特集 石川県地域医球計画と住民の健康
医療の再編成と今後の地域医療
石川県保険医協会理事大 野 幸 治
 医療計画における任意的記載事項に関する私見


 医療の再編成とこれからの地域医療という一大きいテーマですので、10分くらいではなかなか話せそうにもありません。それで自分なりに感じていることやいろいろ問題になっている点をかいつまんで話したいと思います。
 やはり、医療というものは金がかかるものだと私は思います。それをどれだけ国が責任をもってやるのか、またはどれだけ国民や医療福祉関係者の負担においてやるのかによって、今大きい違いが起こっています。今回の医療計画で厚生省が一番の目標にしているのは、日本全国の病院数と病院ベッド数の規制です。21世紀に向かって国民が非常に高齢化してゆく、そのため老人の医療費がかさみ、特に老人の入院費が非常に増えるので、それを何とか今のうちにくい止めるようにしたいというのが厚生省の本当の狙いであります。各県毎にいくつかの診療圏がつくられ、その診療圏の中の病院ベッド数が厚生省の示した基準よりオーバーしたところでは、病院の新
設や増床ができなくなります。こうして病院ベッド数を規制しておいてから、今度は国民医療総合対策本部の中間報告にもとづいて、厚生省は入院医療の中身に強い規制をつくろうとしています。それによると現在入院しなくてもいい人達が入院しているので(社会的入院と表現されている)、その人達を中間施設に移して行こう。全国の病床のおよそ3分の1を中間施設に切り換えて行こうというのが今後の医療の再編成の方向だと思っていただければよいと思います。
 付表に中間報告に基づく厚生省の要点が書いてあります。これを見ますと、年寄りが非常に長く入院している病院をチェックしたり、各病院には入院・退院の判定委員会をっくって、自律的にリストをつくらせ入院の長引いた者はどんどん病院から出て行ってもらうように努力してもらい、行政の方も指導していくというふうになります。そういった形で病院から年寄りを追い出し、中間施設に収容しようというわけです。中間施設だったら医療費も少なくてすむという骨子になっています。
 それから各県が保健医療計画について厚生省に一報告しなければならないわけですが、報告は必要事項と任意事項に分かれていて、必要事項は先程申した医療圏と必要病床数のことで、任意事項として5つのことがあります。1番目は病院の機能を考慮した病院の整備の目標、それから2番目は、へき地・夜間・休日・救急医療の確保、3番目は病院・診療所・薬局などの相互の機能連携、4番は医師・歯科医師などの医療従事者の確保、5番はその他医療供給体制の確保という5つで、この5つは記載してあれば望ましいけれども、なくてもいいことになっています。
 ところが毎日診療にあたっている私どもは、むしろ具体的な任意事項の方を重視したい。
必要事項は県ですべて数字にはじき出されているからどうしようもないのです。それで任意事項で私が気付いた点として、できるだけ今すぐ努力していかなければならない問題として、病院と診療所の機能分担があります。患者さんは大きい病院さえ行けばすぐに治り安心だということで、軽い病気の人も大きい病院に集中している。大きい病院は本来入院診療が中心のはずです。大学病院でも国立や県立病院にしても、外来に手がとられてそこの先生は大変苦労しています。大病院であるから、来た患者さんに聴診器だけあてて診察を済ませるわけにはいかない。見落としがあったら大病院の機能や権威にも関わってくるので、どんな軽症でもかなり精密な検査をやり
ます。だから余計外来に手がとられるわけです。やはり病院は本来の入院診療に集中していただくべきで、外来は診療所からの紹介患者だけを診るという紹介外来制にすべきだと思います。そして診療所はプライマリケアと呼ばれる予防・保健上のいろいろな活動も含めて外来診療に専念していくことにし、病気によっては適切な病院を紹介するという病院と診療所の機能分担がもっと進められるべきです。これには行政・医療関係・住民三者間の指導や協力が必要ですが、大病院といえど外来患者を多く診療しないと経営が成り立たない現在の医療費体系にも大きい問題があります。
 次は病院と診療所の連携です。現在日本の病院にはCTなどの高額医療機器がたくさん設備され、世界でもトップになっています。それでこれらの医療機器を使う特殊検査だけを開業医から病院側にお願いすれば、いろいろと良いことが起こるのではないか。病院側にしてみれば機械の遊んでいる時間が少なくなるし、患者さんにしてみれば、今までだったらその検査を受けるためには、もう一度そこの病院で尿や血液検査などの初診を受け、そこでその特殊検査の予約をし、次に予約した日に検査を済ませると、今度はその結果のわかる日が知らされます。三度病院へ足を運ばなければなりません。患者さんにしてみればこの無駄がなくなり、時間的にも金銭的にも助かります。開業医側にしてみれば、病院へ電話で特殊検査の予約をとり、患者さんに一度だけその予約臼に病院へその検査だけ受けに行ってもらえれば、後で病院から開業医の方へ結果が送ってきます。そうすれば、自分のところの検査資料と病院の特殊検査成績とを合わせることにより、より正確な診断がつくわけで、結果的に患者さんのためになります。こうした特殊検査などで、病院と開業医が連携しようということで、いま石川県保険医協会や金沢市医師会などで検査の依頼の方法を考えだして有効に利用されています。このように具体的に解決のできる問題をやは
り今後とも工夫していかなければならない。将来病院をオープンにして、診療所の先生が
病院の先生と共に、入院させた自分の患者さんを診るということもおきてくると思います。
 現在、石川県は非常に看護婦不足となっています。これは我々の代表で県議に出た岡部
さんが調査された資料によるのですが、石川県は全国で病床数は、人口10万に対して1,789で第四位であります。医師は三位です。看護婦だけが、人口10万人対し627名と第17位に落ちています。全国の病床の多い5県のうちで、石川県だけが看護婦数が低いわけです。
これは県当局で解決できることなので、早急に改善していただきたいと思います。
 また末期癌とか治らない病気の人たちのターミナルケアの施設をどういうふうにするかという問題も、これからの地域保健医療計画に考えていっていただきたい。

