はじめに
いま日本は,表1のようにかって経験したこともない高齢化社会へ急ピッチで向かっています。ご承知のように,21世紀には全人口の4人に1人が65才以上の老人となり,40代の主婦の2人に1人は老人を介護しなければならなくなるといわれています。高齢化問題が婦人問題であると同時に,核家族化時代の家族問題ともいわれるゆえんです。また高齢化社会へのスピードが異常に速い与とによる社会の諸施設体制やシステムの未整備が問題となってくるだろうといわれています。 表165才以上の人口の推移 1985年
1,250万人(10.3%=10人に1人) 2000年 2,130万人(16.3%=6人に1人) 2020年
3,190万人(23.6%=4人に1人)
こうした社会的状況の中で,行政の手薄な分野をカバーし,時代の変化や国民のニーズに対応した医療と福祉の狭間を埋める健康総合サービス業として出発しようとしているのが「民間救急サービス」です。 しかし最初からトータル的な健康総合サービス業を目指したわけではありません。幾多の紆余曲折を経て,患者輸送車を中心に据えた今日の方向性を見いだすこととなっ牢のです。 これらの経過を述べ,悪戦苦闘の現状を申し上げることが,「民間救急サービス」が何をめざしているのか御理解いただけることになると思います。
1.協会の設立の経過
現在,我々の協会の会員は40社で38都道府県に「民間救急サービス」会社を設立し,事業を開始または開始しようとしています。加盟40社のはとんどが会員制の冠婚葬祭業を営む会社を親会社としています。 冠婚葬祭という仕事は地域密着型の仕事であり,各家庭に深く入り込まないと出来ない仕事です。そんなことで,人口動態や社会構造の変化に敏感にならざるを得ません。また直接各家庭の困ったことや不満などを見聞きできる立場にもあります。 そのような立場から,高齢化社会の到来に向けて,何か新しい社会に貢献できる仕事をと,模索していたというのが偽らない事実です。 在宅介護を中心に据えた「在宅ケア促進研究会」(本部 神奈川県横浜市保土ヶ谷区天王町1丁目1番 代表荻原昭二)の設立もその一つです。昭和62年9月の設立で民間救急協会会員のはとんどが参加しています。こうした動きと相前後して広島で葬儀社を営む方が,「民間救急」ということを提唱され,われわれの方へも話があり,昭和62年10月20日の広島での集いに参加しました。しかし説明を聞いたところ,われわれの描いていたものとは全く違ったものでした。 特に,「家庭と医療機関を結ぶパイプ役」ということに重点を置いていながら,車輌は特定の病院と提携して,その病院の所有する自家用の救急車を代行運転するといったたぐいのものでした。この方法では法律的に違法性がある上,葬儀との連動の話が多く,会場のロビーに集ったわれわれ有志は途方にくれました。 しかし気を取り直して話し合った結果,将来事業として成立させるには救急車(現在は患者等輸送車と称している)を独自で所有し,青ナンバー営業ができるようにすることが最も重要であるという結論に達したわけです。 ところが誰と相談しても民間の救急車など許可が下りるわけがないというわけです。それならこの事業が21世紀に向かって絶対に必要であり,なくてはならない事業であることを訴え,事業認可をとろうというこ上になったのです。 そのためには全国組織の推進組織を作ろうということで,広島会議の1ケ月余後の昭和62年12月9日に9名の発起人で設立発起人会を開き,同月24日に23社が参加して設立総会を東京で開き,全日本民間救急協会(会長奥野博一富山)が設立されたわけです。
2.協会の基本方針の概要
