●特 集/構造改革と人権としての社会保障 介護労働をとりま<環境について 山村 遊幾 |
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はじめに まず本文を書くきっかけとなった自身の経過について触れておきたい。 私は5年間、介護老人保健施設(協力病院と併設)において高齢者の介護に携わった。開設スタッフとして勤務したので、既成のものや前例は何一つなかった。加えて介護スタッフは普大学・専門学校を卒業した者ばかりで高齢者介護の経験者が1人もいないという、ほほ白紙状態からのスタートだった。 みんなで「改善」を繰り返し唱え、暗中模索の毎日が続いた。失敗やトラブル、苦情から課蔑を引き出し、対策を模索し、試行錯誤を繰り返しながらルールやシステム、マニュアルを開発、確立していった。スタッフがチームとしての介護力を備えてはじめて各専門家(PT、OT、Dr、Nr s、MSW、栄養士等)への相談やケース検討を通して連携を図りつつ一緒に解決策を考えられるようになった。そして、ようやく個々の利用者一人一人車、医療・福祉の異なる視点から、組織的・亀合的に見ることが可能になった。そうなるまでには3年程度かかったように思う。▲一その間全力投球しつづけ、ふと自分の生活を振り返る。寝る、食べる、仕事。3つの選択しかない生活は人に「QOLの向上」など−と言える状態ではなかった。そこでスウェーデン、デンマークへ福祉視察に出かけ、高齢者福祉を見に行ったのだが高齢者のみならず介護戦を取り巻く環境の差をはっきりと感じ単まった。日本では施設そのものが利用者と介護者、両者がお互いに無理難題を押し付けあうかのような仕組みになっている、というのが率直に私が感じたことであった。 それ以来、「利用者の人権を守り、利用者の立場にたつ介護」という言葉に無力感しか感じなくなった。試行錯誤して作ったシステムに従って機械的に、効率よく目の前の事物を処理し、何事にも同調しながらやっていける自分を発見したときは、さすがに参った。いわゆる惰性で働いていれば肉体的にも精神的にも楽なはずだった。ところが、意に反して非常に苦痛であることがわかってきた。施設の中をぐるぐる一日中まわって、ほぼ同じ時間に、ほぼ同じ人と、ほぼ同じことを繰り返しているだけなのだから。なんだか、24時間高齢者に追いまわされているような気持ちになり、なぜこんな仕事が楽しかったのだろうと不思議になる。そうなってみてようやく、悟った。その人の気持ちや立場に置き換わって考えてみる事のない介護というのは、単なるルーティン・ワークなのだ。成人を対象とする介護はもともと過酷な肉体労働だったのだと。 事務職に就いてから、一年が過ぎた。介護から離れてからそれがバーンアウトとだということを知った現在、やっと自分の置かれた状況や、高齢者の間遠について考えることができている。 私が介護労働の問題へ目を向けるきっかけとなったのは、この研究会との出会いからである。研究会で扱った「特養老人ホーム等で働く職員の退職で20代・就職後5年未満の割合は67%に達する」という記事にショックを受けた。それは、まぎれもなく自身のことである。そして同僚が次々と辞めていき、その度に味わった、切り裂かれるような喪失感を思った。また、推薦を受けた施設での研修で「一ケ月に一度、必ず職員の歓迎・送迎会がある」という信じられない事態を目の当たりにしたことを思い出した。そのような所、投稿のチャンスをいただいた。 以上が自身の経過である。 本稿では、高齢者介護を軸に介護職を取り巻く就労環境の現状と実態を紹介しながら、介護保険導入後の介護労働について検討したい。 T 要介護の高齢者の状況 1.在宅の要介護者について 1998年度調査1)では、在宅で要介護と見られる65歳以上の高齢者(ねたきり含む)は100万4千人を超え、53%が3年以上の要介護状態である。そのうち寝たきりの者は35万6千人、3年以上寝たきりの者は51%に及び、10年以上においては14.4%で5万1千人を超えている。 要介護高齢者の在宅介護を3年以上続けている家族は50万人を超え、在宅で寝たきりになってからの「いつまで続くかわからない」介護期間の長さも浮き彫りになっている。 一方、在宅の要介護の痴呆性高齢者数は2015年には260万人程度になると見込まれている。 2.施設の要介護者について 特養入所者の要介護状況2)(図1)をみると、基本的ADL、特に排泄・入浴・更衣にあっては全介助を要するものが過半数を超えており、「自立」は25%に満たないということが分かる。