『医療・福祉研究』 Sep.1990
特集/過疎地域における医療・福祉
珠洲市における福祉行政の現状と課題
一高齢化に伴う老人福祉・身体障害者福祉・生活保護について−
珠洲市福祉事務所 斎 藤 忠 雄

1.管内の概要

 珠洲市は日本海に突き出た能登半島の北端部に位置する市であり、昭和29年7月15日に3町6村が合併し、面積247.18キロ平方メートル、人口3万8,597人の市として発足した。 

 その後、面積は別247.41kmとなったが、青年層の大都会への流出が続き、平成2年3月現在の人口は2万5,547人(世帯数は7,156世帯)となっており、市発足当時に比ペて1万3050人の減少がみられる。

 このため、青年層の就労する企業、産業が少ないなどいわゆる過疎地域としての諸問題をかかえている。 市の中心は、海岸に沿った小平野の開ける富山湾にあり、特に飯田がその中核となり、他に鵜飼、上戸、野々江、正院、蛸島、三崎、及び若山の南部にわたって市街地を形成している。 

 当市は、長い間近代的交通手段に恵まれず、旅客・貨物とも飯田の富山湾対岸にある七尾、伏木を往復する海上交通に依存していたが、昭和39年9月に国鉄能登線の開通により大幅な交通手段の飛躍をみた。

しかし、その後の経済の発展とともに交通事情も変化し、累積する赤字経営のため、国鉄能登線は廃止となり、昭和63年3月から第3セクターによる「のと鉄道」として新たに発足をみたが、その経営の前途は多難である。 

 また、昭和60年に行われた国勢調査により当市の産業就業者構成をみると、第1次産業就業者比率33%、第2次産業就業者比率30%、第3次産業就業者比率37%となっており、当市の暮らしを支えているのは第3次産業の位置が大きい。 

 そして、当市は出稼ぎ者が多く、平成元年度中で6カ月以上の出稼ぎ者は、男子約1200人、女子約280人の計1400人である。

 2.福祉行政をめぐる状況 珠洲市は、過疎化が進んでいることは先にも述べたが、同時に人口の高齢化も急激に進んでいる。

 平成2年4月の調査では、65歳以上の老人人口比率は、総人口の20.1%と高く、独居老人比率は65歳以上の老人の8.9%、老夫婦比率は同比の4.7%、また寝たきり老人比率は同比の1.5%という状況である。

 また、平成2年4月現在で管内に身体障害者の手帳交付者が1,047人いるが、この高齢化は当然、身体障害者にも及んでいる。

 当市においても、高齢者福祉の充実が重要な課題となってきている。管内では地域福祉推進チーム、市総合福祉サービス調整会議の設置等、そのための協力体制づくりも始まっているが問題点もあり、行政もまた財政援助しながら、なお一層その運用調整をし検討すべきであろう。 
 本格的な長寿社会の到来を間近に控え、当市のこれからの最大の課題は、市民が生涯を通じ、家族や地域とのつながりをもちながら、「健やかでいきいきと生活できる豊かな健康と福祉社会」を築くことにあるのではないだろうか。

 以下、ここでは高齢化にともない、基本の老人福祉事業、身体障害者福祉事業、及び生活の保障をする生活保護とについて主要な施策の実施状況と課題を述べてみることにする。3.老人福祉

@在宅福祉施策
 在宅福祉施策の中心的施策は家庭奉仕員派遣事業である。

 家庭奉仕員は現在8人在籍しており、訪問家庭の多くは一人暮らし老人世帯であり、飴世帯を対象に過2回の訪問を行っている。

 8人は、形式上は老人家庭奉仕員6人、身体障害者家庭奉仕員1人、心身障害者(児)家庭奉仕員1人に区分されているが、実際には一体となって取組んでおり、話し相手、また買い物や家事等の援助者として、老人の日常生活を支えている。

 また、家庭奉仕員が要員としてサービスしている事業に入浴サービス車派遣事業がある。現在1台の入浴車で、身体上障害のある老人など32世帯に月平均1回のサービスが行われている。

 しかし、今後対象老人が益々増えることは明らかであり、これら両派適事業は、家庭奉仕員が兼ねているために、現状でも派遭対象老人世帯の訪問活動等に十分な余裕がないようであるため、入浴サービス車派遣事業については嘱託等の専任従事者を早期に確保すべきであろう。
 老人福祉連終員設置事業は、一人暮らし老人への一声運動・安否確認を目的とした市単独事業である。現在近所の人を中心に100人の委嘱設置となっており、前述の訪問事業に取って代わるものでないが、老人の不安軽減等の役割を担うという点で補完的位置にあるといえよう。
老人日常生活用具貸与・給付事業は、特殊寝台・マットレス・エアーマット・腰掛け便座等の貸与・給付を行っている。

 デイサービス事業は、管内にある特別養護老人ホーム長寿園に事業委託して適所により虚弱老人の健康保持増進と家庭の負担軽減を図っている。

 現在、定員100人いっぱいの利用者がいるが、利用希望者が増えて拡充が望まれており、事業の運用等の検討が迫られている。

 長寿園で入浴・給食サービス・リハビリ訓練・生活指導・身のまわりの相談等が行われ、また、一日600円の低料金で利用できるとあって人気が高いのであるが、一方それだけ市内に老人が手軽に利用できる憩の施設がないためともいえよう。

 寝たきり老人短期保護事業(ショートステイ)は、長寿園・能都町の鳳寿荘、七尾市の七尾城山園と契約して実施しており、老人を介護している家族があらかじめ市へ登録、利用券の交付を受け、それを直接、老人ホームヘ持参して申し込む。