協会の設立にあたり,われわれが留意した点は,門戸を広く全国に参加を呼びかけるのも急務だが,それよりも大切なのは理念の確立であるとしたことです。 短期間に全国的に多くの参加を呼びかけるとなるといろいろな人が参加して,中には真面目にやっている人に迷惑をかけるといった者もでてくるのではという懸念がありました。 そうしたことも配慮して (1)奉仕の精神を有する者 (2)遵法の精神を有する者 (3)患者輸送事業の健全な発展を願う者 以上3点を設立趣意書に盛り込み,協会参加資格としました。 ところが具体的に活動を始めてみますと,われわれが想像していた以上に問題が多く,事業免許の取得など不可能に近いのではないかと思われる程でした。特にわれわれの目指す事業に関する運輸行政の現状はあまりにも問題が多く,ひどすぎるものでした。 例えば,88ナンバーの自家用の患者輸送車が全国に数千台もあり,その所有者のはとんどが葬祭業者であることが分かりました。 なぜ葬儀社が自家用の患者輸送車を持っているのかというと,昭和40年代頃より自宅死亡と病院死亡の率が逆転し,現在では80%以上が病院死亡という現実があるわけですが,そのうえ昭和40年代頃より全国的に互助会システムの企業が葬祭に参入し,葬祭業そのものに競争の原理が働き,病院での死亡者の搬送が即葬儀の受注に直結するというわけで,各葬祭業者は競って寝台霊柩の免許取得に熱心になったわけです。ところがその免許(一般乗用貨物自動車運送事業地域限定寝台霊柩)の申請を運輸省へ申請しても,その頃ははとんど許可しないわけです。そうなりますと葬儀社にとって死活問題になるため,競って自家用の患者輸送車と称する車(寝台車)を所有し無料で運行を始めたわけです。そうなると免許を持っている業者より有利なわけです。特定の病院と提携して,昼は無料でその病院の患者を運び,夜はその病院から発生する死亡者を運ぶといったシステムがいっの間にか出来上がっていったわけです。関東陸運局管内,近畿陸運局管内に多いわけですが,主として100万都市を中心にした地域に自家用の患者輸送車が多く見受けられます。 われわれは愕然としましたが,急遽理事会,総会を開き,入会資格に一項を追加しました。 1.当協会に入会しようとする者は独立会社を設立し,社を設立し,その定款目的が協会の基本方針に合致するものであること。 要するに純粋に患者輸送業を行う者に限定したわけです。 そして,運輸省並びに各地方運輸局に陳情を行ったわけです。陳情の要点は 1.患者輸送車を一般乗用旅客自動車運送事業の中で「限定別立」とし早期認可を要望する。 2.霊柩(貨物)と患者輸送(旅客)とを明確にした行政指導を要望する。以上2点に絞って陳情を行ってきました。 またその問に協会参加各社は・患者輸送業を目的とした独立会社を設立し,ほとんどが車輌も購入し,申請を提出していきました。奥野会長以下理事の方々の精力的な行動によって,協会設立の丁度1年後の昭和63年12月9日に運輸省局長通達として患者等輸送事業が認可の方向で推進されることになったのです。 しかし,その通達はわれわれが要望していたものと少し色あいを異にしているものでした。われわれの動きに反対を表明していた全乗連(全国タクシー協会)の所有する寝台車も同一に扱う「まだら色」の通達となっていました。この通達では協会の本来の事業目的を十分遂行することは不可能であるが・過渡的事業形態として運営しながらI将来を切り開いてゆこうということになりました。 ここでわれわれの理念の裏打ちともなる基本方針を明確にしておこうということになり・ 全日本民間救急協会基本方針を作定しました。 全日本民間救急協会基本方針 (一部抜粋) <事業の目的> 当協会(JAA)会員の行う事業の目的は,国民の生命,健康の維持及び増進に質の高いサービスを提供し−健康で文化的な国民生活に寄与することを目的とする。 <事業の内容> @ 救命救助事業 緊急傷病者輸送と緊急手当 A地域医療システム支援事業 傷病者並びに車椅子又は寝台を必要 とする身体障害者及び寝たきり老人等 の病院の通院,転院,入院・検査等の 移送業務 B社会福祉支援事業 車椅子又は寝台を必要とする身体障 害者及び寝たきり老人等の養護施設・ 老人ホーム,旅行などの移送業務 C健康増進事業及びその他関連事業 セルフメディケーションの推進 在宅介護の支援 以上の4項の事業を展開してゆこうとしているわけです。