●特集/構造改革と人権としての社会保障
特集にあったって
編集部
 構造改革の断行を掲げる小泉政権のもとで、社会保障は重大な岐路に立たされている。市場への盲目的な信頼を前提とした構造改革は、社会保障を市場の障害物とみなし、市場を強める方向への転換を求めている。それは、非市場的なルールを確立することによって人権保障の役割を担ってきた社会保障に、その役割放棄を迫るものに他ならない。そうした転換を、我々は到底受け入れるわけにはいかない。社会保障を構造改革の嵐から守るためにも、人権としての社会保障という視点をあらためて明確にしその視点から生活と政策の現実を分析する作業が求められている。本特集の意図はこの点にある。 
井上論文は、国連の第2回高齢化世界会議と第1回NGOフォーラムをとりあげ、世界会議で採択された「政治宣言」・「行動計画」の意義と特徴を明らかにし、とりわけ日本で求められる高齢者の人権保障の基本的視点を提起している。「政治宣言」・「行動計画」の内容こそグローバル・スタンダードであるとの指摘は、構造改革への根源的批判である。伍賀論文は、医療機関へ受診したホームレス患者を対象にホームレスの実態を分析し、稼働能力や住所不定を理由に生活保護さえ申請を拒否されるなど自立支援が皆無に近いなかで、体調を崩して医療機関へ入院した人にしか自立への扉が開かれていない現下の人権無視の実態を明らかにしている。山村論文は、より高い生活の質を目指して自立を支援し生きがいや自己実現へつなげる専門職としての介護労働が、「不安定・過密・低賃金・不規則」の状態におかれて単なる過酷な肉体労働に変わり、その裏返しとして人を単なるモノとして扱うサービスに堕してしまう危険が高まっている実態を明らかにし、サービスの質向上のためにも現場環境の改善が不可欠であることを指摘している。本田論文は、痴呆性高齢者の看護の経験から、その人の自己決定を尊重し、かつ安心して暮らせる「場」「人」「地域」をつくりあげることが人権を守るうえで不可欠であり、尊重すべき存在として人間をみる看護の原点に立ち戻ってこれらの課選に取り組むべきことを提起している。岡崎論文は、保育所待機児の解消を逆手にとった保育の規制緩和・民営化・企業参入のもとで、ミニマム保障の崩壊、保育労働の変質、利用者負担の増大が進行し、「最少のコストで最良・最大のサービスを」の方針によって子どもの権利が蔑ろにされている実態を明らかにし、人権保障の視点から保育所を再評価すべきことを指摘している。村本論文は、福祉指導監査を権利擁護と人権の視点から取り上げ、複雑化した現行の法制度を整理しつつ緩和ではなく強化するとともに、現場の実態を踏まえた丁寧な手引きの整備、苦情や情報開示などにおける基準と内容の明確化、個々の事情や到達点を勘案した細やかな指導の実施などを提起している。横山論文は、経済再生のために国民生活を犠牲にする構造改革の反人権的性格を指摘し、人権保障に立場から経済を見直すことを提起している。
 構造改革がどれほど国民の利益に反する策であるか、理論と実態の両面で徹底して明
らかにする必要がある。その作業は、人権の視点に立ってこそ間遠の本質を衝くことがで
きる。本特集がそのための手がかりとなれば幸いである。
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