地域からの発信
「秋田の医療と福祉をよくする会」の歩み
                    中 谷 敏太郎

1982年、「老人保健法」の施行を前にして、われわれは「秋田の医療と福祉をよくする会」をつくりました。その後は医療・福祉制度の改悪が強行され続けて今日に至っているのですが、私たちもそれを追跡し続け、時宜に応じて集会、学習会、署名運動、調査、議会陳情、自治体要請などの行動を十年一日の如く16年間続けてきました。
 特に96年以降の反動攻勢は激甚であり、私たちも運動を強めているのですが、97年1月27日には全国に呼応して「医療保険制度改悪に反対し、消費税税率値上げに反対する秋田県民集会」を開いて、千人が結集しました。この集会は改悪の情勢とその本質を県民に伝え、豊かな社会保障制度を築く草の根運動を展開するには、多くの学習チューターを養成することが絶対に必要であることを教えました。
 そこで97年3月からの一年間に、介護問題、社会保障制度、憲法、医療・介護保険制度と、4回の学習会(午前2時間の講演と午後3時間の質疑討論)を開き、新たな力と確信を身につけることができました。特に井上英夫先生は日本国憲法・人権に基づく、社会保障・福祉・介護の論理と運動の現代的到達点を明快にお話しいただきました。
 ここに「秋田の医療と福祉をよくする会」の16年を、最初からその運動に関わってきた私が逐年的にまとめて、報告させていただきます。


1「よくする会」前史
 秋田県は全国で最も民度の低い地方ですが、それなりに県民の要求におされて、次のよう
な県単独事業としての福祉医療がありました。

 @ 80歳以上老齢福祉年金受給者対象一方
  月入院2000円、外来1000円以上の負担額
  の無料化(69年)

 A 75歳以上高齢者(70年)、75歳以上の
  所得制限なしの無料化(71年)、70歳以
  上所得制限なしの完全無料化(72年)

 B 国の制度で70歳以上無料化(73年)、
  その所得制限以上部分は県単で負担。

 C 国の制度を上回って県単独に65〜69歳
  高齢身障者(4〜6級)の無料化(73年)、
  重度身体障害者(0〜64歳)と2歳未満
  の乳幼児の外来・入院の無料化(74年)。
(9 2歳児も入院無料化(75年)など。


2 「よくする会」の発足
 老人保健法実施を前にし、1982年11月11日、6人の呼びかけに応えた百余名が集い、「秋田の医療と福祉をよくする会」を結成しました。そして集会決議として秋田県に対し次の4点を要請しました。現行の無料化制度を継続する県独自の財政措置を講ずること。県独自の乳幼児医療無料と、身障者福祉医療制度を継続すること。県は県内の市町村が独自に実施している福祉医療の上のせ事業を奨励し、これを廃止させるような行政指導はしないこと。臨調答申が示している福祉医療の切りすてをやめるよう国に要望すること。
 「地域で、事態を訴え、「当面の行動」賛同署名運動職場で、集会でこの憂慮すべき運動を広げる」との方針の下に、として上記4項目についての(2万名を超えて終了)と12月議会にむけての対県市町村交渉」を展開しました。この対県陳情行動により、県は「老人保健法施行による有料化は実施せざるを得ない」が、「県単独の65歳から69歳までの高齢身障者医療費無料化の制度を70歳以上にも拡大し、寝たきり老人、乳幼児、重度障害者・児の無料化は継続する」と回答させました。


3 活動の歩み


〈1983年度〉
 @ 「老人保健法実施にあたっての陳情」
 (2月)。
   69全市町村議会あてに陳情しました。
  内容は、1)市町村独自の減免措置、2) 住民健診の住民負担の減免、3)老人の入院締め出し防止のため、社会福祉施設の充実など受け皿づくりを厚生省に働きかけること、でした。その結果、4月現在、採択・9市町村。不採択・7市町村。その他は継続審議となりました。
 A 「老人保健法に対するアンケート調査」(3月)。200枚を回収し、大きなマスコミの反響を得ました。
 B 「健康保険制度改正反対に関する陳情」(9月)。全市町村議会あてに1)被用者保険本人10割から8割への引き下げ、
2)退職者医療制度の創設による国保への国庫補助削減、
3)給食費、薬剤費への患者負担導入、
4)診療報酬の「合理化」による医療費抑制、の4項目につき、来年度実施を行わない旨の意見書を国と厚生省に提出することを陳情しました。


〈1984年度〉
 @ 「全市町村議会あて医療保険制度改正反対に関する陳情」(3月)。3月31日現在、採択・41市町村、不採択・3町、継続審議・25市町村の成果を得ました。

 A 「秋田県あて要求」(10月)。10月1日から実施された健康保険法等の改正に対し、ア、秋田県が実施していた福祉医療制度から、被用者保険本人を除外しないこと、イ、国の社会保障関係補助負担金の削減方針と、国保負担削減に反対し、その意志を囲および厚生省に対して表明することを要求しました。

 B r全市町村議会あて健康保険法等の改正にかかわる陳情J(11月)。
C r県知事あて要求J(11月)。重度障害をもつ被用者保険本人のおかれている実情を把握し、「福祉医療費県費補助交付」の適用対象とすること。


《1986年度〉
@ 「全市町村議会あて老人医療と国民健康保険制度をまもるための大集会」(9月)。政府の「老人保健法等の一部を改正する法律案」につき、国と厚生省に意見書を提出すること。
A「老人保健法と国民健康保険法の改悪阻止県民大集会J(9月)。ここでは、次のような決議を採択し国と秋田県に要求しました。1)「改正案」の全面廃案、2〉「老人保健法」そのものの廃案、3)国保に対する国庫助成率を当面45%にもどす、4)滞納を理由に給付を差し止める法案の撤回。