こうして分けて書きますと各項が違うように見えますが,実際の現場では密接に連動しているのです。例えば@の救命救助事業をなぜ導入しなけ ればいけないのかとよく言われます。特に「民間救急」という名称のことを問題にされます。しかしれわれは健康でない方や老人の方ばかりお世話するわけです。いつ容態が変化するか分からないわけです。老人ホームヘ移送軋疾が気管につまっても危険があるのです。このことは消防庁救急部が長年の経験で最もよくご存知です。※この@の項目を切り離すことは,生命体である人間を単なる物を運ぶ運送業者に堕落させてしまうはどの危険性があるのです。われわれは今すぐアメリカのような民間の救命救助を目的とした救急業務をやりたいと言っているのではありません。せめて点滴を取り変えたり,疾吸引器を使用してもよい資格を持った隊員を乗務させたいと思っているわけです。 また厚生省や医師会などが心配しておられる移送中の容態の悪化への対処に関しては,例えば,消防署と密接な連携プレーで,現在地と送先病院の距離などを判断していただき消防庁の指示によって緊急指定車に早変わり出来るシステムを構築したいと協会では思っているわけです。こうしたシステムを作ることは全国の1台しか保有しない町村などでは,救急車が出動している時などは代役ができるとか,大災害などのときも官民一体となって救助活動ができるものと思います。このようにAの地域医療システム支援事業やBの社会福祉支援事業を円滑に行なうには @の救命救助事業も欠かすことができないのです。 またCの健康増進事業及びその他関連事業というのは,どんな関連があるのだと思われるでしょうが,われわれは実際に患者輸送業を行って見て,寝たきり老人を抱えた家庭や 在宅介護をしておられる方がいかに大変な負担を背負っておられるかを毎日見ているわけです0なんとかしてそうした家庭の負担を軽減できる方法を考えてゆこうということになったのです。 それは例えば,昔,家族の多い家のお嫁さんが一日中洗濯に時間をとられていたが,洗濯機ができ,よくおちる洗剤ができ,脱水機ができ,乾燥機ができたため,洗濯がそんなに負担にならなくなったように,介護を要する老人を抱えた家庭が民間救急サービスの行う総合サービスを受けることによって,本当に助かったといわれる形にしていきたいわけです。在宅ケア促進研究会と共に進んでいる のもそのためです。 また実際運行した集計グラフ図1の通り,はとんどが高齢者の移送です。隊員にとっては自宅のペットから病院のペットまでほとんどホームヘルパーか看護婦さんが行っているような業務内容となるわけです。長距離移送ともなると,用便の世話までするわけです。介護用具の操作も知っていなければいけません。
このように,利用者に安心していただくための最低の条件を整えようと努力しているわけです。 現在・東京消防庁では利用者が安心して民間患者輸送サービスを受けられるようにするため「認定制度」の導入を検討しておられます。この制度は,われわれが移送業務を行ううえで最低限必要と判断された基準を消防庁が設け,それをクリアした事業者を認定しようというものです。車内には酸素ボンベや人工呼吸用のポケットマスクや吸引器などを備え付けることや,乗務隊員に対してその使用 方法や患者の観察に必要な知識を習得させるための講習の実施,さらに緊急時の消防署との連結体制などが検討されています。 また一方厚生省では,消防庁とは別途に,医師法や医療法で許される患者取り扱い範囲の設定や,患者輸送サービスの質の向上を目的とした施策の両面から,われわれの事業を指導する方向で検討が始まっています。 これら行政の動きに対して,われわれは,その具体的指導要項が判明してから,実情に合ったものであるかどうか検討の上,協会としての対処をしようと申し合わせています。
※ 消防の救急業務の現場で,あの時緊急手当をしておけば助かっただろうと思われる人を何回 も運んだという話を聞きました。現在の消防の救急業務は,医師法によってベテラン隊員であっても,ほとんど何一つ緊急手当が出来ないことになっており.とにかく早く病院に運ぶだけといっても過言でない程度の作業しか出来ないわけです。
