「医療福祉研究」No.3 Sep 1990
特集/過疎地域における医療・福祉
珠洲市日置地区住民の医療・福祉実態調査報告
金沢大学大学院経済学研究科研究生   河野すみ子
城北病院医療ソーシャルワーカー    信耕久美子

T. はじめに
 本稿は、私ども医療福祉問題研究会が1989年8月25〜27日に実施した珠洲市日置地区住民の医療・福祉にかんする聞き取り調査の報告である。

 珠洲市日置地区は、人口が951人世帯数が310(1989年4月1日現在)であり、能登半島の最先端に位置している。交通事情が悪く、医療機関から遠く離れ、高齢化がすすんでいる過疎地域である。

 研究会が珠洲市と日置地区を調査対象にした経緯は、次のとおりである。

 医療法の改正により各都道府県が地域医療計画の策定を義務づけられた結果、「石川県保険医療計画」が1988年4月に発表された。

 この「石川県保険医療計画」の検討を契機として、研究会では、住民の立場にたった「保険医療計画」の検討を契機として、研究会では、住民の立場にたった「保険医療計画」の検討を契機として、研究会では、住民の立場にたった「保険医療計画」の提起が必要であり、特に高齢者化がすすむ過疎地域において住民の生命、健康、福祉を守り発展させることが重要な課題であるという認識に到達した。そこで1988年以来、過疎地域で高齢化がすすんでいる珠洲市の医療・福祉の実態調査を行なってきた。

 そして1989年8月には珠洲市内で最も高齢化がすすんでいる日置地区に属する中前田、横山、洲崎集落の全世帯を対象に住民の聞き取り調査を実施した。

 これらの調査結果は、第1次報告「過疎地域における医療・福祉----珠洲市日置地区医療・福祉実態調査報告----」として、金沢大学文学部日本海文化研究室室紀要「日本海文化」第16号(1990年3月)に発表した。同報告書では珠洲市の歴史、産業、住民の健康状態、医療・福祉行政とともに日置地区住民の聞き取り調査の概要と単純集計等の結果を簡単に紹介したいので、本稿とあわせて御覧いただければ幸いである。

 今回の日置地区住民の聞き取り調査報告は、この調査結果をふまえて、クロス集計をはじめと詳しい集計を利用した調査結果である。聞き取り調査は、世帯調査と個人調査の2種類の調査表を用いて行なったので、まず、Uでは世帯調査の結果について検討し、Vでは個人調査結果の検討、Wでは調査結果の簡単なまとめをおこなう。原稿はT・Uは河野すみ子(金沢大学大学院経済学研究科研究生)、V・Wは信耕久美子(城北病院医療ソーシャルワーカー)が担当した。U、世帯調査結果 高齢化がすすむ医療の過疎地域においては、病気になった時の対応が問題になってくる。とりわけ、一人暮らし世帯では困難が多い。ここでは、世帯状況、世帯の所得、病気の時の対応、要介護者・入所者のいる世帯とともに、さまざまな困難を伴う単身高齢者世帯について検討する。

1.世帯状況

調査世帯の年齢構成と家族構成とともに、医療の過疎地域では車の運転の可否が重要なので、今回の調査ではとくに項目を設けて聞き取りをした。

@調査世帯の世帯員数と年齢構成

 世帯調査に回答した世帯数は69世帯であり、その世帯員数は男110人、女116人あわせて226人である(表1)。平均世帯人員は3・3人(珠洲市平均3.6人)となっている。

年齢(3区分)別にみると、年少人口が34人、生産年齢人口が127人、老年人口が65人であり、老年人口比率は28.8%である。

老年人口が高い割合を占めている。なお、今回調査対象にした中前田、横山、洲崎集落が属する日置地区は珠洲市内で最も老年人口比率が高く、また、珠洲市は県内の市レベルで最も老年人口比率が高い。 次に、65歳以上の家族のいる世帯は50世帯であり、72.5%を占めているこれは珠洲市平均(48.7%)よりさらに高い(表3)。このように調査対象地域は高齢化がすすんでおり、65歳以上の家族のいる世帯が多い地域である。

