地域からの発信
保健・医療・福祉の前進をめざして ◎特集にあたって/編集委員会
 年会誌として1988年から発刊が始まった本誌は、今年で10号を迎える。「3号雑誌」の仲間入りを半ば覚悟しながらのスタートであったが、多くの会員、読者、研究会賛同者等に支えられながら何とか10号まで到達することができた。本誌の編集と販売にご協力いただいた皆様に、あらためて感謝を申し上げたい。

 研究会では、この10号を記念する特集企画について昨年から検討を続けてきた。多くのアイデアが登場したが、最終的には、地域に根ざし地域の保健・医療・福祉の問題を住民の立場に立って検討するとともにその間道解決への途を明らかにすることを通じて全国に発信し続けるという研究会活動と本誌の編集理念の基本に立ち戻り、その点をアピールできる内容にすることが確認された。検討の結果、地域の切実な問題に取り組み保健・医療・福祉のこれからのあり方を指し示してくれている、その意味で文字どおり全国への発信基地となっている各地の取り組みを紹介していただき交流を深めるとともに、発信の増幅装置の役割を果たすこととした。「地域からの発信」としたのはこうした経緯による。

 編集にあたって、各地で地域活動に取り組む組織のなかから研究会の会員がなんらかの関係をもっているものを挙げ、執筆をお願いした。最終的には、6ケ所から原稿を寄せていただいた。これらは、施設づくりを通じて地域の医療・福祉問題に取り組む実践と研究会組織活動を通じて地域に関わる実践に大きく分けることができる。以下、あらかじめ簡単にその特徴を紹介し読者への水先案内としたい。

 施設づくりと地域活動については、神戸市、尼崎市、出雲市、京都市からである。神戸市からは、一人暮らし高齢者の給食サービスを通じて痴呆高齢者とその家族の苦難を知り宅老所を設けて地域の支え合いで運営がすすめられている長田区の「こまどりの家」の実践、尼崎市からは、震災後の避難所生活・生活利便施設のない仮設住宅で辛い生活を強いられてきた高齢者・障害者にやすらぎの住居をとケア付き仮設住宅の建設を提案し実現させてきた喜楽園の社会福祉法人尼崎老人福祉会の実践、出雲市からは、老人ホームのあり方に対する問題提起として「小規模老人ホーム」に実験的に取り組んできたことぶき園の実践、京都市からは、尊厳ある生活の実現をめざしてユニークな施設運営をすすめる特別養護老人ホーム「原谷こぶしの里」の実践を踏まえたショートステイ・短期入所施設を中心とした在宅福祉のあり方への問題提起を、それぞれまとめていただいた。

 研究会組織と地域活動については、秋田県と福井市からである。秋田県からは、1982年の「老人保健法」を機に設立・スタートし、以後、医療、介護、社会保障制度、憲法間邁に取り組み、学習会、調査、自治体要請など精力的な活動を展開している「秋田の医療と福祉をよくする会」の実践、福井市からは、身近な介護の経験から自分で自分の最期を決めるこ・とのできない社会の現実を知りみんなで声を出して変えようとの呼びかけでスタートし、問題別にグループをつくり学習活動、調査活動に取り組み行政への提言もまとめ上げた「すてきな高齢社会をつくる会・福井」の実践を、それぞれ紹介していただいた。

 6つの地域活動は、いずれも日本の保健・医療・福祉のあり方、高齢化社会のあり方の根本に関わる鋭い問題提起を含んでいる。同時に、安心して住み続ける地域とそのための人間らしい保健・医療・福祉を願う全国の人々に対して、その実現のためには、地域の主人公である住民自身の主体的な学習・研究を通じた不断の問題提起が不可欠であるとのメッセージが含まれている。この特集が、そうした動きへの何らかの契機になればと期待している。
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