特集 石川県地域医球計画と住民の健康
地域医療計画と福祉・保健
鶴来病院保健婦中 田 なみ子
 
私に与えられたテーマは、地域医療計画と福祉・保健ということなんですが、私がこのテーマについて話すのが適任かどうか非常に疑問があります。どうしてかというと、病院で働いている保健婦はわずかしかいないからです。石川県内で、現在200人近くが保健婦として働いているのですが、その内訳(昭和60年)は、県の保健所で働いている保健婦が68人、金沢市の保健所で働いている保健婦が40人、その他の市町村で働いている保健婦が93人です。その他でみますと、北電とかNTTとか大きな企業で働いている保健婦が若干と、病院で働いている保健婦というのは私の知る限りでは約10人しかいません。そのうちの半数は民医連の病院で働いていますし、私は公立病院で働いておりますが、公立病院で保健婦として勤務しておりますのは、私が働いている病院にもう1人いるのと、能登総合病院に1人と私の知る限り3人しかいません。
 少数派の病院で働く保健婦が、保健婦として地域医療計画と福祉・保健について話すということで、私は、私自身が医療現場で公衆衛生の仕事をしているという立場から発言したいと思います。
 まず最初に、地域医療計画についてですが、これは私を含めてなのですが、保健婦の間では問題意識というか、この計画における危機感のようなものはほとんどないと私は思います。私自身病院の中におりまして、労働組合サイドで1年ほど前からこういうものがたてられて、私たちの地域でいいますと公立石川中央病院とうちの病院があるけれど、病床数の規制が行われたらうちの病院はあまり効率がよくないので、もっとベッド数が減るんかねえ、といった話があった程度で、一般の市町村で勤める保健婦についていえば、自分たちの仕事に直接関わる意識はなかったと思うし、今もないと思います。
 ここで話をするということになってから、保健婦の雑誌が何冊かあるので見ていたら、その中にたまたま今月号で同じような特集をしている2誌がありました。ひとつは「転換期の方向性をさぐる最近の保健・医療・福祉の動向をめぐって」、もう1誌は「保健・医療・福祉の総合推進体制をどう進めるか」というものです。保健婦の雑誌の中で、医療と福祉と保健を一体で考えていかないといけないんだということが、座談会方式で提起されているのです。ちょうど話す時期だったので、私はこれを読んで参考になったのですが、こういう考え方が今孝だ市町村の中にも、保健所の中にも、保健婦の中にもないなと思いました。そのなかで一番言われているめは、医
療と保健・福祉の統合化です。今までのように保健の分野を自分は担当するんだとか、そういう意識では保健婦は働いていけない、保健婦自身が意識の転換をしなさいというふうに言われています。
 実際にそういう形では考えていませんが、老人保健法ができて以後、必要に迫られて市町村が保健婦なんかは福祉と連携をとらざるを得ないというふうになっています。具体的に言えば、寝たきり老人の訪問をしなさいということが、老健法の中にあります。それまで大きな市町村などでは福祉の分野で老人福祉というてとで特別に訪問していたけれど、保健婦は保健の分野だから、もっと健康な老人だとか健康な成人を対象にすべきだという考えがありました。小さなところでは、そこまでも区別されていなかったのです。ところが、老健法以後は、保健婦がまずは寝たきりを把達して訪問しなさいということになっています。
 実際にどこまでできているか。今石川県は大ざっぱに見れば、県下で5,100人に1人くらいの保健婦はいるのです。私の住んでいる鶴来町にも19,000人くらい人ロがあるのですが、3人保健婦がいて寝たきり老人40人くらいは把達しています。私の町の寝たきり老人に保健婦がどう関わっているかと言えば、その40人を年に1回多くても年に2、3回訪問できればいい方だというのが現状です。
 たまたま先日私の病院に入院している患者が私たちの相談室へ飛び込んでまいりました。自分は労働災害で入院している。家に寝たきりのばあちゃんがいる。介護を奥さんがしていたが心臓が悪くなって受珍したら、すぐ入院しなさいと言われてしまった。家にばあちゃん1人置いとけない。自分も入院していてみることができない。明日でも入院しなさいと言われたが、このばあちゃんをどうすればよいか。そう言って飛び込んでこられた。それは大変だ。奥さんのことも考え、何とか受け入れ先をということで、病院の保健婦2人して役場へ電話する、福祉関係のところへどっか入れないかと半日がかりで探す、経済面でも家族と調節する、ということで走り回りました。その時のことですが、町役場の保健婦のところへ電話したら、「そこ、私行ったことあ
