〈特集〉介護保件のあり方を考える
訪問着護ステーション活動について
                  表   美子恵

1.はじめに
 県内4番目の訪問着護ステーションとして、平成6年6月よりスタートした金沢・訪問者護ステーションで、訪問看護事業にたずさわっています。
 長年、保健所の保健婦として寝たきり老人の訪問指導事業に従事してきましたが、なかなか在宅生活支援の充実をかなえることができない現状でした。まだ、1年9か月の訪問着護ステーションでの活動ですが、ステーション活動を通して感じたことを報告し、今後の在宅生活支援のあり方を考えていきたいと思います。


2.訪問者謙ステーションについて−制度の概要
 (1)制度の趣旨と経緯
 高齢社会に向けて、在宅の寝たきり老人に対する総合的在宅ケアの体制を整備するため、平成3年10月に老人保健法が一部改正され、平成4年4月1日に「指定老人訪問着護制度」が創設されました。
 この制度は、看護が必要な高齢者に対して、生活の質(QOL)を確保し、日常生活動作能力(移動、食事、排泄、着脱衣、整容、意志疎通)を維持・回復させると共に、住み慣れた地域社会や家庭で療養できるように、本人、家族を支援するために作られたものです。
 平成6年10月には、医療保険制度の改正によって「訪問看護制度」が創設され、対象者の年齢粋が取り払われて、寝たきりなどで通院困難な難病、重度障害者、がん末期、精神障害者等、老人以外にも拡大されました。このことにより、乳児から老人まですべての在宅療養者に対して訪問着護活動が展開できるようになりました。

 (2)訪問着護ステーション
 訪問看護制度にそって訪問着護を提供する事業所を「訪問着護ステーション」と定められています。訪問者護ステーションの運営基準としては、常勤換算で、2.5人以上の保健婦、看護婦、准看護婦等を配置すること,OT、PT、事務職は実情に応じた適当数となっています。そして、原則として、保健婦または、看護婦の専従の管理者を置くこととなっています。また、指定訪問者護事業者は、保健、医療、福祉サービスとの連携を図ることを定めています。

 (3)訪問看護サービスの内容
 かかりつけの医師の指示に基づいて、看護婦等が訪問し、在宅において介護に重点を置いた訪問着護サービスを提供します。

 (4)ステーションの利用料について
老人医療受給者証のある者については、1回250円。老人医療受給者証のない、65才以下の者については、医療保険の負担割合分となっています。

 (5)訪問着護ステーションの費用
 訪問着護に要する費用は、老人保健法に基づいて市町村から老人訪問着護療養費の支払を受けます。また、65歳以下の一般訪問着護については、保険者から訪問者護療養費または、家族訪問者護療養費の支払を受けます。
療養費は、(基本療養費+管理療養費+情報提供療養費)という構成になっています。

3.訪問者謙ステーションの設置状況
 訪問着護ステーションの設置状況は、平成7年11月末現在、全国で1,037ケ所、石川県で5ケ所となっています(週間保健衛生ニュースより)。石川県の5カ所は、以下のとおりです。開設年月 実施主体 ステーション名
平成4年5月 羽 咋 市 羽咋市訪問着護ステーション 9月 医療法人 訪問者護ステーション加賀
平成5年5月 医療法人 訪問者護ステーションゆきあい
平成6年6月 財団法人 金沢・訪問者護ステーション
平成7年2月 石川県在宅ケア事獅 訪問着護ステーション津幡 4.金沢・訪問看護ステーションについて
 (1)財団法人金沢総合健康センターの概要
 財団法人金沢総合健康センターは、昭和57年5月,4階建ての施設を開設し、3部門の事業(急病診療、学校保健事業、健康増進事業)としてスタートしました。平成6年当初に寄付行為の変更手続きを経て、あらたに訪問着護事業を行なうこととし、訪問看護事業は市と市医師会の共同事業として運営していくことになり、金沢・訪問看護ステーションが創設されました。