特に喋下のみ一部介助、または食事と礁下のみ自立か一部介助である率は18.5%と高率である。特別養護老人ホームの痴呆状況については全国調査2〉も実施されている。それによれば「痴呆なし」はわずかに19%で、逆に「著しい精神障害や問題行動があって、専門医療を要する」ランクMに判定きれる者が約6%、「日常生活に支障のある症状や意思疎通の困難さが頻繁である」ランクWの者が28%と報告されている。これらの資料から、特養においては重度の障害を持つ入所者が高い率を占めていることがわかる。 3.施設数と介護労働者数 現在の状況2)(1999)は特別養護老人ホーム4,214施設で総定数約29.7万人分、2000年度の調査l〉では、介護老人保健施設は約2700施設:23万人分となっている。また、1999年4,214施設ある特別養護老人ホームで寮母は約9万3千人(非常勤含む)、ホームヘルパー敷については、新ゴールドプランで1999年度目標とした17万人■に到達している。ホームヘルパーは2004年には35万人に達すると推定されている。 4.施設と介護者の必要性 在宅で要介護となっている高齢者数が100万人(人口比約5%)を突破している現状に比較して、高齢者が長期入所可能な介護施設は約52.7万人ということになる。金沢市の調査3〉では特別養護老人ホームへの待機者数は現在(2001年10月)1,050名にのほる。このうち「すぐに入居したい」と答えているのは485名である。また、希望理由については「施設は24時間介護で安心」44.8%で最も多く、ト人暮らし(高齢者世帯)で在宅生活が不安」40.2%などとなっている。希望者の要介護度の区分を見ると要介護度4が200名、要介護度5が139名などとなっており、深刻な事態となっている。このことから介護が必要な高齢者にとっては家族なしに在宅生活を維持、継続することは困難な現状であり、訪問介護(ホームヘルパー)に対するニーズもさることながら、依然、施設での高齢者介護に対するニーズの高さががうかがえる。 また要介護者の全国調査2)の結果などから明らかなように、特に在宅であっても特別養護老人ホームであっても「全くの寝たきり」の者に対する介護は日常生活のほとんど全ての行動を対象にするものである。また「痴呆のある」者に対する介護についてはその程度にもよるが、おおむね介護者が一刻も目が離せない状況となり、介護する側が常に傍にいることが必要である。しかし著しい精神状態や問題行動、極端に行動的な場合には介護者が受ける精神的・肉体的苦痛は、耐えがたいものであり、在宅でその行動に家族が対応することは至難の技である。訪問介護などの時間の途切れるケアは、重度の痴呆の場合は寝たきりにならない限り対応できないのが現状であろう。従って「全くの寝たきり」の者であっても「痴呆のある」者であっても24時間365日の対応を必要とされており、介護者が交替し常時いることが求められる。 U 介護労働者の属性 1.性 別 介護労働者の属性において最大の特徴は、女性が多くを占めていることである。介護職に従事する380人を対象に行なった調査4)によると、介護職の92%は女性である。勤務場所別の性別でも、在宅では99.3%、施設勤務では72.1%が女性である。在宅においては男性の割合が0.7%となっていることに比べ、施設勤務では27.9%で4人に1人は男性であるという結果となっている。この調査を行なった研究所の分析では、「この差が生まれる背景には、まず勤務形態が挙げられ在宅勤務は施設勤務にくらべて非常勤・パートの求人が多く、経済的に不安定であることが影響している」としている。また、就労場所として「在宅勤務」が73%を占め、「施設勤務」は23%である。従って、介護労働者は「在宅勤務」の女性が占める割合が極めて高いことを示している。 石川県の介護福祉士を対象に国光らが行なった調査5)では、女性の占める割合が91・9%で ある。また、総数の62.8%が介護職員(寮母)である。ホームヘルパーは11,5%となっている。 2.年 齢 民間病院研究所の調査4〉では9割以上が女性であることも影響して、女性の典型的就労型のM曲線を描いている(図2)。就労別所別に年齢をみると、在宅勤務が全体の傾向とほぼ似た形を描いているのに対して、施設勤務については20歳代が約半数を占める結果となっている(図2)。30歳代においては0.0%である。30歳以上の年齢でも1割に満たない。在宅勤務と比較して極端な波形が見て取れる。 国光らの調査5)では、「20〜29歳以下」31・2%と最も多く、次いで「40〜49歳以下」の29.1%、「30〜39歳以下」22.3%などとなっている。 