特集/在宅医療・福祉を考える

在宅での終末ケアの学び

寺井病院看護婦 横 田 和 子
 私が訪問看護をはじめて、早や2年たちました。この間、患者さんの死というと、急変して、自宅で亡くなる方、入院して病院で亡くなる方、いろいろありました。今回、在宅で命を見取る終末ケアを、はじめて経験しました。Nさんの生き方に、私自信が勇気づけられ、又学び多かった訪問を紹介いたします。
 Nさんは、93才の男性。生来、健康で、病院にかかる事もほとんどなく、元気に畑仕事などしておいでました。長年、農業に従事し、5人の男の子に恵まれ、奥さんとも仲の良いご夫婦だったようです。Nさんが当院に来られたのは、誰が見てもはっきりとわかる全身の黄痘と食欲不振のためでした。
 診断は、総胆管癌です。主治医より入院の勧めがありましたが、本人は「この年になって入院したくない。」と言われ、通院できる問は通院でと、その後約1ケ月は補液などの治療に通われました。ある日、奥さんと息子さんが来院され、「もう通院する事が無理になってきた。本人は家で死にたいと言っているので、どうしたものか先生と相談したい。」との事です。その結果、往診と訪問看護が開始されました。何をしてあげれるだろう?不安で一杯の思いでNさん宅に伺いました。家族は妻と長男との3人で、介護者は妻です。高齢で、しかも足の具合いの悪い妻が、家事に介護と大変ですが、Nさんの願いをかなえてあげたいと、一生懸命です。幸いNさんは、痛みに苦しめられる事はなかったのですが、亡くなるまでの1ケ月間は、日に日に全身状態が悪化(褥瘡、食欲低下、脱水、腹水、浮腫等)し、Nさんも大層苦しかったと思います。が、苦痛やうらみがましい事は、いっさい口にされず、表情明るく、冗談を言ったり、帰り際には、「今度はいつ来てくれる」と聞かれ、手を合わされる。亡くなる4〜5日前には、妻に「ここ2〜3日が山だ。どうもなければ、11月まで生きられると・ vう」と話し、妻に感謝とねぎらいの言葉を言い、親族の人に、別れの挨拶をされたそうです。
 Nさん、本当にごくろう様でした。あの様な苦しい時でも、どうして、いつも平静に、やさしい心づかいができたのだろうと思います。
 1ケ月の訪問看護をふり返り、清拭、爪切りなどの清潔介助、床ずれの処置、おいしいものをできるだけ口から食べる事など、療養の世話と指導、援助を中心にしてきました。93年間生き抜いてきた人生の最後の時に、看護婦としてかかわり、死の瞬間までNさんらしさを全うする事ができ、本当に良かったと思います。今後、24時間体制で対応できる訪問看護や、人的サービスの向上によって、在宅医療の充実を望みます
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