 (2)訪問看護ステーションの利用状況
  (平成6年6月から平成8年2月)
 訪問看護利用状況については、平成6年度は、1か月平均利用者実数36人、訪問延べ回数153回でした。平成7年度では、1か月平均利用者実数58人、訪問延べ回数275回となり、利用者の増加に伴いターミナルに近い利用者も増えてきています。
 利用頻度別割合では、週3回以上が11.3%、週2回が21.0%、週1回が60.5%、2週に1回が7.2%です。
 利用者の年齢階層別では、80歳代が4a6%、70歳代が31.4%、90歳代が13.7%、65歳末滴の一般訪問着護対象者が6名あり、最年少者は7歳の男児です。
 性別利用者状況では、男女比47.6%:52.4%であり、若干女の利用者が多い傾向です。 介護者の状況では、配偶者が45.1%、娘(息子2名含む)が20.2%、子の妻が21.8%、その他が12.9%となっています。
 介護者の年齢構成別では、80歳代が14.5%、70歳代が24.2%、60歳代が21.8%、50歳代が20.1%、30〜40歳代が12.1%となっており、配偶者では70〜80歳代が77%を占めており高
齢者が高齢者を世話している現状です。
 訪問看護利用終了者(58名)の状況では、死亡53.5%、入院,施設入所など46.5%です。このうち入院,施設入所後に死亡を確認したものが10名おり、利用者実数からみた死亡者の割合では33.1%となります。
 利用者の疾病別では、脳血管疾患が40%、高血圧や心疾患等が22%、骨.関節疾患が9%、痴呆が7%、特定疾患やがん疾患も増えつつあり、それぞれ6%、4%となっています。また、主な症状としては、麻痺症状が44%、「床ずれ」を有している者が25%、痴呆を伴っている者が44%、失禁状態の者が69%、衰弱を伴っている者が19%となっています。

5.訪問看護ステーションにおける看護活動に携わって感じたこと
 (1)高齢者が高齢者を介護している現状たとえ、息子や娘達が同一市内に居住していたとしてもそれぞれが職業をもち生活している現状の中では、父母の世話を1(氾%行なっていくことは困難であり、また高齢者自身もそれを望んではおらず、高齢者同志でお互いに助け合って生活していくことを希望しています。
 ただ、精神的な疲労も重なることから、心の支えを若い人達に求めていることもあり高齢者の思いにそったサポート体制を整備していく必要性を痛感しています。
 我々訪問着護担当者を含めた介護職、地域ボランティア等地域社会の中で、高齢者、障害者を支援していけるシステム作りに参加して開発していきたいと思います。
 家族ゆえに「言えない」「頼めない」「わがままを言う」など相反する意志をもつ高齢者、障害者ではあるが、独立した生活単位の人達を在宅生活可能な計画の中で、「ある人には24時間」「ある人には朝、夕だけを」濃厚に支援するというその家庭の状況に合わせた介護支援ができれば望ましいと願っています。

 (2)事例を通して感じたこと
 80歳代の高齢者夫婦と成人した息子の世帯で、夫は寝たきりで失語の状態、妻も高血圧症で、いつも頭量感を訴えています。大柄な体格の夫の世話でもう疲れきっています。ヘルパー週2回、看護週2回、訪問診察,デイサービス利用と福祉サービスもすべて利用して1週間の生活を全うしている家庭です。「息子の支援を受ければ」と、人は勝手に思いがちですが、息子さんには「その人の仕事,生活」が重くのしかかり、朝早くから夜遅くまでの仕事で200%の働きをしておられます。「若い働き盛りの人の生活も保障する必要がある」と看護では考えます。同居生活とは言え、高齢者夫婦は100%息子に頼れません。このような家庭が、今後増えて来るのではないでしょうか。
 次いで、二例日を紹介します。90歳代の寝たきり状態の姉を腰痛症を有している80歳代の嫁が世話をしています。ヘルパー週3回、看護週3回、訪問静察、ボランティア等を活用して1週間の生活を全うしている家庭です。
この事例は、「大変な高齢者世帯だ。24時間体制で生活を全て支援すべき」と考えがちですが、高齢とは言え、頭脳明晰な妹さんは、生活設計を立てながら各種のサービスを取捨選択して活用しています。100%の手出しではなく、生活分野の欠落するところを看護職、介護職、ボランティア等地域社会の人々で支援しながら生活をエンジョイできるようにしてあげたいと感じています。このように、高齢者世帯と言えどもいろいろな要因を持っておられます。

 (3)学ぶことの多い訪問者護活動
 訪問着護活動を通して、豊富な生活経験を持った数多くの高齢者と出会うことで、人生経験の学習をさせていただいているような気がします。
 訪問者護は、在宅生活の揚が看護の現場です。本人の思いを尊重して、住み慣れた我が家で、日常生活を心豊かに安心して過ごせるように訪問着護を担当するものとして支援していきたいと考えています。

参考文献
(1〉r訪問着護業務の手引J社会保険研究所
(2)「訪問看護ステーションの基本と展開」医歯薬出版株式会社
(3)「週刊保健衛生ニュース」平成8年3月11日(837号)


 (金沢・訪問者護ステーション 保健婦)

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