特集/保健・医療・福祉と地域づくり
『医療・福祉研究』No6 Dec.1993
地域の総合的福祉施設めざしてスタート
-「やすらぎホーム」入居者・利用者の状況から−
特別養護老人ホームやすらぎホーム施設長 鈴 木 森 夫
特養ホーム(長期利用)

 短期間の入居受け入れ

 1993年7月1日、開園初日から入居者の受け入れが始まりました。従来の施設開設時の入居受け入れに比べかなりハイペースでしたが、長い間入居を心待ちにしていたお年寄りやその家族の状況も考え、50人の方が約2ケ月間で入っていただくスケジュールを組みました。

 事前面接の情報をもとに介護の状況、希望を考慮して順番を決め、スムーズな受け入れをめざしました。しかし、職員の大半は新卒者や特養未経験者であり、開設前に他施設で3週間の実習をつんだものの、入居者一人ひとりの状態を把握し、その変化に対応しながら2ケ月間で受け入れることは、想像以上に大変なことでした。

 ほとんどか、病院・老人保健施設から 金沢市や近隣の自治体から「措置」された入居者は、その9割が病院と老人保健施設からの入居で、在宅からは5人しかいませんでした。
 
 これは、入居申請してから4年以上待機していた方も少なくないように、特養入居が必要になってからの期間があまりにも長く、結果、家族による在宅介護の限界を超え、病院や老人保健施設に入らざるを得なかったためであることは想像にかたくないでしょう。

 当園では入居前と後の生活のつながりを大切にしようと、家族の方に、ご本人の使い慣れ親しんだ家具・調度品の持込みをお願いしていましたが、大半の方が病院・施設での生活が長かったためか、新しく用意されたケースがほとんどで、園としては拍子抜けでした。


 女性が圧倒的に多い理由は


 現在入居者50名中実に43名が女性であり、著しく女性の比率が高いのに改めて驚いています。この傾向は、当園特有のものではなさそうで、他の特養でも男女比はおよそ1:4と聞いています。これは、高齢人口の女性比率を大きく超えており、当園デイサービス利用者の男女比が0.8:1.0であることからも、女性が高齢で障害や病気を持ちながら在宅生活を続けることが、男性に比べまだまだ困難であるあらわれと考えられます。

 ショートステイ(短期利用)

 開園当初から、在宅で介護を受けているお年寄りに短期間利用していただくショートステイの依頼や問い合わせが相次ぎ、特養の在宅支援機能への期待の大きさを改めて実感しています。

 日立つ在宅要介護者の重症化

 9月からは、4床がほとんどフル稼働していますが、利用ケースの中には、介護面でも医療面でも入居者よりもはるかに重度の方も少なくありません。病院から治療の可能性がないと半ば強制的に退院させられ、しかし重介護ゆえに老人保健施設への入所も断わられ、転々と何ケ所かのショートステイを利用している例もありました。
 
 このような在宅要介護者の重症化に、特養がきちんと対応していくためには、より濃厚な援助の手が必要な特養の在宅支援事業に対し、職員配置や事業委託費の大幅な改善がはかられなければならないと痛感しています。

 国や自治体は、特養の在宅支援機能を強調するだけで、その機能強化に対する具体的な対策が遅れている現状では、施設側や職員の努力の限界を超えており、たとえペットが空いていても、残念ながら手のかかる利用者は断わらざるをえないことも起こってきます。
 デイサービスく適所利用)

 利用者どうしのつなかり大切に

 B型の老人デイサービスセンターとして、金沢市福祉サービス公社の業務委託を受け、近隣の3つの小学校校下を対象に、8月から事業がスタートしました。 現在、登録者36名、月利用延べ人数250名、1日利用者平均12.5名、ひとり当りの月平均利用日数約7回です。このように利用登録者はまだ少ないため、利用回数は希望通り受けることができています。

 利用者のなかには、過5日利用しているケースもあり、ほとんどの方は週2回以上通っています。このためか、利用者どうしのつながりが密接となって、仲間意識も生まれはじめ、家に閉じ込もりがちだった利用者が、来る日を心待ちにして適ってくるようになるという変化が見られるようになりました。

 重度の方こそ利用してほしい

 市内で初めての特養併設のデイサービスということから、当り前のことではありますが、重度の障害を持っていても、痴呆であっても、真別せず積極的に受けていく方針でのぞんでいます。 
 そこで、現在、利用者の8割が、いわゆる特養対象者となっています。 また、デイサービス利用者が定期的にショートステイを利用するケースも出てきております。

 地域の総合的福祉施設めざして在宅介護支援センターの早期実現をこうして、やすらぎホームが地域の総合的老人福祉施設として第一歩を踏み出しました。

 いまのところ金沢市としては、当園の在宅介護支援センター併設には消極的のようですが、専任の相談員・保健婦またはヘルパーを配置できる支援センターの設置により、さまざまなニードをきめ細かく把握し、その対応を住民のみなさんと一緒になって考えていくことによって、特養の在宅支援機能を飛躍的に発展させられると確信しています。

 やすらぎホームでは、いまでもできることは積極的に取入れ、実質的な支援センターとしての実績づくりをすすめたいと考えています。



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