3.就労年数 前述の調査4〉によると就労年数「2年未満」が最も多い結果となっている。また、就労場所別就労年数では「在宅勤務」では「2年未満」「2〜4年未満」がともに37・2%と最も多く、「施設勤務」でも「2年未満」が29.7%で最も多くなっている。6年以上の就労年数の割合では、「施設勤務」では31・1%であるのに対し、「在宅勤務」は7%となっている。同研究所は「このような差が出る背景には就労条件が多大な影響を与えていることは言うまでもない。」とし、「在宅勤務は非常勤・パートとして就労しているホームヘルパーが多いため就労条件は施設勤務に比べ格段に劣」り、「経済的自立をする職業としては選択しがたい状況にある」としている。 また、仕事に対するストレスの面でも分析しており、非常勤・パートが多い在宅勤務は「就労形態は『直行・直帰』が現在増加」しており、「雇用者側には実際の介護時間のみを実労時間とみなす」ために「同僚に仕事上の悩みを話したり、共感したり、というストレスを軽減することはなく、悩みを1人で抱えてしまう」ことも影響しているとみている。 国光らの調査5〉では実務経験年数(資格取得の時期不問)と年齢の比較では「5〜8年未満」が32.0%で最も多く、ついで「10年以上」の27.1%、「3〜5年未満」の15%となっており、5年以上介護の経験年数を有する者をまとめると全体の71.9%を占める。 これら上記の調査を比較すると、前者は2年未満の占める割合が最も多く、後者は5〜8年と就労年数に大きな差がみられる。後者は介護福祉士の資格を持ち、正職員として施設勤務している者が多いためと推測される。 また、前述した年齢の分布においても、前者は30歳代が0%であったのに対し、後者は22%と多い。これも正職員として採用され、非常勤・パートから比べて経済的にも安定していることが影響していると推察される。 V 就労実態 1.介護職員の退職事情 日本人事行政研究所が福祉施設関係職員の労働条件に関する調査結果をまとめたもの6) によると1999年度の1年間に退職した職員501人のうち30歳未満の退職者は55.4%に上ったと報告している。また、退職者の平均勤続年数は「3年以上5年末滴」が24.7%で最も多く、ついで「1年以上3年未満」が23.7%、「1年未満」は18.6%と、就職後5年未満での退職者が67.0%に達している。退職の理由(複数回答)で最も多いのは「転職」44.7%で、以下は「結婚」32.9%、「定年」22.4%の順となっている。 また、前述の民間病院問題研究所による調査4〉では、勤務場所別の年齢の分布で施設勤務(図2)の示す極端な波型について同研究所では「施設勤務は一度退職した場合の職場復帰がしにくい就労環境があるのではないかと考えられる」と分析している。 同調査4〉では就労場所別の就労年数についてもまとめており、施設勤務においては「2年未満」が29.7%と最も多い。これは在宅勤務の37.2%と同じく最多である(全体では30.5%と報告されている)。 国光らの調査5〉による退職希望についての設問では「仕事を辞めたいと思ったことがあるか」という間に対し「頻繁に思う」9.9%、「ときどき思う」59.3%の回答を得ている。全体をまとめると69.2%が辞めたいと思うことがあると回答していることになる。また、この設問に回答した者に「辞めようと思った理由について」尋ねたところ「精神的に負担が大きい」61.4%と最も多く、「身体的に負担が大きい」50.0%、「給与が低いから」37.4%、「夜勤や不規則勤務」25.4%などと回答がなされている 着目すべきは、仕事における悩み事の相談相手である。「職場の同僚」76・5%、次いで「介護の仕事をしている友人」36.6%、「職場の上司」34.4%、「家族」23.1%などとなっている。 これらの調査結果から、施設介護職員の就労年数が比較的浅い介護職が日常的にしばしば辞めようと考えており、退職を考えるような深刻な悩みであっても、上司よりまず介護現場での同僚を選んでいると推測される。離職を「転職」「結婚」と置き換えていることからも、問題として表面化しにくいことが考えられる。 2.賃金について また、日本人事行政研究所の調査6)では、「退職の理由としての『転職』は、働く施設の種類に関係なく多かったが、面接調査を行なった結果、ある施設ではr年間の退職者8名がいずれも賃金など労働条件が良い施設を求めて辞めていった。」と回答」しており、研究所では「条件の良否が職員の定着率に影響している」と分析している。 