 A調査世帯の家族類型

 世帯を家族類型別にみると、「夫婦のみ世帯」が16世帯で最も多く、次いで「夫婦と子供と親の世帯」(3世代)が14世帯、「夫婦と子供の世帯」が13世帯である(表4)。16世帯の「夫婦のみ世帯」のうち、14世帯はいずれかが60歳以上の夫婦のみの世帯という高齢者夫婦世帯である。また、10世帯の「単独世帯」は、すべて60歳以上の者一人のみの世帯という単身高齢者世帯である。単身高齢者世帯については後述する。単身高齢者世帯と高齢者夫婦世帯をあわせた「高齢者世帯」(注)は24世帯(34・8%)であり、「高齢者世帯」が高い割合を占めている。

 B車の運転の可否
車の運転できる者のいる世帯は38世帯(55.1%)であり、いない世帯は31世帯である。運転できる者のいる世帯は「夫婦と子供」や「3世代・4世代」世帯が多いのに対し、いない世帯は「単独世帯」や「夫婦のみ世帯」の高齢者世帯が多い(表4)。また、運転できる者のいる世帯は所得が多いのに対し、年収200万円未満の世帯には運転できる者がいない(表5)。なお、年収200万円未満の世帯には「単独世帯」や「夫婦のみ世帯」の高齢者世帯が多く含まれている(表6)。 高齢者世帯は医療を必要とすることが多いのが一般的であり、この地域では多くの高齢者世帯 調査世帯と運転できる者のいない者がいないことより、医療の問題は単に道路をよくするだけの施策では解決しないと思われる。

 2.世帯の所得
 つぎに世帯の年収とその収入源について検討する。 @世帯の年収1世帯当たりの年収をみると、200〜300万円未満が19世帯で最も多く、次いで300〜500万円未満が12世帯、100〜200万円未満が11世帯である。そのうち、年収300万円未満の世帯は38世帯であり、55.1%を占めている(表5)。

 なお、調査世帯はすべて持ち家であり、家賃支出はない。 A世帯の収入源 世帯の収入源(第1位)をみると、農林・漁業収入が23世帯で最も多く、次いで給与所農林・漁業収入が収入源第1位である23世帯についてみると、14世帯は300万円未満であるのにたいし、3世帯が1,000万円以上になっている(表8)。このような格差の要因について、経営規模や仕事上の地位の違いなど今後の調査課題であるが、働き手が多いことが高収入になっていると推測される。 次に、年金が収入源第1位である15世帯についてみると、100万円未満が8世帯で最も多く、過半数を占めている(義9)。これは依然年金水準が低いことを示している。なお、調査世帯には生活保護世帯はなく、珠洲市の生活保護世帯は97世帯、保護率5.29%(19他年4月1日現在、前掲「過疎地域における医療・福祉」41頁)である。 

 ここでは、農林漁業がこの地域で大きな比重を占めていることや、低い年金で生活している高齢者の存在が注目される。 3.病気の時の対応 医療の過疎地域では病気の時の対応が問題になるので、今回の調査では家族に急病人が出た時の対応と問題点、入院患者の医療機関の選択理由について聞き取りをした。 

 @急病人が出た時の対応「家族に急病人が出た」と回答した世帯数は43世帯である。その時の対応として「家族の車で病院に運んだ」が15件で最も多く、次 いで「救急車を呼んだ」が14件である(表10)。

 ただし、設問では「ここ2年間で何回ぐらいですか」となっているが、今回の調査は救急時の医療の実態把撞にあったので、それ以前の回答も集計に含めており、必ずしもここ2年間とはなっていない。

「救急車を呼んだ」14件のうち、横械による負傷、転倒等の外傷が少なくとも5件あり、クモ膜下出血、心臓発作、胆石、子供のけいれんがそれぞれ1件づつある。

また、夫の死亡時について「となりの人にみてもらって救急車を呼んだが、救急車がきたときはすでに死亡していた。

 救急車は1時間以上たってからきた」という回答が1件ある。「救急車を呼んだ」14件のうち、発病時、運転できる者がいなかったと予測される世帯が12件ある。

  次に、「家族の車で病院に運んだ」15件のうち、親類の人が偶然来ていた1件以外、すべて運転できる者のいる世帯である。 

 「かかりつけの医者にきてもらった」4件と「近所の人の車で病院に運んだ」3件は、いずれも
運転できる者のいない世帯である。その他は「バスで1時間かけていった」2件、「タクシーでいった」1件、「自分の車でいった」1件となっている。

 ここでは、救急車が到着するまでに、25分から1時間かかること、また、救急車で行っても病院での対応が遅いこと、救急車を呼んでも遅いので家族の車でいくと救急扱いにならずに順番を待たされたということが指摘されている。急病人がでた時、運転できる者のいる世帯といない世帯では対応が異なっているが、いずれの場合にも問題点が指摘されている。

