要介護老人の介護時間量調査報告
                    片 野 一之
1.要介護老人実態調査の概要
 私たちの所属施設が加盟する民医連;全日本民主医療機関連合会は、介護保険の実施により患者・施設利用者にどのような影響を及ぶのか、またこれらの人々の人権を守るためにどのような対策が必要かを明らかにするために、1998年10月から11月にかけて要介護老人実態調査〈以下、実態調査と呼ぶ〉 を実施し、今年2月に概要報告をおこなった。対象は表1の通りで、内容は心身機能の状態・家族状況・介護負担・住居の状況・経済状況・サービス利用状況と利用意向など総合的に設定され、29645件を集約した。実態調査と平行してオプションの歯科調査約3500件、また抽出調査として今回報告する介護時間量調査を実施した。時間量調査の対象は、実態調査基本台帳に登録され、訪問看護が実施されているケースから、日常生活自立度と痴呆症状の有無よる区分に基づき調査対象を抽出して行った。

2.調査件数
 集約目標は400例だったが、最終的に441例が集約された。今回は概要報告に間に合った394例を分析村象とした。内訳と分析のための区分は表2・3 〈次ページ参照)に示すとおりである。

3.調査方法
1)記録表を村象者宅に据え置き、特定の一日の生活・介助の実際を記入していただき、調査担当者が内容を点検・聞き取り補足した。
特定の一日とは、デイケアなどをふくむ通院日以外で、かつできるだけ入浴もしく清拭を行った日とした。
 2)記録上の留意点として、ア)「誰が(何人がかりで)」「どういうことを」「どれくらいの時間をかけて」行ったか、イ)「〜の準備・片づけ」という内容に留意し、物理的・身体的な準備はもちろん、その行為に入るための説得などの心理的な準備も含める、ウ)それぞれの行為は、可能な限り分解する、エ)時間を計れない細かい行為は回数のカウントのみおこなうとした。
 3)調査員は回収時に面接・補足し、行為の区分けにしたがって分類して記録表の内容を集計表に転記・集計した。集計表には凡例を例示し、凡例は厚生省の分類に準拠して、ア)直接介助行為、イ)間接介助行為、ウ)痴呆対応関連行為、エ〉機能訓練関連行為、オ)医療関連行為、これに民医連独自に、カ)介護のための拘束を加えて6つの申分類に整理した。これらの凡例にたいし、自由記述欄として申分類ごとに「その他」の欄を準備し、書き出された項目を集計段階で再整理した。
 4.総括表の特徴(表4)
 直接生活介助は、もっとも軽度のJAl群で約140分、最重度のBC3群で約300分、全体で約250分で、介護時間は自立度に相関している。間接生活介助は全体の約260分に対して、区分別ではプラス・マイナス約6%の差異であり自立度との相関は弱い。痴呆対応関連行為は、JA3群で約130分を最高値として、ADLの高いJA群でむしろ多くの時間をかけている実態が検証できた。

5.拘束された介護者の生活
 介護のための拘束はすべての区分で相当量あるが、JA2・3群はそれぞれ390分、400分と多く、BC群では各区分とも330分程度だった。
 拘束される内容は、具体的な動きに対して備える項目で多く、特に訴えや行為への備えでは昼夜の別なく介護者を拘束している。介護者の自由度の低さ、気が休まる間のない緊張が伺えた。

6.介護時間総計
 介護時間の総計はJAl群でも約600分におよび、JA3群ではBC群と同等になり約900分をこえ、全体でも約880分、15時間近い実態だった。もっとも軽度のJAl群は、厚生省の5分類にあたる行為小計で約400分、合計で約600分だが、この群は実態調査の詳細分析により約15%が要介護認定では自立ランクになると推計されている。しかし現実に介護サービスを必要とし、いままさに受けている状況なのである。そして、生活を維持するために、これだけの介護時間量を必要としているといえよう。
 先頃医療福祉審議会が答申した要介護認定等基準時間が、いくら指標だといっても、要介護1で30分から50分、要介護5でさえ110分以上というのは、あまりにかけはなれた観がある。また全国担当課長会議での参考例や標準的な所要時間の目安と比較しても、最重度・困難な場合で90分から120分のヘルパー派遣であり、禿難が大きすぎるのではないだろうか。

