特集「民活」型医療・福祉を考える

研究例会における事業者との討論

編 集 部

 以下の内容は,1988年11月22日第7回研究例会で「民間救急サービス」と「在宅福祉サービス」の事業者からの報告に対して,参加者から出された質問・意見とそれへの応答を編集部の責任でまとめたものです。

A 民間救急サービスと石川シルバーケアの会の話を伺って,その必要性と言うのはよくわかりました。まず,専用の病人移送車がこれまでなくて,病院問の連携といった問題からもそういったものが必要になってきていると,それから現在の119番が適切な救急のために使われているかという指摘もありました。また,利用者といいますか,ねたきり老人 当事者のニーズに答えていく,しかも良質で均一でネットワークされたものを目指すというのもよくわかります。必要性というものは私なりに判ったつもりなんですが,一つ考えていかなければならないのは,先はどから紹介されていますアメリカでは,民間救急隊の発達によって消防署が救急車を持たなくなってしまった。そういう形に日本でも進むのではないかということです。最低の福祉,そういったものを行政や自治体がおろそかにしていくことにはなりはしないであろうかという危惧です。もうすこしいいますと,良質な福祉というものは,すべてお金が無いと受けられない,有料化という形でなされていってしまうのではないか。だから,片方で必要性を感じつつも,片方で最低限のものを受けるにもお金がいるようになっては困るなという戸惑いがあるのです。そこのところはどのようにお考えですか。
B その指摘は非常に正しい意見だと思います。アメリカでは,結局無くなった州もありますし,残っている州もあります。やはり,民間企業は,会社ですからどうしてもボランティア的な形にはなりません。最低限の利益は出していかなくてはならないという所に無理があると思います。日本の場合はアメリカと違ってもっと公的部分は残っていくと思います。アメリカの公的なものと民間の違いは,あまりにも公的サービスの質がわるいということです。ですから,お金を出してでも民間のはうに頼むというのが現状なのです。
C やはり,行政としても限界があります。ボランティアにしても限界があります。それに中にはお金を払ってしてもらったはうが気が楽でいいという人もいます。そういう部分を民間でなんとかしましょうということです。こちらとしても経費がいろいろ必要ですからお金はかかります。在宅サービスをやってみてつくづく思ったのですが,民間にしても限界があるということです。ですから民間に全部頼ればいいじゃないかという考え方はおそらく出ないんじゃないでしょうか。入浴サービスをとってみても,月2担は市のサービスで,3回入りたい人が私達を利用するというD 今,公的サービスが最低限,基本的なところを保障して,民間が上乗せというか,より良質なサービスを提供するといわれましたが,例えば埼玉県とか首都圏の話を聞くと,自治体が業者に全てを任せてしまう,逆に言えば,業者は自治体と契約して,仕事の量は保障され,経営は安定しているということです。石川県とはだいぶ事情が違うのでしょうが,そういう形で自治体に変わって業者がやって,より良いサービスを目指している。直接やってもらっているお年寄りや家族からはお金を貰っていない訳です。民間がうまく行政とタイアップして経営的に成り立っていくということもあるのではないでしょうか。

B そうですね,ハワイの民間救急は100%市からお金をもらって,直接お客様からはもらっていません。アメリカでも,ほとんどが,
保険会社で,市・行政からもありますが,集金部分ははんのわずかだと聞いています。

E 私は民間活力のかかわり方は3通りあると考えています。1つは今まで公的サービスがやっていた部分をそのまま委託ということでやる。2つめは公的サービスがやっていることを市場で確保する。例えばねたきりのためのマットですが,市が買い入れて無料で貸し出している訳で,買い入れる先は企業ですね。
 3つめは,公的横閑が関与しないでやるやりかたです。いろいろな報告書で書かれていますが,3つめのやりかたで市場が大きくなるためには,公的サービスがそれを妨げる分野を拡げてはいけないということです。1つめや2つめでは,公的サービスが充実すればするはど,民間企業も増えていくわけです。民間企業が増える=公的サービスの縮小と考えず区別する必要があります。私は公的サーピスを充実する方向で企業がもっと栄える必要があると考えています。ですから,救急サービスもこういう形態をとれないものかと思っているのですが,今の制度や行政の流れをみると,3つめのやりかたで発展させていくことになるだろうと。そうするとさっきから論議になっているように公的部分の縮小問題が出てきますから,私としては,是認できないような内容となってきます。

B 民間と行政の拘わり方は非常に参考になったんですが,現場の声として言いたいのですが,私達救急サービスは,皆さんが困っていらっしゃる病院間の移送とか,お風呂も単に入ればいいというのではなく,どこかの温泉に入れないものだろうかとか,長期に入院している方に自宅や近所をみせてあげたいとか,最低限度のものではなくより楽しんでいただこうというものなのです。ここのところが行政と全く違うところとして捉えていただきたいのです。

F お話を聞いていると,まさにリハビリテーションでよくいわれている,『ADL(日常生活動作)を保持するだけでなく,QOL(生活の質)をどう高めるか』という考え方と同じですね。公的サービスがADLを保障し,民間がQOLを高める投割を持つということですね。生活の質の向上を目指すというのは,非常に大事なことですが,公的部分がそれをサボッて,民間が肩代わりというのは,これも問題があります。ある意味では,民間がQOLというものに目をつけて,たとえ,ねたきりになっても健康な人に近い生活をどうやって保障していくのかを磨かれるのは非常に結構なことだと思います。ただ,例えば費用が高くてお金がある人しか利用できない
だとか,一部分の人だけという格差が拡がればそれは,また大きな問題が出てくることになります。
E 先はどアメリカの話がでていましたが,最近アメリカでは『ホスピクル コーポレイション オプ アメリカ』という会社が医療機関をっぎつぎと買収しています。これは,一言で言えば,アメリカの医療政策は民間企業を育てるかといったらそうではないということを表していると思います。1983年から老人を対象としたDRG(診断関連群)という診療報酬制度を導入しましたが,それから民間は重症者を扱いにくくなり,非常に軽症な患者が対象となってきて,今までアメリカの民間企業は非常に急成長してきたんですが・『ホスピタル コーポレイション オプ アメリカ』も利益率を落とすようになってきました。利益率が落ちれば,増やすように頑張るか,買収するかどちらかで,アメリカでは後者が非常に盛んですから,どんどん買収をおこなっているわけです。このように,アメリカの政策は公的部分をできるだけ小さくして,民間企業でといいながら,その医療費抑制政策が民間の成長そのものも保障していないということです。そういう意味では,日本も今,医療費についていろいろと政策を考え,シルバービジネス振興会が144兆円市場といわれる分野をどう健全育成するかと言っていますが,一方で医療費の抑制をおこなっているわけですから,一体それがどういう方向に向かっていくか,単純ではないといえます。さっきいくつかの面では伸びてほしい民間部門もあるといいましたが,必ずしも,今の医療政策というのは,そういうところが伸びるのではなく,むしろ大資本の製薬会社などが伸びるのではないか,私達が日頃思っている日常の在宅介護に必要な部分は伸びないのではないかという気がします。みなさんのように,在宅の因っている人の気持ちがわかったところや,より良い生活を実現するために仕事をしているんだという民間企業が伸びるのなら私は,一概に批判はしたくないと思います。

B そうですね,確かにニードがあるから民間企業が成長するというよりも,要するに・予算をどれくらいとってお金を流せたというところが伸びるわけですからね。
    
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