3.利用料金の問窟について
利用者にとって,最大の関心事は1に患者輸送時の安全度と2に利用料金だと思います。 特に消防の救急車や病院の救急指定車をうまく利用していた人にとっては,無料感覚が身についており,低額であろうと有料となると抵抗があることだろうと思います。 そうしたことも勘案して,とりあえずタクシーの2割増の運輸省認可料金で運行しているのが実状です。しかしタクシーより高価な車輌を導入し,日赤の救急法の有資格者で,2種免許を有する乗務員を2名乗せているわけですから,経営的には非常に苦しいわけです。 特に,われわれは医療と福祉と密接に関わる仕事が多いわけで,その取り巻く環境は,医療の面でも,福祉の面でも,老人保健法や社会福祉法の適用を受けたり,行政や福祉埼体の支援などを受けておられ,受給対象者にとっては有料感覚がなく,われわれの行う患者や老人の介護移送料だけが金をとられたと思われるわけです。 協会としてもこのことを一番問題にしており,今後の最大の課題としています。国や厚生省が在宅ケアを推進し,又医療関連ビジネスを健全育成しようとするならば避けて通れない問題でもあるわけです。 わが国の老人医療費は表2のように急増していくと言われています。また在院日数もア メリカの4倍というのが実態です。
表2 老人医療費の推移 昭和64年
昭和75年 昭和85年 唇民医療費 約18兆円 約43兆円 約88兆円 老人医療費 約4.8兆円 約16兆円 約36兆円 (嘲費
(27%) (37%) (41%) 表3 平均在院日数 (WHO1983年) 日 本 39.7日 アメリカ 7,9日
イギリス13.1日 フランス13.6臼 西ドイツ14.9日 スウェーデン12.5日
これらの数字を総合的に考えるなら,国や厚生省が在宅ケアの充実を訴えることは至極当然のことと思います。しかし,在宅医療や在宅介護をいくら推奨しても,在宅医療や在宅介護を可能にする環境を整備しない限り「笛ふけど」になってしまいます。 例えば,当社が扱った事例を申し上げますと高齢の寝たきり老人を抱えておられる家で,長男夫婦は共働きで,孫たちは東京で会社員と大学生といった具合で,ウイークデイの日中は寝たきりわ老人とその老いた妻だけとなります。介護は老妻がしておられました。最初のうちは月に1画だけ病院に行けばよかったそうで,その時は長男の方が会社を半日休み,奥さんの方もパート先から一時帰宅し, タクシーを呼んで後の座席に寝かせ病院へ通院していたそうです。しかし病院の方で過に 1個来るように言われ,同じ方法で2過日の通院を終えて帰宅した時,寝たきりの老人の方から「入院しようか」と長男に言ったそうです。その老人は今まで「死んでも病院などへは入院しない」と言っていたそうです。要するに,長男や嫁が会社を過1匝僻んで,迷惑をかける,自分さえ入院すればと思ったのでしょう。 図1のように民間救急サービスの行う患者移送は,その実績の50%までが70才以上の老人であるわけです。こうした実情を踏まえ,我々は老人保健法第17条第6号の適用を要望しているわけです。 老人保健法 第17条 医療は,疾病又は負傷に関して行われる次に掲げる給付(第31条の2策1項に規定する厚生大臣が定める医療に係るものを除く。)とする。 1
診察 2 薬剤又は治療材料の支給 3 処置,手術その他の治療 4 病院又は診療所への収容 5 看護 6 移送 7