7.調査結果の特徴
 結果にみられた特徴として、行為が集中する時間帯があり日内変動が大きい、長時間の拘束がみられ実態調査での介護負担の状況を裏付けた。また行為が複合した一連の介護をどうとらえるか考えさせられた。一例を挙げれば、おむつ交換が独立して行われることは稀であり、多くの場合は、着替えや入浴・清拭、体位交換などと複合して行われていた。あえて分解した場合、行為が集中する時間帯として記述できるが、実態を反映した評価・アセスメントはできない。すなわち、介護を歯列の行為に微分し、しかも直接生活介助を主とした身体介護部分だけを抜き出して、その時間量の積算で負担の程度を判断する評価方法は、実態から尭離するものとして疑問をもたざるえをえない。行為小計に対する間接生活介助の割合は約47%あり、全体における間接生活介助と監視見守をあわせた割合は約67%に及んでいる。
調査結果の特徴
ア)行為が集中する時間帯があり日内変動が大きい
イ)長時間の拘束が見られ過酷な介護負担を裏付けた
り)分解不能の生活行為が複合・連続した介護実態
エ)間接生活介助の質的・量的重要性
オ)サービス利用事例の1日あたり介護時間量の数倍の実態
カ)内容の多様性・多面性
キ)副次的に、調査方法が生活様式の把捉に有効であった
8.その他書き出し
 そしてもっとも銘記すべき点として、内容の多様性・多面性があることがあげられる。集計表に準備した例示項目は44項目だったが、自由記述とした「その他」に書き込まれた項目数は193項目1104件、また時間を計れない細かい行為は77項目152件に及んだ。現在までの作業でその他の書き出しは129項目435件に再整理したが、まさに全面的な生活問題としての介護を実証したといえる。

9.まとめ
 実態調査概要報告は、介護問題は生活実態の重層的な累積であり、総合的な生活問題であることを明らかにした。身体状況だけでランクづけし、ランクごとにサービス提供量を定める制度では、実態に対処できないという疑問を呈している。まして福祉法制度による処遇・措置の停止は生活の格差を拡大し、保護率が5%に及ぶ対象世帯の経済状況を考慮すれば、広範な貧困化の新たなバネになる懸念があるとし、介護認定のありかた、保険料・利用料の軽減、とりわけ施設を中心とした基盤整備など、具体的な提言をまとめている。
 介護時間量調査は、この概要報告を裏づけている。心身の状態と介護時間量の相関は、ランク付けを可能にするほどのものではない。
 また間接生活介助は、介護度にかかわらず重視されるべきだろう。ちなみに実態調査でもホームヘルプサービスの内容が主として家事援助であり、介護度にかかわらず比重が大きかった。また在宅での介護は生活の中で独立してあるわけでなく、生活の中に飲み込まれている実態が記録表から読みとれた。生活を支える保障なしに、在宅介護の維持は困難だろう。
まとめ
・民医連「実態調査」の一環として介護時間量調査をおこなった。
・調査は約500件についておこない、さらに詳細分析の作業を続けている。
・集計された介護時間量は、厚生省の調査よりもはるかに多く、他の臨床機関の調査結果より少なかった。
・具体的な介護行為の内容は多様性・多面性があり、生活実態の前提なしに介護は成り立たないことがわかった。
・介護問題は総合的・重層的生活問題であることを裏付けた。
・介護保険のもとでのソーシャルワークのありかたとして、その本来の視点から、介護だけにとらわれない生活全般を見渡した援助が重要である。
 介護だけを抜き出して論じるような評価やケアブランは、むしろ要介護世帯の生活を破壊する力動となる危険がある。評価を行う視点として、記録表から把握された生活の構造や集計表で示された多様性・多面性をとらえることが重要であり、介護行為を細分化したり、ニーズや問遺点のリストへの反射的対策に終始する方法では、実態に対処できないことが示唆される。ソーシャルケースワーク本来の視点から、ケースの全体像を総合的・歴史的・構造的に把撞し、自立への過程を支える援助目標・援助計画を具体化することの重要性を再確認させられた。
〔1999年5月22日第19回医療社会事業学会で発表のもの〕
  (かたの かずゆき/汐田総合病院)
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