るんです」というのです。じゃどうしてあなたがカになれないのかという話になった。その時に彼女は「1、2度しか行ってないし、家族もそういえば1度おいでたことありますけど・…・・」というその程度なのです。寝たきりをかかえている家族にとって一番危機になったときに、役場の保健婦さんに相談しようとか、役場の福祉の人に相談しようとすれば、それ以前の関わりがすごく大事なのですが、年に2、3回しか顔を見ていないという段階では、寝たきりの家族のカになるというのは、はとんど不可能なのではないだろうかと私は感じております。
 中間報告とか、今度の医療計画の中にも在宅サービスを前進させてゆくということが言われています。しかし、今の市町村及び県のマンパワーとか、特に市町村の中での人とお金の問笹を考えてゆくと、病院へ入れないで、在宅で私たちがしっかりみていきますよ、だから、家族の方も「緒にがんばってやりませんかと言えるだけのカというか、施設・病院へ老人を入れなくてすむようなカは今、市町村にはないと思います。本当にそれをやろうとしたら、1週間に1度くらい保健婦が行き、先生の往診もあって、へルパ−さんも週に2、3回行く、だから家族もみてという具合に、もしかしたら病院へ入れるよりもっとお金と時間と人の手がかかることじゃないかと思い
ます。
 次に、私自身が今病院で何をやっているかをお話します。在宅看護は継続訪問ということが言われてますが、現状の中では私たちは継続訪問をしていません。何故できないかといえば、公立病院なのですが、往診を一切しないという方向になっているからです。寝たさりの方でも、退院されたら地域の先生の方へ連絡をとって主治医がかわるということになっています。主治医がかわってしまうと、在宅看護の保険点数化とかは今の段階ではできないので、そうすると地域の先生に患者をお願いして、訪問の方は地域の看護婦さんにお願いしなければいけないということになるのです。それが現状です。それでは私が何をしているかと言えば、鶴来町及び白山麓の尾口村、吉野谷村、河内村の老健法の健康診査を担当しております。そのなかで、尾口村もそうなのですが、医療に恵まれないとか、なるべく重症になる前に見つけたいから、町村の持ち出しが多くなってもいいから、老健法の項目よりもっといろんなことをして早く見つけられる患者には早く見つけようということで、村も非常にカを入れられて総合検診的なことをやっています。検査項目もずい分増やしてやってきました。10年近くそういう形で老健法の始まる以前から村の持ち出しで濃
厚な検診を進めています。
 そのなかで最近私たちが考えているのは、ヘルス事業というか、保健の分野で検診をどう捉えるかということです。検査項目を増やしていろいろな検査をすればするだけ、いろいろなことが老人に限らず成人にも出てきます。検査項目を増やせば、ぜんぜん気が付かなかったのに、高脂血症があったりとか、糖尿病とまではいかなくても耐糖能異常の人がどんどん出てくるとかということが出てくるのです。そういう人を地域でどうしていくのか。そういう人は早い段階で見つかったんだから、病院にかかる前に見つかったんだからよかったんじゃないか。確かによかったんですが、他はなんともない。高脂血症だ、糖尿病以前の状態だということになると、今度非
常に重要になってくるのは、生活の改善ということです。食生活を筆頭にして、生活全般を改善していかないと、せっかく早期発見をしても、何も役立たないのです。検査を増やしてそれらを未然に発見することは、医療が進歩している現在、非常に簡単なことなのです。最終的には、住民の1人1人の生活を改善していく必要がある。ここからが非常に手間がかかることだということを、私たちはすごく感じています。
 今まで、非常に知識のなかった時点では、糖尿病の本を読んでいって、さあ糖尿病教室です、糖尿病とはこういう病気で、こういうことをすると治りますから、みなさん気をっけましょうと言って拘っていればよかったのです。でも、それでは全然生活改善にはならないのです。自分は糖尿病の前の段階だから、食べるものに気をっければいいんだなと言って帰られても、実際の3度3度の食事、自分の生活を見直して自分の中の問題として改善していかなければ、1回の糖尿病の話をしただけでは、全く効果がないということが、この10年の経験の中でもうはっきりとわかってきたんです。年1回だけの糖尿病教室で、あなたはこうですよと言っただけで、私たちの
仕事が終わらないとすれば、生活改善をできるというところまでもっていくことが、本当の意味の保健婦活動だということになる。そうであれば、そのために保健婦も非常にエネルギーがいります。住民組織を動かしてゆくとか、住民レベルの学習活動をどんどんつくっていくとか。そういうことになると、住民全体へ働きかけていくことが必要になってきます。
 これからはただ検診を増やせばいいということではないとなると、本当の意味で、保健婦も考え直さないといけない時期に来ているのだなと思います。私は自分の仕事の中から最近そういうことを考えています。


 
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