 やはり、身近に信頼できる医療機関が必要であると思われる。

 A入院患者のいる世帯家族が入院している世帯は5世帯あり、入院先は金沢方面の病院に1件、珠洲市総合病院に1件、珠洲市内の医院に2件、前田医院に1件である。
 その医療機関の選択理由は、「評判がよい」が2件、「紹介」が2件、「息子の近く」が1件である(表11)。
 4.要介護者、入所者のいる世帯 つぎに多くの困難をかかえている要介護者はどこに、どのような状況にあるのだろうか、要介護者、入所者のいる世帯の状況について検討する。

  @要介護者のいる世帯 要介護者のいる世帯は4世帯である。要介護者の年齢は40代、50代、70代、80代それぞれ1名づつである。

 必要な介護は風呂、着替え、外出などの介護であり、脳卒中後速症1名を含めて食事介護等の重度な要介護者はいない(表12)。 

 介護者は親が1名、配偶者が3名であり、介護者の年齢は60代が2名、70代が2名である。
表12 要介護者のいる世帯状況である。また、いずれも福祉サービスを利用していない。

 要介護者の専用の部屋は、「ある」1件、「あるけれども不十分」2件、「特に決まっていない」1件である。
 
 「あるけれども不十分」のなかに、便所まで遠いという家の間取りの問題をあげている。

 また、「特に決まっていない」1件は、子供が施設入所している「夫婦と子供の世帯」なので、決める必要がないものと推測される。 医療機関とのかかわりについて、「病院から釆院するようにいわれているが、遠くて通いにくいので、発熱時に医院の往珍を頼んだ」、「数年前の発病時に医院の往診を頼んだ」、「金沢方面の病院に通院中」がそれぞれ1名づつある。 A入所者のいる世帯 入所者のいる世帯は3世帯である。

入所先は金沢市内の施設に2件、県内(金沢市外)

能登線の階段をのぼるときつらい。の施設に1件である。いずれも高齢者施設への入所ではない。
 入所者の年齢は20代と40代であり、これらの世帯では家族の働き手が少なくなっていると予測される。いずれも年収300万円未満の
世帯である。
 5.半身高齢者世帯
 高齢化がすすむ医療の過疎地域における高齢者の状況をするために、さまざまな困難を伴う単身高齢者世帯(10世帯)について
個人調査結果を含めて検討する。
 @男女別・年齢別人口
 単身高齢者を男女別・年齢別にみると、男5名、女5名であり、60〜69歳が3名、70〜79歳が6名、80〜85歳が1名である(衰13)。
 A年収と年金
 年収をみると、100万円未満が4名、100〜200万円が4名、300〜500万円が1名、不明が1名である。収入源(第1位)は、年金が6名、給与所得が2名、農漁業収入が1名、自営業(農漁業以外)が1名である。なお、仕送りを受けていたのは2名である。

 年金は10名すべてがうけており、その種類は国民年金が7名、共済年金が2名、農業者年金が1名である。月当たりの年金額は3万円以下が4名、3〜5万円が3名、5〜7万円が1名、10万円以上が2名である。
「年金だけで生活費は足りるか」という設問にたいし、「全く足りない」が8名、「少し足りない」が1名、「十分足りる」が1名である。単身高齢者の多くが低い年金で生活しており、年金水準が依然低いことを示している。 B健康状態と急病時の対応 健康状態についてみると「健康」が7名、「持病がある」が3名である。通院状況は「時々通院」が3名、「定期通院」が3名、「医者にかからなかった」が3名、「入院した」が1名である。健康だと意識している人のなかにも、歯科、眼科等なんらかのかたちで医療機関を受珍しているのである。 次に、ここ2年間に「急病人がでたか」という設問にたいし、「でなかった」が6名、「かかりつけの医者にきてもらった」が2名、記入なしが2名である(表10)。

 C因っていること
「日頃、困っていること」(複数回答)についてみると、「病院・診療所が遍くて通いにくい」が6名で最も多く、ついで「通院費が高い」が2名、「近所づきあい」が1名である。

