●特集/国民生活の変容と医療・福祉
特集にあたって
編集部

長引く不況と「供給サイド」を強化することで不況からの脱出を図ろうとする構造改革のもとで、国民生活には深刻な変化が生じている。そのリアルな実態と問題、それらが提起する医療・福祉の課題を浮き彫りしに、あわせてそこからの脱却の方向を探ること、以上が本特集の課題である。この課題にそって4本の特集論文を掲載している。
 伍賀一道論文「日本経済の現局面は職場と働き方をどのように変えているか」は、日本の職場や仕事をめぐる状況について、職場が
縮小し雇用が減少して失業者が増加する一方、非正規雇用が拡大するなど雇用の中味にも質的な変化が生じていること、他方で「請負」を装った「労働者供給事業」の横行やサービス残業、労基法を無視した外国人労働者の雇用など「違法状態」が広がっていること、これらの背景には輸出主導型経済の強化のためのコスト切り下げと企業の多国籍化と海外流出、違法な働き方を合法化しようとする「労働市場の構造改革」の断行があることを明らかにし、今日の困難から脱却するためには、違法状態を取り除き雇用を拡大するこむ、均等待遇原則を確保することが不可欠で、そのためにもアジア、とりわけ中国の労働・福祉改革へ関心を寄せるなど国際的視点が求められることを提起している。唐鎌直義論文「不況下の国民生活から見たF自己責任追及型社創の矛盾」は、自殺者の増大、路上生活者の増大などに示される「生活の破綻」を、特殊な開港としてではなくわが国の経済構造・社会構造にビルドインされた深刻な矛盾として捉えるべきとの視点から、直接にはr家計調査年制の「勤労者世帯・年間収入10分位階級別」の数値を用いて国民生活への不況の影響を分析している。不況はどの所得階層にも平等に作用してきたわけではなく二極化を生み所得格差を拡大していること、それが食費格差、所得の低い階層での自立的消費部分の節約など生活格差、さらには資産格差を拡大させていることを明らかにしている。広田敏雄論文「生活保護の現状と間毘点」は、ホームページ「生活保護制度110番」に寄せられた声を紹介しながら、生活保護の問題を通じて見えてくる国民生活の実態と生活保護行政の問題点・課題を明らかにしている。相談のなかに精神疾患、失業、母子世帯、DV、借金などが多く含まれており、病気や失業で収入がなく生活の見通しがもてない状態が多くあること、にもかかわらず福祉事務所へ出向いていない背景には、生活保護への偏見、窓口申請での違法な申請拒否や追い返し、親族扶養の押し付け、就労指導などがあることを「生の声」で明らかにし、具体的な解決方法のひとつとしてオンブズマン制度の導入を提案している。服部真論文「労働現場の過労死・過労自殺の実態」は、国民生活が収入の減少による生活基盤の悪化か長時間労働による生活の質の悪化に二極分化しつつあるとしたうえで、後者の問題を健康障害、過労死、過労自殺の最近の実態から明らかにしている。過労死・過労自殺には労働時間要因が大きく関与していること、長時間労働とその結果としての睡眠不足が様々な疾患の発症を高め悪化させること、過労自殺には心理的負荷の強度が影響していることなどを明らかにしたうえで、問題解決のためには人間らしく働き生活するための協同のネッワークによる新たなスタイルの運動が求められることを提起している。
 いずれの論文も、国民生活の実態を明らかにしたうえで現状からの打開のためにポイントとなる課題を視点を提起している。この点
をめぐる研究会内外の活発な議論・論争を期待する。
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