〈特集〉介護保障のあり方を考える 石川県保険医協会の社会保障、医療・福祉改善運動 介護保険問題への取り組みを中心に 安 藤 良 一 |
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はじめに 政府・厚生省は、社会保障、医療・福祉制度の大改革を目論み、その一環としての公的介護保険制度の創設を中心課題として、そのための布石に各種医療保険制度の改変を進めつつある。1994年6月には入院給食費の患者一部負担導入、付添い看護療養費制度の廃止などの健保法改正案を強引に成立させた。さらに1997年に向けて、健保本人の受診時2割負担および扶養家族からの保険料徴収、老人医療では毎回受診時に定率(1割)負担の計画を打ち出している。 そもそも、健保本人は初診時のみ定額負担金制度として過去30年以上にわたって定着していたのを、1984年の健保法改定によって定率2割負担(当面は1割)と改悪した経緯がある。老人医療については1973年に無料化が実現して福祉元年と評価されたのだが、その後の老人医療費急増を理由として1983年の老人保健法施行とともに有料化を復活し、現在の定額負担制に至っている。 1.医療・福祉改善運動 この間、保険医協会の連合体である全国保険医団体連合会(保団連)をはじめ、医団連、医労連、健保連、労組、日医、日歯などほとんどの関係団体が健保本人負担定率化に強い抗議運動を展開した。また、老人医療有料化に対しては全国高齢者団体や医団連を中心に1000万人を超す反対署名運動を行った。石川県保険医協会もそのつど共同運動に参加したり独自に抗議、要請活動を行ってきた。 しかし、政府・厚生省の医療費抑制策と国庫負担削減の執念は止むことを知らない。国民の生存権、健康権を保障する国家の責務は憲法第25条が現存する限り求められることは周知の通りである。いま焦点になっている公的介護保険制度の内容如何も、わが国の社会保障と医療・福祉の将来を大きく左右するものであり、その対象者たる全国民は真剣に議論に加わり意見を反映させねばならない。 2.保険医協会の活動 以上の見地から、石川県保険医協会(県内の医科・歯科開業医を中心とする会員810人の団体)は県民に、知り得る医政情報を提供し、問題を提起し、議論の場を作るために、まず患者・住民の意識調査に取り組んだ。1995年10月、「老人医療と健康保険の負担金並びに介護保険制度についての意識調査」のテーマで回答ハガキを刷りこんだ宣伝用紙6000枚を会員と関係団体に託して全県下に広範囲に配布し短期間で回収した1011通の回答を得て集計した結果を略記する。 @老人医療費では「反対」が57%だが高年齢層では68%に達した。 A健保本人では「反対」が76%に達し各年齢層とも反対多数であった。 B介護保険の内容では「反対」40%、「賛成」22%、「どちらとも言えない」20%、「わからない」17%と意見が割れたが、賛成でも条件付きが多かった。 以上の調査結果から、協会は次のような見解をまとめた。 @老人医療費定率負担は当事者である高年齢層の反対が多く、受診抑制にもつながるの で反対表明を出す。 A健保本人の2割負担は各年齢層で反対多数で制度改悪は明らかだ。 B介護保険制度は未だ内容が不透明で国民の判断が未熟である。政府はもっと情報公開と国民的合意を求める努力をすべきだ。 調査資料は、同時によせられた約100通の[自由意見]と共に報告書にまとめて、アンケート依頼先や関係団体をはじめ地元国会議員と市町村のすべての地方議員744人に届けた。 さらに11月末、調査資料を持って石川県庁記者室で8社に及ぶ報道機関に対して協会代表が記者会見を行った。いま政府が進めている社会保障、医療・福祉の後退政策には、県内でも多数の住民が反対を表明している事実を報告すると共に、これらの制度が国民生活に密着しているにもかかわらず、国民の知らないうちに改変の話が進む現状は非常に問題が大きいと訴え、マスコミの今後の報道姿勢についても理解と協力を求めた。この会見の模様は同日夕刻のNHKをはじめ数社のテレビニュース並びにラジオで放送され、翌日からの新聞各紙に詳しい内容が報道されて住民の間にも大きな反響を呼んだ。 協会ではこの調査活動に続く作業として、11月から「医療・介護制度の改善を求める著名運動」を実施している。会員医療機関の窓口に用紙を備えて患者さんらに協力を求めており、1996年3月現在で署名数は3500人に達し、その中の2000人分をすでに厚生省保険局に直接届けた。 3.公的介謙保険制度について 前述の調査報告書の後半に、協会理事の執筆による介護保険に関する詳細な解説文を掲載したためもあって、複数の女性団体から講義の要請があった。その学習会の席でも、「私たちは介護保険の創設に期待していたが、今日の話を聞いてもっと勉強する必要を感じた」、「老人保健福祉審議会に私たちの意見を反映させたい」など積極的な感想が交わされた。 1996年1月31日、老人保健福祉審議会は介護保険制度の第2次報告書で対象者や給付の内容などを発表した。しかし構想が明らかになるにつれて国民の間に論議が高まっており、保険者とされる市町村側から財政面での反発もあって、審議会の最終報告は遅れる気配で、厚生省の3月法案提出予定は困難であろう。 介護保険制度は拙速を避け、十分な時間をかけて国民的な論議を尽くすべきであるとの視点で、協会は以下のような「介護保険制度に関する要望書」をまとめ、県内諸団体の協賛を得て、厚生大臣及び老人保健福祉審議会委員らへ早急な申し入れを計画中である。 *介護保険制度に関する要望の要旨 @費用負担の方法には租税方式と社会保険方式が考えられるが、なぜ社会保険方式を前提として法案成立を急ぐのか。現行の措置制度を財源も含めて改善し、これを基盤に公費負担方式で立法化するのが理想である。 A社会保険方式には欠点が幾つもある。福祉基盤の未整備、保険料徴収上の難問題、給付認定の公平性など未解決事項が多い。さらに、制度導入予定の1997年度は消費税率の引き上げ、医療保険の自己負担増など国民の負担急増の危惧がある。 B若年障害者を給付対象外とするのは、保険料徴収年齢から考えても国民の理解を得難 い。 C福祉施設の充実、マンパワーの確保が先決問題である。要介護認定と介護計画作成は、あくまで本人の心身症状把握が基本だから、かかりつけ医療機関の位置付けを明確にすべきである。 (石川県保険医協会副会長) |
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