 次に、行政に望むこと(複数回答)についてみると、「珍療所の開設」が6名で最も多く、ついで「バスの本数の増加」が2名、「バス代の減額」が2名である。 このように飼っていることは医療にかんするものが多く、医療機関が遠いので「診療所の開設」を求めている。 D将来について「長く床につくようになったとき、どこで療養しようと思いますか」という設問にたいし、「市内の病院・医院」が4名、「子供の世話になる、子供の所へ行く」が3名、「市内の特養ホーム」が1名、「老人病院」が1名、「考えたことがない」が1名である。

 なお、年収200万円未満の世帯員で上記の設問に拘答した25名も、すべて「自宅」以外に回答している(表16)。このことは、単身高齢者や年収200万円未満の世帯員が、「長く床につくようになる」とそこに住めない可能性を示している。

 参考までに、珠洲市が65歳以上の一人暮らしの在宅者343名を対象に1987年8月に実施した「珠洲市独居老人実態調査報告書」では、今後の暮らしについて聞いているが、日置地区では「現住所で一人で住む」が35.7%(市全体54.7%)で最も多いが、次いで「子供・孫のところへ行く」が28.6%(市全体15.2%)であり、他地区に比較して「子供・孫のところへ行く」割合が高くなっている。
 多くの高齢者世帯には運転できる者がいないということより、医療の問題は単に道路をよくするだけの施策では解決しない。高齢化がすすんでいる医療の過疎地域では、身近に信頼できる医療機関の設置が求められている。また、高齢者の多くは低い年金で生活しており、その改善も求められている。

(注)ここでいう高齢者世帯とは、『国勢調査』の用語を基準にした。
『国勢調査』の用語の解説では、「単身高齢者世帯」とは「60歳以上の者1人のみの世帯及び60歳以上の者1人と未婚の18歳未満の者のみから成る世帯」をいう。
また、「高齢者夫婦世帯」とは、「いずれかが60歳以上の夫婦一組のみの世帯及びいずれかが60歳以上の
夫婦一組と未婚の18歳未満の者のみから成る世帯(ただし、未婚の18歳未満の者が世帯主である場合には、いずれかが60歳以上の夫婦が、世帯主の父母又は祖父母である世帯)」をいう(総務庁統計局『国勢調査』1盟5年版、P.6)。

 なお、『国民生活基礎調査』では、「高齢者世帯」とは「男65歳以上、女60歳以上の者のみで構成するか、又はこれらに18歳未満の者が加わった世帯」をいう(厚生省大臣官房統計情報部『昭和63年国民生活基礎調査』1989年、P.329)。

V.個人調査結果

 つぎに、個人調査結果について報告する。個人調査は、15才以下を対象とした「こども調査」と16才以上を対象とした「おとな調査」に分けて行なった。「こども調査」は、健康状態・受診状況・受診理由を家族より聞き取りした。検討にあたっては、15才以下のこども層、16〜59才の稼働年齢層、60才以上の高齢層の比較、および高齢者層固有の問題点に注目した。

1.年令構成
 個人調査に回答した140名の年齢構成は、15歳以下は28名で、16歳以上は112名である。                     
 そのうち稼働年齢層は43名、60才以上は69名で、後者は個人調査の約半数を占めている。
回答者のなかで高齢者の比率が高いのは(図1)、もともと調査対象の日置地区が非常に老齢人口の高い地域であることに加えて、今回の調査では、60才以上と子供を優先して対象としたためである。

12名いた20代からの回答は1件も得ていない。 おとな112名のうち運転の可否をみると、実際に運転をしている人は30名、していない・できない人は82名となっている。60才以上で運転できる人は69名のうち7名(10.1%)で、65才以上では1名しかいない。

2.健康意識

「きわめて健康」(33名)、「健康」(38名)、「まあまあ健康」(29名)など、一応「健康」だと思っている人は100名で、140名のうち71.4%を占めている(図2)。稼働年齢層では43名のうち33名(76.7%)が健康であり、60才以上でみると69名中42名となる。
 やはり後者で一番多い答えは「持病あり」(23名)である。 60才以上で、過去1年間に医療機関にかかった疾患は、多い順に腰痛疾患11名、高血圧疾患9名、視器の疾患7名等となっている。

 3.過去一年間の受診状況
「入院経験あり」12名、「時々通院」59名、「定期通院中」29名と、なんらかの形で医療かわった人は100名で回答者140名のうち貰1・4準であった(図3)。

