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第83回例会報告
「障害者自立支援法がスタートした今―それでもしたたかに」
石川県保険医協会 小野栄子

10月14日、白山市市民交流センターにおいて「障害者自立支援法がスタートした今―それでもしたたかに」と題した講演会が開催された。秋元波留夫講演会実行委員会ときょうされん石川支部設立準備会が主催し、医療・福祉問題研究会も後援団体として実行委員会に加わった。講師は、金沢大学名誉教授で「きょうされん」顧問の秋元波留夫氏と「きょうされん」常務理事の藤井克徳氏であった。
秋元氏の講演は「憲法9条―戦前の軍国主義国家体制への後戻りを許すな―」というテーマで行われる予定だったが、直前に秋元氏が体調をくずされたため、準備されていた講演要旨の代読という形となった。藤井氏は「障害者自立支援法の施行実態と問題点・課題―施行後の半年間でみえてきたもの、求められる『運動と対応』」というテーマで講演された。以下、藤井氏の講演を要約する。
2005年10月31日は歴史の歯車が逆回転した、忘れられぬ日となった。障害者自立支援法が成立し、応能負担から応益負担へと代わったことで、障害が本人と家族のせいにされたのである。自立支援法の施行以降、「将来、生きていく自信がない」と障害のある親子の心中事件が前年に比べ増加した。さらに影響は当事者だけにとどまらない。人員配置基準の後退、日額払い方式、利用料の滞納やサービスからの離脱等により、事業者に対する打撃も深刻である。このように利用者と事業者の対立の構図がつくられ始めている。この状況を打破するためには利用者と事業者による協同の運動が求められている。
自立支援法の成立過程を振り返ると、2004年1月8日に介護保険制度との統合方針が発表されたことに端を発し、2005年2月10日はグランドデザインと新たな利用者負担を中核とした法案が決定した。2005年8月8日にはいったん廃案となったが、結局2005年10月31日には再提出されて可決成立、十分な準備期間のないままに2006年4月1日から部分的施行、10月1日からは完全施行と一気に進んだ。それでも厚生労働省が描いたとおりにことが運ばなかったという意味で、法案が一度廃案となった意味は大きい。郵政民営化廃案による解散だけが廃案の要因ではない。障害のある当事者や関係団体による慎重審議を求める運動の高まりが廃案の大きな要因となったのである。
運動の成果を正確に評価した上で、今後は障害者自立支援法が積み残した課題、つまり、利用者負担問題、各種事業の運営費基準、障害の認定方法、精神障害関連の施策、扶養義務制度・家族制度等の根本的な問題を、政争の道具ではなく人権問題として、もう一度議論しなければならない。また、利用者と事業者は、自立支援法の「公費抑制装置」を見抜いた上で、「それでもしたたかに」生きていこう!藤井氏は以上のように語り、講演を締めくくった。
幸いなことに、この問題に対するマスコミの反応は良い。NHKの「クローズアップ現代」をはじめとして、雑誌等でも自立支援法の問題点をつく特集が組まれている。地元の動きでは、10月16日からの3日間、石川県保険医協会や石川県社会保障推進協議会等が主催した「医療・福祉・介護119番」には県内のマスコミ各社が取材に訪れ、障害のある人の施策課題等を熱心に質問していく姿が目立った。また、金沢市の福祉タクシー制度の復活を求める該当署名運動にも、毎回マスコミが取材に訪れている。自立支援法の実施に加えて各自治体の施策はますます厳しくなっているが、自立支援法の見直しに向けて再度大きな機運を高めていければと願う。
そして最後になったが、秋元先生の1日も早いご回復を心からお祈りしている。

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