同報告では「福祉関係施設職員の年齢別モデル年収は25歳で『300万〜350万円未満』、35歳では『400万〜450万円未満』、45歳で「450万〜500万円未満」を中心に分布している。」とし、厚生労働省の統計をもとに同じ年代で民間企業の従業員の平均年収(試算値):例えば、民間の35歳は、高卒男子が522万9千円、高卒女子が404万6千円;と比較し、「各年代でいずれも民間が高かった」とまとめ、民間の企業の従業員に比べて低い賃金から、同研究所では「人材確保の観点から改善の余地がある」と指摘している。 また、日本医療労働組合の調査7)によれば、同組合に加盟する施設、病院において勤務する介護福祉士の初任給の平均額(1ケ月)は16万円8千円程度である(図3)。大卒医療事務と比較すると、同組合に加盟する施設、病院において勤務する大卒医療事務の初任給の平均額(1ケ月)は18万円4千円程度である。 これらの調査結果から、若年層が介護福祉士の国家資格を取得するなどして常勤になるが、就職してすぐに自立した生活をするのは困難な収入であり、民間企業と比べて低い、ということが言える。 3.労働時間 小野のまとめ8)によれば、日本労働研究槻構の調査でヘルパーの勤務時間帯は正規・常勤・非常勤でおおむね9時〜17時である。しかし「一部に早朝、夜間を勤務時間帯とするヘルパーが存在し、ヘルパーの5・3%が早朝(7〜9時)、7.8%が夕刻〜夜(17〜21時)1.5%が深夜(21〜7時)と回答」している。また、「2割強が曜日を定めない“365日型’’となって」いる。くわえて「週6、7日勤務と回答する者も1割弱存在する」という。 永田らの全国の特養(969施設)を対象に行なった調査9)では夜勤の労働時間は85・4%が16〜17時間であったが、6.5%が18時間以上と回答している。夜勤時の仮眠は卜3時間が多く(72.9%)、「決められた時間に仮眠が取れない」が7.3%、または「時々取れる」が40.5%となっている。さらに、「夜勤により生活・睡眠リズムが崩れる」との訴えが精神的負担の大きい事項(有訴率13・9%)の一つとして集計されている。 これらの結果より、介護者の勤務時間は不規則で長時間であり、これによる身心への負担を知ることができる。 W 介護を取り巻く危険な環境について 1.ヒヤリ・ハット体験 民間病院閉塞研究所の調査4)では、「ヒヤリ・ハット体験者」の状況をまとめている。「体験がある」と答えている割合は7割を超えている。また「体験がある」と答えている人の勤務形態をみると79.2%が「在宅勤務」である。1週間の勤務時間との内訳をみてみると「40時間以上」が全体の46.8%と半数近くに達している。また、「介護中何に対してヒヤリとしたか」という設問に「身体介護」63.5%「家事援助」20.4%、との回答を得ており、特に「身体介護」の内訳では「移動」25%、「入浴介助」14%などとなっている。 2.腰痛間最 大西がまとめた調査報告10)によれば、特別養護老人ホーム8施設の寮母のなかで身動きができないほどの腰痛経験は74.7%にのはったという。また、オムツ交換時の腰部負担や作業中の前屈の度合いについても調査し、「(前屈は)90度を超えることが珍しくなく頻掛こみられ、また、会話などで前かがみのまま姿勢保持することなどもみられた」とし、「前屈姿勢が定常化するのはベッド高が利用者の立ち上がりなどの動作のしやすさなどに設定されているからとみられる」と分析している。また、まとめのなかで「介護作業による腰部の負担は重量介護による疲労蓄積の負荷特性であることに注目すべき」で、「最近の施設におけるサービスの向上などは、介護作業の適正化の視点から検討すべき」と言及している。 また、特養の介護職員3942名を対象に実施した横野らの調査11)では、そのうち腰痛がみられたのは66.2%であった。頚肩腕症状は47.4%にみられたが、そのうち81.2%には腰痛もみられたという。 入所者全員に同質なサービスを提供する施設介護はそれに伴う反復作業が多いという点で在宅と大きく異なる。移動、入浴、排泄の3つの負担作業はいずれもがこれに該当している。 補足として腰痛問題に関して英国腰痛協会(NBPA:1968〜)の報告12〉を紹介する。資料によれば、「毎年6千万日の労働日数が腰痛を原因に失われている」という試算を踏まえ「看護・介護に当たる人々が逆に介護・看護される立場になりかねない」危険性を訴えている。