稼働年齢層では43名中28名で65.1%、60才以上では52名(75.4%)となる。年齢を問わず多くの人が医療機関にかかりながら生活を送っていることがわかる。

 受診している医療機関は、珠洲総合病院が43名で一番多い(図4)。その選択理由は「大きい」が16名で最多であった。珠洲市内の医療機関のうち病院はここだけで、あとは医院(10ケ所)・総合病院の巡回診療所(2ケ所)のみである。受診医療機関の第2位は前田医院(37名)であり、その理由は「医師が地元出身者だから」という答えが多い(24
名)。県外受診の1名は「紹介」であり、金沢方面の医療機関を選んだ理由としては「家族に近い・紹介されたため」が多く、七尾方面の場合は「評判がよい・いきつけだから・紹介されたため」という理由が多かった。 受診理由は、全体では「早めにかかる」(50名)、「我慢できない時」(43名)という答えが多い(国5)。
0〜15才の子どもについ(75.0%)と圧倒的に多く、16才〜59才では「我慢できない時」18名、「早めにかかる」14名となる。
 60才以上では「持病あり」26名、「我慢できない時」22名、「良くならない時」16名と続き、高齢者が医療機関にかかる理由は、症状が続き病院に行かぎるを得なくなった時であることがわかる。こどもを除いたおとな112名の受診理由(複数画答)と自動車の運転の可否をみると
(表14)、運転でさる人は、「心配なので早めに」、「我慢でさない時」と続いているのにたいし、運転できない人は「我慢できない時」、
「持病あり」が多くなっている。運転できない人に持病をもっている高齢層が多いこともあるが、「心配なので早めに」と答えた人が運転できる人に比べて相対的に少ない。

 4.鍵康診断の受診状況
「いつも受診」が76名(67・9%)と非常に高く、「きわめて健康」、「健康」、「まあまあ健康」の健康群では、73名中52名(71・2%)

が受診、特に「きわめて健軋と答えた19名のうち17名はいつも受診している(国6)。このように健康なほど受診率は高くなっている。

 健康診断を受けない理由は、健康群は「忙しい・面倒」が多く、病気群は「いつもかかっている」が多い(図7)。

 健康診談を受診する理由としては、「保健所、市役所にすすめられて」が34名と多く、これに「その他」27名、「持病がある」10名、「安く受けられる」6名とつづいている。健診の受診率を高めるうえで保健所や市役所の役割が大きいことを示している。健康診断の種類としては、「住民健診」が地名で一番多い。
 聞き取りのなかでは、「地域まで来てくれるので受診しやすい」という声がよせられている。「住民健診」につづいて「成人健診」16名、「職場健診」13名、「老人健診」3名などがある。 健康診断の結果で、「異常・再検査が必要」と言われた人は19名いたが、そのうち18名は再受診している。
 5.日常のくらしで困難なこと
 日常のくらしで困難なことをたずねたところ、「病院・診療所が遠くて通いにくい」という答えが112名のうち54名(48.2%)もあっ
た(図8)。これに「金沢方面の交通の不便」22名、「忙しくて通院できない」19名、「専門医がいない」19名などが続いている。「医療
費が高いのが困る」と答えた16名のうち14名は69才以下(70才より老人保健法適応となり、外来月800円、入院1日400円となる)である。
 なお、子どもも含めた140名のなかで、健康保険の種類をみると、国民健康保険が101名(72.1%)で圧倒的に多く、社会保険(22名)、共済組合(17名)関係は相対的に少数である。 くらしの困りごととして「病院・診療所が遠くて通いにくい」と答えた54名について、他の画答との関連をみると、
 @年齢は別名中誠名(70.4%)が60才以上である。また地名は60才以上の55.1%にあたる。
 A運転の可否をみると、54名中軸名(81・5%)が運転できない人である。また、この44名は運転できない人の約半数にあたる。
 @、Aより、自分で運転するという交通手段を持たない高齢者は、医療機関への通いに
くさを感じている。
 B健康状態との関連をみると「持病あり」の32名中19名(59.5%)が選択している。
 C受診状況では「入院あり」12名中8名、
「定期通院中」29名中18名が選択しており、ともに6割以上である。
 B、Cより、日常的に医療機関にかかる必
要のある人の多くは、病院・診療所が遠いと感じていることがわかる。
 D健康珍断の受診状況では、75・9%にあった
る41名の人が受診している。
 E通院に不便を感じている54名は「これからもずっとここに住みたいですか」との質問には49名(湘.7%)が「住みたい」と答えて
いる。
 Fまた、行政への要望の質問にたいして、この54名のうち14名が「バス本数の増加」、
25名が「診療所開設」を要望している。
 なお、1990年8月の時刻表によると、日置地区の「狼煙」と珠洲市街の中心である「飯田」を結ぶバス路線はJR線のみで一日に行きが3便、帰りが4便、運賃は片道690円となっているが、日頃の困り事をきいた質問に、3名が「通院費が高くかかって因っている」と答えている。
 以上から、「病院・診療所に通いにくい」と強く感じている人に、60才以上で運転ができず、持病があり定期通院している人たち(12名)が浮かんでくるが、これらの人は「ずっと今の地域に住みたい」と希望している。高齢の人が健康を維持し、くらしやすい
地域をつくるためには、かかりやすい医療機関の設置と交通手段の改善が不可欠の課題であるといえる。
 6.健康への気配り
 健康のための気配りでは、「栄養のバランスに気を付けている」が42名で一番多く、つづいて「健康診断をうけるようにしている」「置き薬を使っている」であった(国9)。 各人それぞれの健康法としては(自由記入)「充分な睡眠と休養」が22名で最も多かった。民間療法的な「水・酢・健康飲料を飲む」をあげた者が9名あった。
 なんらかの健康法を実行している人は63名で、回答記入者の72.4%にあたる。なお、総理府公報室が1989年に全国20才以上3,000人
を対象に行った調査でも、「食生活に気をつけている」(47.4%)、「十分な休養をとるようにしている」(31.8%)など健康づくりの
実行状況は約7割となつている(r月刊世論調査』90年2月号)。


