特集「民活」型医療・福祉を考える

<諸外国の経験から「民活」を考える〈1)>
   スウェーデン・アメリカの医療・福祉
金沢大学大学院経済学研究科 河 野 すみ子

1.はじめに

 今日,日本の医療・福祉分野に民間活力導入がうちだされ,厚生行政はアメリカ型の医療保障制度への移行を進めようとしている。この問題を考えるために,医療を公的責任で供給しているスウェーデンと,おもに営利目的に設立されたアメリカのナーシソグホーム
について簡単に報告する。スウェーデン,アメリれ 日本の医療の現状は表1のように示される。

2.スウェーデンの医療・福祉

 〈1〉 医療
 スウェーデンの医療は公的部門,特に県により大部分供給され,医療公営制注なっている。設立別に病床数をみると,哀2のように県と国が93%を占めている。県の事務のなかで医療の占める割合は大きい。1984年度の決算結果では,全県の総歳出中病院経営の占め
る割合は63%,病院外の保健医療費は13%,両者を合計した保健医療費の総額は全歳出の76%に達している。
 医療費は主として県民税という一般財源による。医療は公的部門により現物給付され,医療保険の割合は総医療費の約10%である。
全国民は公的医療保険によりカバーさ申,外来は社会保険,入院は原則無料である。
 医療政策の方向は次の3点にまとめられる。第1はプライマリー・ケアーを重視し,地域に密着した医療サービスへの転換をはかる。
第2は老人の医療需要に対処するため長期療養病床を整備する。第3は精神病院の入院病床を削減する。このような政策の結果,表3
のように一般病床と精神病床は減少し,長期病床は増加した。


(2)福祉と医療の接点の問題
 スウェーデンでは福祉はコミューンが担当し,医療は県が担当している。福祉は在宅中心、となっており,医療を必要とする老人は県
が担当する病院へ送られる。そこで福祉と医療の連携をよくすることが重要な課題となり,老人ホームと県立病院を併設する等の努力が
されてきた。
 医療を担当する県は,老人医療分野の新施策として長期療養病床を整備してきたが,老人自身のためにほんとうに良いケアなのかと
いう疑問が出されてきた。そのため現在,在宅医療サービスが追求されはじめ,長期療養病床の整備は下方修正されてきている。


 〈3)老人福祉
 スウェーデンの老人福祉の基本的な考え方は,@通常生活の継続 A総合的視点 B自己決定 C社会参加 D積極的活動の5原則
に依っている。老人が地域で自立した生活をするために重要な問題として,住宅政策と老人福祉サービスがある。
 第2次大戦後,住宅事情が悪かったこともあり,老人ホームや年金者ホームが急速に建設された。しかし,施設での生活は老人を孤立と孤独においやるという反省が生まれ,1970年ごろよりサービスハウス(サービス付老人用アパート)の建設がはじまった。現在,サービスハウスに約2万60仙人入居している。
 要介護老人のために介護老人ホームと長期療養病院がある。介護老人ホームに約4万9000人入居している。長期療養病院は県が運営する重症の老人を治療・介護する病院で,約4万6000人入院している。
 老人福祉サービスには在宅福祉サービス,老人介護および老人福祉特別サービスがある。
在宅福祉サービスは一般住宅やサービスハウスに住む老人を対象にし,ホームヘルプサービスを約30万人,訪問看護・治療サービスを
約4万人に行っている。老人介護サービスは自力で通常の生活を営めない老人を対象にし,介護老人ホームや長期療養病院で24時間体制のケアを行っている。老人福祉特別サービスには老人のための輸送サービス,サービスバス,および郵便配達員によるソヤシャルサービスがある。
 老人福祉政策は施設型ケアから在宅型ケアへの移行の促進と,病気の予防・健康増進の重視である。この政策を推進するために次の課題がある。第11こ福祉マンパワーの確保,第2に限られた資源の老人医療・福祉サービスヘの有効配分,第3に高齢者の社会的活動の促進である。これらの課題は,高齢者が自立した幸せな生活を送れるようにバックアップするという目的に沿ったものである。それは同時に,老人福祉のための経済的負担を社会的に軽くすることになっている。

3.アメリカのナーシングホーム

 アメリカには全国民をカバーする医療保険制度はない。メディケア(65歳以上の老人障害者,腎疾患患者の公的医療保険)とメディケィド(医療扶助制度)以外は民間保険に依存しているので,約4000万人は無保険となっている。アメリカの医療をリードしているのは株式会社である2レーガン政権下の政策により,病院病床は1975年の150万床から1985年の90万床に減少した。
 これに対し,ナーシソグホームの病床数は約147万床であり,そのうち9割は老人が使用している。ナーシングホームを設立別にみると,表4のように営利目的の私立が77%を占めている誉費用は表5のようにメディケィドと本人家族負担が大部分である2ナーシングホーム入所期間の中位置は約80日である。
 ナーシングホームの病床数の推移は,表6に示される。増加した要因は次のように考えられる。第1にアメリカの一般病院は急性患者中心であり,かつ高額な入院費用を要するので,ナーシングホームは長期ケアの必要な要介護老人の入院先としてつくられた。第2に1965年の社会保障法改正により,ナーシソグホームの入居者の費用をメディケィドが支払うようになった。第3にチェーン企業等がナーシングホームを大量に建設し,病院費用とくらべ安価な入居費用の施設を供給した等による。
 このようにアメリカの長期ケアの特徴は,ナーシングホーム産業が大量のサービス利用を得ることにより,ケアの価格を低く抑えて参入してきたことである。
 ナーシソグホーム入居者は自らの貯金や年金等の自己資金を支払ったあとは,メディケアの適用となった。この結果,ナーシングホームは本人家族に非常に大きな経済的負担をかけながら,連邦政府の社会保障財政を増加させた。1989年度のアメリカ予算案で社会保障
等給付は43%を占めている。
 一方,民間医療産業の成長率は1972年以降一般産業の成長率よりも高く,1983年は10.3%であった。また,医療従事者は720万人であり,第2の労働市場となっている召今日,メディケィドからの支払いが低水準になった
ため,ナーシソグホームの経営者は個人支払いのできる患者をうけいれ,メディケィドや
支払い能力のない人をうけ入れなくなり始めている。

4.おわりに

 企業の利潤追究のために設立されたナーシソグホームは,本人家族負担と連邦政府の社会保障財政を増大させていった。そして,企
業の利潤追究,企業間の価格競争のもとでは所得による格差を前提とするので,低所得者層は排除されていくことになる。
 アメリカの国民医療費はGNP比で10.6%表1  医療の現状であり,スウェーデンよりも高いが,病気になれば多くの費用がかかり破産か死かという耐えがたい選択に高齢者は直面している晋このことは,アメリカでは個々の医療機関で経営効率を追申しているが,社会全体としては不合理で効率の悪い医療であることを示している。
 高齢者が自立した幸せな生活を送れるような政策を推進しながら,そのことが結果として経済的負担を社会的に軽くしているスウェー
デンの医療・福祉政策から学ぶべきものが多いと考えられる。

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