その他政令で定める給付 「民間救急サービス」が全国均一のサービスの提供ができるようになり,老人保健法の適用が可能となった場合,在宅医療,在宅介護の飛躍的進展があるものと確信しています。現在入院しますと1ケ月の医療費が一人平均約457,000円かかり,在宅医療では約46,000円で済むといわれています。そこで我々は下記の図式を提案しているわけです。 入院費 医療費 介護移送費(過1回) 457,000> 46,000+22,500 +アルファ また地域医療計画にある,医療圏内に於ける医療施設の有効利用という施策に関しても,現状は惨憺たるものです。 あるA病院の現場の医師より依頼があり,入院中の患者を高度医療機器を有するB病院へ運び,再びA病院へ移送した時,その請求書を患者さんからもらってくれということで患者の方へ請求したら,患者の方は医者が勝手にB病院へ往かせたのだからA病院が費用を負担すべきだというので,A病院の事務長のところへ行ったら,事務長と依頼した医師とが電話で口論となり,なかなかいただけないといった具合です。この事例の場合,最後は患者さんが被保健者移送承認申請書を保険者(市町村長)に提出したが,今だに下りてきません。 今日までわが国に無かった全く新しい事業であるため,医療や福祉の現場では当分の間ぎくしゃくした状態が続くのも無理からぬことかもしれません。しかし,真面目に人命を救おうとする医師もうんぎりして,己の中にある医療機材だけで処理してしまおうという気持ちになったら大変です。 現在,下記のような法律が以前からあるわけですが全く運用されていないのが実状です。 ・健康保険法第43条第6号 ・老人保健法第17条第6号 ・身体障害者福祉法第19条第3項の第6号 ・原子爆弾被爆者の医療等に関する法律第 7条第2項第6号 上記のような法律があるのになぜ運用されていなかったかと言えば,今日まで料金が設定された対象となる患者輸送車というものがなかったからです。確かに以前からタクシーがあって,被保険者による請求は行われていたのですが,はとんどは被保険者もそんな法律は知らず,又請求手続きの方が面倒で審査も厳しく,この法律の適用を受けた受給者は微々たるものであったのです。
4.今後の展開
以上述べてきたようにわれわれの「民間救急サービス」は社会的背景のなかで,21世紀に向けて生まれるべきして生まれた業態であると言えます。しかしその取り巻く環境は前途多難と言うべきでしょう。当協会としても山積みする難問を一つ一つ解決し,高齢化社会における国民のニーズに応えてゆきたいと思っています。今後の展開としては,下記の5項目を重点課題としています。 1.全函ネットワークシステムの完全確立 2.社団法人化の推進 3.保険適用の諸問題 4・緊急指定の早期実現 5・緊急手当と乗務員資格制度の確立 (あとがき) 今度,医療福祉問題研究会とお出会いさせていただいたことを有難く思っています。 特に医療と福祉を歴史的,学際的に見っめなおし・クロストキングを行ってゆこうという試みに敬意を表します。また,われわれの「民間救急サービス」そのものが・医療と福祉の「際」的存在であり,「際」に立っ素人の眼で医療や福祉を見上げますと・あまりにも複雑巨大に映り,かえって地域住民や一生活者の立場に立って,単純に困ったことは困ることとしてとらえた方が良いと思っています。 多くの難問を抱え・地域住民のために良かれと信じて出発した「民間救急サービス」のめざすところが少しでもご理解いただけたら幸いです。 期待しています(1) 医療・福祉研究会への期待 先日,岡山県倉敷市の水島協同病院から,「命をうばうもの−いま告発する医療の現場から−−」をお送りいただきました。ぜんそくを患う父子が・国民健康保険に入ると1カ月約3万円の負担,自費で医療費を払うと月々7・340円(月2拘通院)であると報告されています0しかし,入院でもすればたちまち困ることになる,という不安に・たえず直面していて,ここに福祉をめぐる財政・経済問題の重要な断面が示されていると感じました。 現代の経済学では・不確実性に対する人間の意思決定の問題をよくとりあげていますが・生活の不安を−歩一歩と取り除きながら,未来をきり開く上で,すぐれた経験や情報の価値は・この上なく,大切になってくると思われます。制度が複雑となり,個別化し・官僚化がすすみますと,障害を うけたものの立場にたって適切な情報を提供しうる専門家の役割は,ますます重いものとなって参ります。この時代の,これらの課題を根本から解決すべく,ご研究の一 層の発展を願い,とりあえず。 池上惇(京都大学経済学部教授)
|