 7.くらしの中の心配事
 くらしの中の一番の心配事(自由記入)については112名のうち72名(64.3%)から具
体的な回答が寄せられた。「本人の病気」28名、「家族の病気」9名と健康問題が半数以
上をしめている。つぎに「こどもの事」(15名)が多く、教育・就職についての心配があ
がっている。とくに心配事がないという人は26名であった。
8.今後の居住地の希望
 これからの居住地について、99名(91.7%)が「これからもずっとここに住みたい」と答
えている(表15)。「どこかへ移りたい」と答えている3名はいずれも60才以下で、こども
の教育問題・生活の不便さなどとともに、共通して「原発から離れたい」を理由にあげて
いる。「どちらともいえない」と答えた6名は、その要因として「仕事がない」、「老後の
不安」をあげている。


 9.行政への要望
 行政への要望では(複数回答)、第1位は「国保科を安くしてはしい」38名、第2位は
「珍療所の開設」34名、第3位は「路線バスの運行本数の増加」26名でこの三要望が圧倒
的に多い。間をおいて「老人憩の家の設置」12名が続いている。
「珍療所の開設」を要望している34名について詳しくみると、運転できない人は28名、
60才以上は24名、通院中など医療機関にかかわりのある人は25名、病院に通いにくいと答
えている人25名となっている。「路線バスの運行本数の増加」を要望している26名についてみると、運転できない人は
18名、60才以上15名、医療横関にかかわりのある人18名、病院に通いにくい14名となっている。
10.年金について
 60才以上を対象にした年金の種類については、農業・漁業を中心としている地区であり、国民年金が墟名(64.9%)と一番多い。これ
に共済年金8名、厚生年金5名、農業者年金4名などがっづく。船員年金はわずか1名であった。 年金額(夫婦であれば合計年金額)では3
〜5万円が多く19名で、つづいて3万円以下と10万円以上が14名となっている。5万円以下は33名(52.4%)で半数以上であり、10万
円以下は77.8%を占めている。「年金だけで生活費は足りていますか」との問いには、5
万円以下の90.9%は「全く足りない」と答え「少し足りない」を合わせると93.9%となる(図10)。ちなみにこの地区での、1990年度の
生活保護基準をみると、70才以上の一人暮らしの場合月額6万9,880円、二人暮しの場合月額11万3,590円であるので、多くの人が年
金だけでは暮らしていけない状態であること、また非常に低所得世帯があることも明らかである。


