医療・福祉における「民活活力」の導入が急テンポで進行している。それは、医療・福祉の財政・制度両面からの再編を経ていよいよ本格的な展開の局面を迎えている。こうした、いわば「民活」型医療・福祉への大規模な移行は、まさしく医療・福祉に「構造的変化」をもたらすものである。
研究会では、こうした現実を前に、可能なかぎり多面的に問題を検討し、トータルな現状認識と分析の視点を確立することを目指して、「民間活力」をテーマにした研究例会を開催してきた以下の論稿は、そのときの報告と特集を組むにあたって新たにお願いしたいものからなっている。
今回の特集は、三つの内容で構成されている。第一は、総論にあたる部分である。横山寿一氏の「医療・福祉と民間活力」がその部分を担当している。ここでは、医療・福祉・健康分野における民間事業の全体像、「民活」導入の背景と推進の構図、推進論の問題点、行政の役割などが検討されている。この論稿は1988年3月の研究例会での報告がベースになっている。
第二は民間サービスの事業者による発言である。研究会では、民間サービスの当事者との討論を通じてより現実的な問題把握に努めようということで、1988年11月の例会で「民間救急サービス」の青木幸男氏と「ヘルプ石川」の津田秀雄氏に参加していただき討論を行った。二つの論稿は、このときの報告がベースになっている。ただし、「民間救急サービス」は、その後事態が大きく変化したため、その内容を盛り込んでもらう形で書き下ろしていただいた。また、「ヘルプ石川」については、津田氏と相談のうえ松本芳士氏に執筆をお願いした。お二人には、それぞれの事業内容と意図、今後の方向などを率直に書いていただいた。さらに、この例会での議論が少しでも伝えられればと思い、編集部の責任で討論の内容をまとめ、掲載しておいた。
第三は、諸外国の医療・福祉についての分析である。ここでは、公的サービスを中心とするスウェーデン、イギリスと、その対極にあるアメリカを取り上げ、これらの国々の具体的状況を通して「民活」をとらえ直すことを意図している。河野すみ子氏の「スウェーデン・アメリカの医療・福祉」は1988年3月の研究例会での報告をまとめていただいたものである。対極にある二つの国の対比を通じて、医療・福祉のあり方が提起されている。
大門和氏「混迷する弱者切捨てのアメリカ医療」と寺西秀富氏「イギリスの国民保健サービスの危機と医師像」は、編集部からお願いして書き下ろしていただいたものである。いずれの論稿も、直接現地へ訪問されたときに見聞、調査された内容がベースになっており、アメリカ、イギリスにおける最新の現状と問題点を知ることのできる貴重な内容が盛り込まれている。
医療・福祉における民間活力を検討するためには、社会保障・社会福祉の政策動向、日本経済と産業再編成、民間事業の具体的動向とその現状、諸外国の動向と経験、住民の医療・福祉要求など、多くの問題を取り上げることが必要である。今回の特集は、なおその一部にとどまっているが、議論を一歩進めるための論点は数多く提起されている。読者の積極的な検討をお願いしたい。(編集部)
|