への訪問調査の改善提案、介護保険審査会への裁決のあり方の改善提案をおこなった。このように公的権利擁護槻関の機能が、実際に有効に働くよう監視したり、改善提案をおこなっていくことは、OP委員会の活動の中心となるであろう。
 B 市民の意識変革と活動の担い手の養成
 OP委員会の専門家集団と市民のニーズをつなぐ役割をもつ介護保険市民オンプズバーソン(市民OP)の養成講座を実施した。市民OPは、自分の生活している場でニーズ〈権利侵害)に気づき、OP委員会につなぐ役割がある。市民OPが多ければ多いほど多くのニーズに気づ
くことができ活動が活性化するもので、今後も
養成講座を継続して実施し市民OPの養成をお
こなっていく。
 C 施設オンプズバーソンの活動
 市民OPの活動の場を自分の生活の場だけではなく、介護保険施設に広げ定期訪問によるニーズのキャッチと改善提案という施設オンプズバーソンの活動に発展させていく方向である。この施設オンプズバーソンの活動は、施設利用者の個別のニーズの実現と、施設ケアの質の向上がねらいである。施設のケアのあら探しではなく、利用者個人の幸せと良質の施設建設をつなげるキューピットの役割があるととらえている。厚生省のモデル事業介護相談員派遣事業と同様の機能をもつもので、行政とも協力して展開していく方向を探っていきたい。
 D 介叢保険制度を担う専門家の意識向上の活動
 ケアマネジヤーは、理論的には利用者のアドポケイト(権利擁護する人)としての役割を明確にもっているが、現実にアドポケイトとして機能できている人はまだ少ない。ケアマネジヤーが権利侵害に気づき、権利擁護機関を活用しながら、適切な支援をおこなうことができるようになると、埋もれたニーズの発見率はかなり高くなるとおもわれる。ケアマネジヤーを有能なアドポケイトとして養成する研修の提供をおこなっていきたい。
 E 全国の福祉オンプズバーソン活動等との
   情報交換
 市民O P養成講座のカリキュラムの改善を、大阪の市民オンプズマン機構、さわやか財団、全国老人福祉問題研究会など同様の趣旨の講座を開催しているところの情報を得ておこなっていきたい。また、介護施設の実態調査を実施し、拘束の問題など人権侵害の問題を改善する活動をおこなっている団体との情報交換や、全国の介護保険審査会の運営要綱や裁決内容等の情報収集と比較検討、住民参加で先進的な条例を持つ自治体の情報収集と紹介等全国の動きとつながったスケールの大きな活動の展開をおこなっていきたい。

5 おわりに
 権利擁護(アドポカシー)という言葉は、権利侵害されている人を専門職が支援してエンパワメントし、権利が守られるようにするというイメージがある。確かに制度としての権利擁護のしくみは、その色合いが強い。しかし、制度が擁護する権利の範囲は狭い上に、権利擁護機関がその横能を全うに果たしているともいえない現状がある。そこで大きな役割を持って登場するのが市民レベルの権利擁護活動(シテズンアドポカシー・セルフアドボカシー)である。7)国際高齢者年・石川NGOの介護保険オンプズバーソン委月会活動はまさにこのタイブの活動として、市民が力をつけ、行政や制度をも動かしながら市民自身の連帯で権利を擁護していく活動を展開していこうとしている。

(注)
1)アドボカシー 自己の権利や生活のニーズを表明する事が困難な人などにかわり、援助者がサービス提供主体や行政・制度、社会福祉機関などに対して柔軟な対応や変革を求めていく一連の行動。その機能は@発見A調整B介入C対決D変革が挙げられる。ケースアドポカシーは、個人や家族などを対象としたものであり、クラスアドポカシーは、ケースアドポカシーによって蓄積されたサービスや制度の欠陥にたいして同じニーズを持つ集団、階層、コミュニティのためにその機能を果たすものである(社会福祉用語辞典・ミネルヴァ書房)
2〉 井上英夫「国際高齢者年と介護保険」(医療・福祉研究 第11号)
3)成瀬龍夫「地方自治と医療福祉」(医療・福祉研究 第11号)
4)加藤薗子「介護保険と人権」P14〈かもがわ出版)
5)高橋五江「福祉オンプズマン研究の目的と意義」 (福祉オンプズマン・中央法規)
6)高山直樹「福祉オンプズマンの機能と役割」(福祉オンプズマン・中央法規)
7)河崎洋充「権利擁護(アドポカシー)の方法と種別」(社会福祉実践とアドポカシー・中央法泉)


(てらもと のりこ/
    国際高齢者年・石川NGO事務局員)

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