11.寝たきり時の療養希望場所について
 60才以上を対象にした寝たきり時の療養希望場所は、「市内の病院」が一番多く25名(39.7%)で、「市内・市外の老人福祉施設」
は4名と少ない。(園11)寝たきり=病院という意識がうかがえる。「未考慮」の6名は全員「健康」と答えた人たちであった。
「自宅」を希望している人は18名いるが、男女別では半数ずつ、家族類型では、単独世帯は1件もない。夫婦のみ世帯が4件あるが、
4件とも夫の希望であり、妻は「自宅」を希望してはいない。介護カが期待でさる人のみ、 自宅を希望している訳だが、その人たちも聞
き取りのなかでは、「できるだけ自宅にいたいが、いずれは病院にいくことになるだろうとの思いが語られている。世帯収入では200
万未満の人は誰も「自宅」を希望してはいない。200万未満の世帯類型は、表6で見たように単独世帯8、夫婦のみ世帯7、夫婦と親・
夫婦と子供・祖父と孫・その他それぞれ1となっている。この世帯の60才以上25名が、どこを療養希望場所にしているかは(裏16)、
「市内・市外の病院・老人施設」が15名、「こどもを頼る」が5名となっており、介護が必要な状態になり次第この地域から去らぎるえ
ないことが予想される。
 60才未満を対象に質問した老後の心配事では(複数回答)、医療と介護の心配がもっとも多く謂名(55.4%)、生活費16名(25.4%)
であった。


W.おわりに


 世帯調査、個人調査をとおして、過疎地域

に住む住民にとって医療機関が遠く、交通手段もないところでは、医療を受けるということが、どんなに困難な事であるかが明確になっ
たといえる。まして、車の運転ができない単身高齢者世帯、高齢者夫婦世帯が多くあり、この人たちには、より深刻な問題としてのし
かかっている。また、ひとたび介護が必要な状態となった時、介護力はなく、それを補うだけのサービスも資力もなく、この地では療
養できず去っていかなくてはならない革も明らかとなった。しかしはとんどの人はこの地域にずっと住み続けることを希望しているわ
けで、そのためには、「行政への要望」のところではっきりしているとおり、維でもがかかりやすく信頼のおける診療所の開設と、費
用負担の重くない便利な通院手段の確保が必要である。この日置地区での調査開始時の第一印象は、住民誰もが皆元気であることだった。豊かな
自然の中で、高齢で一人暮らしの方も生き生きと生活していた。しかし、今回の調査結果より、その背景には、病気になっても通院は
ままならない状況であること、ひとりで生活できなくなったら去らざるを得ないことが明らかとなった。車の普及率が高くなることで、医療機関ま
で自動車で1時間以内という条件は、医療過疎とは呼ばないという考え方もあるが、自分で移動手段を持たない子供、高齢者はもちろ
ん、常に運転している人であっても、自分が病気になった時には、すぐに通院困難な状態となってしまう。しかし、残念なことに住民
の要望とは反対に1989年8月の調査時より一年後、バス本数はさらに減らされ、より困難な状態となっていた。調査対象地域には、すでに全員が転出して
しまっている世帯が多くあった。1990年8月に実施した第2回調査では、この転出世帯に関する調査を行なうとともに、第1回調査で
明らかになった点をより深めるため、単身高齢者世帯、要介護者・入院者のいる世帯について、詳しい聞き取り調査をおこなった。こ
れらの調査結果については、また後日報告することにする。
尾口村地域老人医療について
尾口村住民福祉課 箕 谷 定 紀
1.尾口村の搬要について


 本村は、国道157号線沿いに鶴来町以南に向けて点在する、いわゆる白山麓5村のうちの一つとして、牛首川(手取川本流、以下牛
首川と言う)と、尾添川に挟まれた地域に位置する人口950人の村である。地理的には金沢市より40km、鶴来町より30km、車での時間
としては、前者より1時間、後者からは30分の場所にあたる。冬季期間でも交通が確保されている現在の道路状況下においては、その
距離と時間は、鶴来町はもちろん、野々市町、金沢市でさえも通勤圏内とすることを可能としているし、また現に、そうしている住民も
少なくない。
2.集落と人口

 村内には牛首川沿いに、白峰村、福井県境に向けて走る国道157号線と、村の北端にある牛首川と尾添川の合流地点付近より、国道
から分岐して尾添川沿いに、岐阜県境に向けて走る主要地方逼岩間一瀬戸野線の2本の道路があり、集落はこの2本の道路沿いに、
国道分岐点に1、国道沿いに3、主要地方道沿いに3の計7集落があり、その人口は1集落につき、少ない所で約30人、多い所でも約
謁0人で、距離的には1血から5血ずつの間隔で点在している。 総人口は昭和55年の手取川ダム完成を填に、それまでの約半分に減少したが、その後の一
里野開発等で徐々に増加し、現在横道い状態で約950人である。また、老人人口(老人保健法医療対象老人数)は122人で、対総人口
比率は約13%で、県内市町村では平均的数値である。


