・特集/在宅医療・福祉を考える

保健婦の立場から見た在宅医療問題
   ―金沢市の一保健婦として―

               保健婦 浜 崎 優 子
1.人口一万人に一人の保健婦と医師のつながり


 私たち看護職は、常に医師の指示のもとで動いていくよう学んで来た。保健婦という地域をフィールドにする幅広い看護職ことってもその原則はまったく同じ事である。健診中心だった頃(今も健診中心かもしれないが)は、医師を中心に放射線のように各スタッフがつながっていた。疾病中心だからお互い理解しやすかった。この発想に慣れ親しんだ保健婦が、あるいは医師が、老人ケアを実践する場合、かなり無理が生じて釆たように思う。
 在宅医療を受ける人はやはり障害老人が多いので、在宅の障害老人に対する医療とは何かをもう一度考えていかないといけないように思う。老人は疾病中心に考えると、とても暗い。とにかく、地域で医師と密接な連携をとることは容易な事ではなかった。一万人の人が、この金沢市のような医療機関の多い所では、関わっている医療機関は本当にまちまちである。この地域ではこんな問題とか現象があるという事をトータル的に受け止めることのできる医療機関は限られている。物理的に不可能に思える。ある患者を通してのつながりでしかないのである。保健婦としては、積極的にコンタクトをつけるのが役目とばかりに、東奔西走するのであるが、初対面に近い医師とうまく会話ができるかだけでも神経を使うもの。地域においての医師の指示とはいったい何なのか?


2.病院内と在宅医療の大きな速い


 病院で医師の指示通り動くのは看護スタッフである。在宅においては主に介護者でありその家族である。医師の指示を実行するかどうかは、家族に決定権がある。うちはこれでよしと鉄のカーテンを引かれてしまうとどうしようもないのである。保健婦は主治医に相談すると、たいがい家族がそう言うのなら、無理矢理実行しなくてよいという答えが返ってくる。最初の指示はその程度のものだったのかとがっかりすることも多い。感傷的かもしれないが、家族はなぜそう言うのか、どうしたら指示の必要性を理解してもらえるか話し合い、連携をとることはできないものか。
 在宅医療との連携は、真に充実していないと思う。医師に直接言いにくいことがあれば、病院なら婦長あたりからそれとなく言うとか、それなりの方法はあるが、地域においては、主治医と担当保健婦の二者の関係しかないので、辛いところである。主治医は保健婦に理解を示してくれた場合は救われるが―。


3.老人ケアにおける在宅医療とは


 はずかしながら、在宅医療という言葉そのものがピンとこない。往診の事?訪問看護の事?どちらにしても保険点数がつきまとって大きな問題をはらんでいると見聞きしているが、保健婦の立場から考えると、在宅ケアの中のほんの一部にすぎないという気がする。一人の障害老人に対し、医師、保健婦、ヘルパー、作業療法土、言語療法士、歯科衛生士など様々なスタッフが点として関わっているのが現状である。保健婦はコーディネーターとかキーバーソンとかの役目を期待されているとも言われるが、やはり中心は在宅医療スタッフである医師ではないかと常日頃感ずるところである。関係する各スタッフ間のリーダーシップを取りつつ、それぞれのマインドコントロールの為のカウンセラー役をひき受ける。上から下への一方的な指示でなく、相互関係で結ばれたいものが理想かと思う。
 特に金沢市のように大きな市では、必要ではないかと思う。それぞれのスタッフが断片的に障害老人をとらえてみても、患者および家族の気持ちを動かすことはむずかしい。在宅医療では、少しの薬類と詳細な観察の他、患者の身体的、精神的、社会的な健康へのアプローチが重要なのではないかとつくづく思う。その為にいろいろなスタッフが相互のつながりがもてれば鬼に金棒ではないか。


4.一人で動いているうちは保健婦でない


 私の専敬する言語療法士の遠藤尚史さんの言葉である。一人で動いている方が楽な事はよくある。障害老人に義務的に接しているうちは、煩わしい人間関係に悩む必要がないからだ。又逆に優秀な実践家の場合でも尚さら一人の方がロスがなく、自分のペースでやれて良い事もあると思う。しかし在宅ケアを一人できばってしまうと、何かがゆがんで片寄って見えてしまい、空回りを始めることが多いように思う。サービスを受ける側と実践する側がいつもある力関係で成り立ってしまうと、時には泥沼に入ってしまったようになり、何一つ改善されない最悪の状態に陥る。「あの患者はあんな人だから―」という言いのがれをしても、自分以外のすべての人がまったく同じように感じるわけはない。
 保健婦だけでなく在宅ケアに携わるものは少々煩わしくても、一人で動かないで、相互の話し合いの中で障害老人を支えていきたいものだ。在宅ケアにとって核は在宅医療だと思う。在宅医療を担う医師においても、時々訴えたくなることがある。一人で動かないで、もっと回りにいる他職種を活用して―。


5.在宅医療の中心は内科医?


 最近、褥創や尿失禁がクローズアップされて、その進展ぶりは目をみはる部分がある。特に尿失禁対策は国レベルで考えられている。私たち保健婦にとっては、血圧が高く治療しているのも、尿失禁で悩んでいるのも同じレベルで考え、対応する。しかし医療は、内科、外科、泌尿器科、皮膚料などとしっかり分かれている。それは在宅の場でも同じである。一応在宅医療は万能に近いとは言うものの、尿失禁の指導・治療においてはすでにかなり専門的で、それは泌尿器科の範ちゅうである。褥創についても同じで、皮膚科か外料の範ちゅうである。他職種との連がりも大切な事だけど、もう一方医師間での連がりが充実しないと、よりよい在宅医療にはならないように思う。


6.最 後 に


  幸いこの頃では、たいていの医師は在宅ケアに理解があり、保健婦との連携もうまく行っているケースが多い。門をたたけばそれなりの成果が上がるようになった。ただ残念な事に時々「保健婦さんは大変ですね」と言われる事がある。その場では言えないけど、「保健婦が大変なら主治医である先生はもっと大変なのではないでしょうか?」と心の中でつぶやいてしまう。保健婦の大変さを遠くでながめないで、いっしょに大変がってほしいなあと思う。
 現在の私は、「針の穴から天のぞく」時代を過ぎてようやく視野を広めつつある段階の保健婦である。認識の間違いや甘さは充分承知の上、日頃思っている在宅医療との関わりの問題点を上げてみたので、反論も多いと思う。しかしこの一介の保健婦の言いたい事に耳を傾ける事から、連携を強めていくのも一方法だと思っていただければ幸いである。
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