〈1987年度〉
「全市町村議会あて国保制度をまもるための陳情」(11月)。88年1月現在、大館市、六郷町を除く全市町村が採択しました。


〈1988年度〉
@「大学習会−いま老人の医療と福祉はどうかえられつつあるか」(1月)。「高齢者対策企画推進本部報告」「国民医療総合対策本部中間報告」を受けて開催され参加者は200人でした。

《1989年度》
@ 「秋田県民あて「国民医療を守る共同行動」1000万署名の訴え」(6月)。秋田県は11万人署名(89年11月現在、66,371)と、いたるところで医療・福祉・社会保障についての学習会を開くことを目標にしました。

A 「全市町村あて国民医療改善についての要請」(10月)。医労連のキャラバン行動と連携し、1)国保国庫負担率の復元、2)老人医療費無料の復活、3)健保本人の10割給付の復活、国保と健保家族の給付の引き上げ、4)国の責任での地域の第一線医療・福祉の拡充、5)人間の生命と健康を差別する医療営利化をやめ、国の責任で行き届いた医療が保障される 診療報酬制度をつくることという要望を掲げました。90年5月現在で、採択・墟、不採択・3、継続審議・17の結果を得ました。
B1989年11月29日〜12月1日の秋田医療現地調査団(秋田国療廃止反対)に代表団として参加しました。


《1990年度》
@ 「全市町村への要請」(11月)。医労連キャラバン行動と連動して、医療法「改正」反対、看護婦不足を解消、高額医療費受療委任払いの実施等について要請をしました。


《1992年度》
@ 「秋田市長あて在宅障害者の医療と福祉についての要望J(10月)。11月には市役所担当職員と懇談し、12月秋田市長から回答がありました。
A 「県内全市町村長あて要望」(11月)。秋田市長あてと同じ内容の要望書を提出しました。
B 「県内全自治体への直接要請」(同)。医労連キャラバン行動と連動し、秋田県福祉保健部長、県議会福祉環境委員長、全市町村議会議長、秋田県医師会長、市医師会長に協力要請書を送付しました。


《1993年度》
@ 「秋田市長あて「在宅障害者の医療と福祉に関する意見具申書」提出(1月)。
  市長からの回答に対する再意見書を提出しました。

A 「高齢者福祉を考える学習会J(9月)。
  記念講演は、日福大・大友信勝教授の「安心してすごせるまちづくりをめざして」でした。参加108名。

B 「各市町村あて「老人保健福祉計画」の立案・実施について陳情」(10月)。
 計画の早期実現の促進、とくに、1)介護家族への経済支援、2)障害者と家族のニーズに応じたヘルパー派遣、入浴・デイサービス・ショートステイの提供。3)介護機器の多面的・多品種的開発・改良と無料貸与制度、4)施設サービス、入院提供態勢の確保、5)65歳未満の重度障害者に対する福祉サービスの適用、6)総合的サービスを提供する支援センターの確立を陳情しました。12月議会では、採択・53市町村、不採択・1町、継続審議・15市町村の結果でした。


《1994年度≫
@「秋田県知事あて入院給食の患者自己負担の県費助成の陳情」(10月)。「東京都に準じた入院給食費の県費助成」を陳情しましたが拒否されました。

A 「市町村議会あて意見書提出要請の陳情」(同)。医労連キャラバン行動と連動した、県知事あてと同内容の請願をしましたが。12月議会での採択・37市町村、継続・23市町村でした。

B F市町村あて「老人保健福祉計画」アンケート調査への協力要請」(同)。

《1995年度》
@ 「秋田県知事あて入院時給食費の助成についての再陳情」(3月)。今回も拒否されました。

《1996年度》
@ 「市町村議会あて医療保障の充実を求める陳情J(10月)。医労連キャラバン行動と連動して医療保険審議会「第二次報告」につき、国と厚生省への意見書提出を求めました。

A 「市町村議会あて介護保障の充実を求める陳情」(同)。国の責任で介護保障制度の基盤を確立することを求めるよう陳情しました。

B 「秋田県議会あて入院給食費助成についての陳情」(12月)。乳幼児・心身障害者・片親家庭の入院給食費の自己負担をなくすための県費助成を求めました。


《1997年度》
@「医療保険制度改悪に反対し消費税税率引き上げを止めさせる秋田県民集会」(1月)。賛同団体126、賛同個人386人、集会参加者1000人にのぼり、集会宣言として、1)医療保険改悪の撤回、2)消費税率引き上げの撤回、3)国の責任で国民の納得する公的介護保険制度を確立することが掲げられました。

A 「学習会の開催」。医療・福祉制度問題について連続学習会を開催しました。* 「第一回学習会J(7月)。「公的介護 保険の動向と課遭」。東洋大学社会学部福祉学科・大友信勝教授。
 * F第二回学習会』(9月)。「社会保障のゆくえと21世紀の医療」。神戸大学発達科学部・二宮厚美教授。
  *「第三回学習会」(12月)。「憲法と医療・福祉、そして人権」。金沢大学法学部・井上英夫教授。


《1998年度》
  * 「医療・福祉制度問題、第四回学習会」(3月)。「医療・福祉制度改悪の流れ・その本質と対決点と戦略的課題と」。東京保険医協会・朝日健二元事務局次長。


 以上、「よくする会」の活動内容をかなり詳しく紹介させていただきましたが、「医療・福祉問題研究会」と10号を迎えた「医療・福祉研究」の今後の発展に少しでもお役に立てば幸いです。


    なかたに としたろう/
     中通リハビリテーション病院名誉院長
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