3.地域医療について


 本稿御依頼の御主旨は、医療・福祉についてと言うことでありましたが、筆者の担当は老人医療関係であるため、その両方、また一
つだとしてもその全般について述べることは、それらがもつ複雑さと、筆者の知識と経験の乏しきが故に困難であるため、今軌ま特に本
村の老人医療を取り巻く問題等を筆者の個人的な意見と、独断的判断をもとに御紹介いたします。
 本村には、常設の医療機関は昭和44年以降存在せず、週に1度、鶴来町の開業医が診療所を開設しているにすぎず、事実上無医村状
態である。 医療機関で最短距離にあるのは、隣村の直診機関であるが、実際には鶴来町、野々市町、金沢市内の医院、病院等が多く利用されてい
る。これは、距離的にも時間的にも前述したとおり通院するにしても、これといった不都合が一般的には「ない」と思われている、と
いうことであろう。しかし実際には、老人や県内でトップクラスの老人医療費を管理して

いる村当局にとって、これは非常に不都合であるように見えるのである。何処の市町村でも、慢性疾患を多くもつ老
人の医療費は、平均寿命の延長と医療技術の高度化と相まって、一投的に高額なものとなっているが、特に山村地域のそれは働き盛りで
あった戦前の苛酷な肉体労働と、高塩分の粗末な食生活との影響により、より高額化している。
 しかしこれらのことは、白山麓地域にも一般的に言えることであって、例外ではない。それならば、ほとんど同一条件下にある白
山麓5村の老人医療費は、各々にあまり異なったものにはならないはずである。しかし実際には、本村のそれは、他と比ベ30%増し、
(因みに、県平均値に比ベ40%増し)となっており、突出している。その原因を他村と医療条件という面で比較することで探ってみる
と、第一に浮び上ってくるのは、村内に特に歩いて行けるような距離内に医療機関がない、いっでも行けるような所に求めるような医療
機関がない、という事実である。車を持ち、これを自由に利用することによって、全ての距離を車による時間で計ることを
常識化してしまっている。一般の人々にとって、これといった不都合のない医療機関までの距離と時間は、自らの足以外にこれといった自
主的な交通手段を持たない老人にとって、非常に不都合なのである。月に1〜2回、家族にたのんで車で医療機関まで行くとしても、それ以上はなかなか言
 い出せない。その結果、その1〜2回の機会の中で、診療料の揃った総合病院へ行き、ついでにあそこも、ここも診てもらう、という
 ことになったり、最初から病状が相当悪化して我慢できない状態にならないと言い出さなかったり、ということになり、結果的にいず
 れの場合も医療費を増加させることになっている。前述の医療機関までの距離と時間に対して、老人は自分の病気の治療がままならな
いという不都合を、役場はその医療費が大きくなるという不都合を感じているのである。しかし、実際の不都合は、医者がいないと
いうことなのであって、老人達の受診に対する考え方、医療費の大きさなどではないのである。何故ならば、必要な時に必要なだけの医療
をいかにして確保し、提供するか、という課題が解決されれば、解消される問題と思われるからである。
4.最後に

 時代の流れとともに、山村地域の人々が生活的距離、体感距離とでも言うような・地理上の距離よりももっと身近な感覚で、都市部
との距離をとらえるようになってきている今日、それは、あくまでも感覚的なものにすぎず、住民全てが各々に持っている日常的な生
活圏から見れば、やはり多少の不都合さが生じてくるくらいは、遠い距離なのだ、ということを本村の老人医療の現状が改めて実感さ
せてくる。そしてまた、医療というものは、人々の日常的な生活圏の中にあってこそ、初めて、治療するだけの医療ではない医療たり
えるのではないか、ということも教えてくれるような気がする。山村はどうしても文化に触れる機会が少ないとよく言われるが、医療も文化であると信
 じる筆者は、文化も歩いて行ける所にあってこそ初めて文化たりえるのであって、例え、車で数分たらずの所で体感できたとしても、
 それは、文明の有難さを体感したにすぎないのである。さらに極論すれば、文化とは、それを自分達の生活圏の中に守り、創作する等
 といった努力すること、それ自体なのではないだろうか。そういった意味では、山村にある本村は文化に触れる機会が少ないどころか、今最も文
 化を必要としており、文化の真只中に在る必要に迫られているのではないだろうか。


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