 期間は一週間である。 ナイトケア事業は、痴呆性老人等、常時介護を必要とし、夜間の介護も必要な老人が対象で、一臥一過間以内の夜間だけホームで介護を受けるもの。 

 在宅老人介護支援センター設置事業は、平成2年10月から長寿園に事業委託して、新たに始まる事業であり、在宅における老人が虚弱・寝たきり若しくは痴呆等日常生活を営むのに支障がある老人又はこのような老人を抱える家族等を対象とし、24時間体制で対応するものである。手続き等は後日福祉事務所で行なう。

 以上の施策の他に、在宅老人施策として、老人福祉電話の貸与・老人緊急警報装置整備

 事業・寝たきり老人布団乾燥事業・在宅老人介護慰労金の給付事業が行われている。
 また、老人の生きがい対策として、老人クラブの育成、ゲートボール場の設置と整備、
8乾燥事業・在宅老人li行われている。、対策として、老人クール壕の設置と整備、 国民宿舎等の利用助成等の事業が行われている。

 また、こうした福祉施策と保健・医療との総合調整機関として珠洲市総合福祉サービス調整会議を設置するとともに、地域福祉サー ビス推進を図るべく、民生委員の担当地区ごとに民生委員をチームリーダーとした地域福祉推進チームを82チーム結成している。
 
 だが、まだ手探りの状態であり、具体的活動としては推進チームごとの年1拘の給食サービスのみである。チーム活動として要保護者の発見・相談等地域における情報把纏する等の活動が望まれる。

 なお、平成元年度から医療(市立病院)・保健(市保健年金課)・福祉(市福祉事務所)
の行政関係者が集まり、三者連絡会議も開催され、情報交換等を行っている。

A施設福祉
 市内に特別養護老人ホーム長寿園があり、定員が100人で市内から現在、63人の入所者
がいる。他に、市外の特別養護老人ホームに7人、養護老人ホームに柑人の入所者がおり、
市の入所措置人員は計89人である。 

 長寿園は珠洲市と内浦町とが社会福祉法人を設立して協同設置運営しており、入所対象者の増加のため平成2年4月から入所定員を50人増やして100人となった。

 過疎化に伴い、一人暮らし老人が増え核家族化してきているため、長寿園には、前述したデイサービス事業・在宅老人介護支援センター等市の委託事業が増え、在宅老人福祉の処遇実技を行う等、地域福祉推進の中核となりつつある。

 老人福祉は、以上のように、国・県レベルでの事業が多岐にわたっており、市レベルで
は、財政的制約が大きいだけに、事業種類がふえても財政補助が伴わなければかえって福
祉行政の矛盾が深まるだろう。

 4.障害者福祉
 珠洲市における身体障害者手帳交付数は、平成2年4月現在で、1,047人となっている。
内訳は視覚障害者94人、聴覚障害者157人、肢体障害者657人、言語障害者11人、内部障
害者128人である。

 手帳の交付については、近年、高齢者の申請が増えているが、これは鉄道運賃の割引・
補聴器費用の補助などを受けられることが要因と考えられる。

 平成元年度中の補装具の給付事業は、義足交付2人・義手交付1人・下肢装具交付2人・補聴器交付14人・同修理4人・車イス交付5人・同修理6人・電動車イス修理1人・歩行車1人・頭部保護帽交付1人・杖交付2人・畜尿袋交付16人で、交付の計43人、修理の計11人、合計54人であった。 

 日常生活用具の給付事業は、平成元年度中に特殊寝台2人・特殊マット2人の交付申請があった。

 更生医療給付事業は、平成元年度中に人工透析で32人が更生医療適用となった。心身障
害者医療公費負担事業は、身体障害者手帳1・2級の所持者にたいする医療一部負担を公費
助成するもので、平成元年中は身体障害者65歳未満223人・65歳以上184人計407人が適用
となった。 

 施設入所者状況については、平成2年4月現在で、養護施設6人・重度授産施設6人・授産施設2人・重度更生援護施設3人の計17人施設入所者がいる。 

 以上が、当市における身体障害者福祉の主要な施策であるが、高齢化に伴って、高齢者と障害者が重複するケースが増えていくことが予想される。

 その際に、いずれに施策の対象となるかによってうけられる内容も違ってくる。年齢と障害との双方が該当する場合は年齢が優先する運用を行っているが、機械的な適用でなく高齢者の具体的状況に即して弾力的に施策を実施すべきと考えられる。

5.生活保護

 生活保護の実施状況と近年の推移は、いずれも年度平均であるが、別表のとおりである。被保護世帯・保護人員・保護率とも減少してきている。これは、年金受給等の他法・他施策の活用が主な要因であろう。

 近年の保護の申請は、はとんど老人世帯であるが、過疎化に伴い、老人世帯が増え、管外居住の子ども等からの仕送り援助もなく老齢年金受給だけでは生活ができなくなり保護申請に至るものである。

 保護開始の理由は世帯主の傷病が多く、次いで世帯員の傷病が多い。
 また、保護廃止の理由は、死亡・病気治癒が多く、高齢者の自立更生は無理で死亡廃止がほとんどである。

 結局死ぬまで保護というケースが多くなっている。母子世帯のケースは約7割が自立し、保護期間は、はぽ7年〜10年である。

 過疎化が進む中にあって、保護行政も老人世帯のケースは老人と子ども達との疎遠防止を図り、扶養義務調査を徹底しているところである。

 また、被保護世罫が減少しつつある中であっても、老人世帯の人びとには、実態に即した、よりきめ細かな対応を講じていくことが必要であろう。

 このため、相談から保護の決定、実施に至るまでの各段階においては、常に相談者あるいは要保護者の置かれている立場を理解した上で、助言指導の内容が正しく伝わるよう制度の運用に努め、「必要な人に必要な保護を実施する」を基本に指導援助を行うことが大事である。
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