また、腰痛は「患者を動かす仕事に携わるスタッフにとって、最も危険な労働災害」とし、雇用者にとっての腰痛間選とは「予測され避けられたであろう傷害のために、ケアスタッフを失う」、「身体傷害の訴訟が増えていくという脅威に直面すること」の2つの面で危険性があると指摘している。雇用者が就職してくる者に対して援助技術を実践的に指導するだけでは不十分であり、患者を持 ち上げることを避けるよう、方針の変更が必要であるとするEC指令(ヨーロッパ共同体法規の一種)を取り上げている。 その他、全国の介護職2,600人を対象に実施したヘルスケア総合政策研究所調査3)では介護職員の50%が何らかの暴力を受けた経験をもっている。また、介護労働の特徴の一つとして要介護者との接触密度が高く、排泄物を扱うことから、施設においては密閉性の高い空間であり、従って様々な疾病を持つ高齢者から介護者への糞口、飛沫感染の危険性をも学んでいることも念頭におくべきであろう。 X 介護労働に与える介護保険の影響 介護保険は「家族で支える介護から、介護を社会全体で支えるもの」として「介護の社会化」を制度の目標として掲げ、創設された制度である。一方で、介護サービスヘの対価が明確化され、営利法人の参入により競争原理にますます拍車がかかっている。2001年現在、訪問介護の40%、訪問入浴の31%、福祉用具貸与については88%を営利法人の事業所が占めている。介護サービスは「行為」のみが評価される、出来高払いの商品である。利益を追求するために「少ない人数」「安い賃金」「短い時間」でいかに数をこなすかという「効率」が優先される。高齢者を対象とした介護が一大市場となる中で介護職(寮母・ケアワーカー)、殊にホームヘルパーと呼ばれる介護労働者は非常勤・パート・登録制が多数を占め、過酷な肉体労働、低賃金、利用 者からの暴力、セクシュアルハラスメント・様々な問題に直面している。 介護職はY2K【Y(安い)2K(きつい・危険)】業種なのであり、このような条件を飲まざるを得ない現状と、市場原理の進行にともなっての更なる労働環境劣化の様相を見せている。1999発表された「ゴールドプラン2001」は、介護保険制度を中核とした介護サービスの質量、信頼性の確保を目標に掲げている。ところが具体的施策については「民間事業者による創意工夫を活かしたサービス提供」を期待し「利用者の選択に基づき質の高いサービスが選ばれる仕組みとなり、競争を通じたサービスの質の向上」を期待するのみであり、介護職やホームヘルパーを取り囲むリスクを取り除こうとする姿勢は全く見られない。 この状況下にあってホームヘルパーが次々と養成されている。質より量を優先する国家施策と、介護職の就労の実態や健康問邁に関する取り組みが立ち遅れている状況では、介護職の安全は守れないのみならず、高齢者の安全も守れない。昨今医療の分野で取り上げられている医療事故のように、高齢者介護の分野において介護事故が予想される。 おわりに 高齢者に対する介護労働とは、高いQOL(生活の質)を目指して自立を支援する対人サービスである。 高齢者介護とは、老齢に伴う疾病等により身心機能の低下・喪失を残存能力や潜在能力の引き出しに替え、それを活かしての生きがいや自己実現へとつなげるパートナーシップであり、介護職はその専門職である。 介護サービスが「機械的肉体労働」となり、介護労働は「過密・過重労働」となりつつある。それは高齢者を単なるモノとして取り扱うようなサービスにつながる可能性をはらんでいる。このような環境に高齢者を置くことは、老齢やそれに伴う疾病や障害から生きる意欲や生きがい、居場所失っている人に対して追い討ちを掛ける行為である。それはまた、多くの介護職が作り上げ、積み上げてきた介護技術が骨抜きになることであり、介護者としての喜びを奪うこと にほかならない。 対人サービスとは、利用者の人間らしさを追及すればするほど、提供するものの人間らしさは削がれていくものである。だからこそ、提供する側には人間らしさ、権利意識を保つための人員体制や高いコストが必要なのだ。 「健全な権利感覚は、劣悪な権利しか認められない状態に長い間耐ええられるものでなく、鈍化し、萎縮し、歪められてしまう。」(R.イェーリング)14〉ように、介護 サービスを提供する者をQOLの低い、自立もままならない、危険で劣悪な就労環境においたまま介護の理想とサービスの向上のみ押し付けることは決してあってはならない。高齢者介護に携わる全ての人が、自らの権利意識に目覚める事を願うとともに、その1人として、今後この間邁に取組んでいきたいと思う。 |
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