 国民医療総合対策本部の中間報告のねらい

 次に国民医療総合対策本部の中間報告にもどりますが、いわゆる社会入院を排徐する、入院しなくていい人をできるだけ病院から出てもらい、他の施設へ入っていただくということですが、いま年寄りを受け入れる福祉施設、老人ホームなどは日本は非常に遅れています。住宅も日本は、先進国で最低の事情になっております。その上、日本は高齢化して、介護している人自身も高齢化しつつあり、また共稼ぎ夫婦が多くなり三世帯家族が減っているなかで、これから増えてくる老人を在宅でみれるかどうか問題が多い。社会的入院を追い出して、中間施設に押しやるのは無理なのでないか。そういう問題が解決つかない限りは、非常に難しいと思います。
 それから長期入院の是正ですが、日本はフランス・西ドイツに比べて入院が約3倍も長いと書かれていますが、1床当たり従業員数は(1982年)、日本の0.77人に対し、欧米は2人前後で、日本の約倍の従業員が働いているわけです。ですから、欧米で入院しますと非常に早いうちから、例えば脳卒中で倒れれば、早いうちからリハビリをやったり、内科・外料各科の総合的な非常に手の込んだ医療を集中的にやれるようになっています。やはり、入院が長期化している原因の一つには、日本の病院は機械ばかりいいものがあるけど、本当のかゆいところに手が届くような、大事な時期に充分な治療が行えないということがあるわけです。医療費を削減しようとして長
期入院を是正するのだったら従業員を欧米並に増やすべきだし、従業員を半数にしておいて、受け皿も不十分なのに長期入院だけを是正しようとしても矛盾しているように思われます。
 患者サービスの向上として、入院給食選択性をとり入れ、入院患者の食事に上中下をつくり、患者さんに選んでもらうということを厚生省は考えています。一つの部屋でAさんは上の食事、召さんは下の食事といった具合に互いに同じ部屋でそういうものを食べ合うのは精神衛生上問題があるのではないかと思います。そうなったら、上食の部屋、中食の部屋といった具合に、食事によって病室を分けないといけないことになります。
 その他大学病院の保険診療や保険医指定のためのインターン教育などが考えられたりして、これから役人の統制が厳しくなってくることになっています。数年後には医療法の二次改正が予定されています。厚生省の監督ばかりが厳しくなるのでないかと思います。もっと血の通った医療体系づくりが望まれます。
 まとめとして以下の点を指摘しておきたいと思います。まず、今後入退院判定、施設入所、在宅医療をめぐって老人がたらい回しにならないようにしてもらいたい。また我々医療関係者と福祉関係者が連携しあっていかなければなりません。それから住宅問題・法的問題ではそれぞれの関係者とも連携しなければならないでしょう。これからの地域医療は保健・医療・福祉を一体として考えなければならなくなっています。地方自治体は地域住民や医療・福祉関係者の要望にもっと耳を傾けて、自主性と独創性に満ちた地域医療づくりに励んでもらいたいと思います。

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