特集/脳死・臓器移植を考える
特集にあたって
編 集 部
 とかく医療内容にかかわる問題は、素人には発言しづらい独特の雰艶気がある。いま国民的な関心事となっている脳死・臓器移植の問題も例外ではない。医学的知識をもちあわせていない者は、率直な考えを述べても、専門家にそれは感情論だと言われれば二の句をっげなくなってしまう0しかし、いくら専門的な説明をされてもどうにも納得でさない部分が残る人も少なくない○逆に、専門家の多くも、感情論を無視できないと受け止めている。それは、脳死・臓器移植の問題が、人の生と死をどう考えるかというまさしく人間そのものにかかわる問題であるからに他ならない。そうであれば、もっと幅広く、様々な角度から多様な検討が加えられるべきであろう。今回の特集は、そうした議論の場を提供するために企画したものである。
 特集のベースになっているのは、昨年10月27日に日本科学者会議と共催し、石川テレビ●読売新聞社・北国新聞社の後援をえて取り組んだシンポジウム「脳死・臓器移植を考える」の内容である。当日シンポジストとして報告をいただいた、金沢医科大学脳神経外科角家暁教授、金沢医科大学泌尿器科津川龍三教授、真宗大谷派願勝寺今川透住職、金沢大学教養部青野透助教授の4人の方々には、報告の内容をあらたに論文としてまとめていただいた。角家教授には脳神経外科というまさしく脳の専門研究者としての立場から、津川教授には腎移植の専門家としての立場から、それぞれ自説を展開していただいた。また、今川住職には宗教者としての立場から、また「がん告知と末期医療を考える会」を主宰されるなど医療のあり方を人の生・死の問題から取り【1二げてこられた立場で、青野助教授には法学研究者という立場と同時に、「生命の料学と倫理」という科目を通じて脳死問題に教育の場で取り組まれてきた立場から、それぞれ率直な発言をいただいた0なお、角家・津川両教授にはシンポ当日のスライドを用いた報告内容を、圧縮して平易に文章で説明していただくという多大なお手数をおかけすることになった。御協力に感謝したい。特集を組むにあたって、できれば患者の権利の側面からもこの間題をとりあげたいと考え、九州合同法律事務所の弁護t池永満氏にその旨お願いしたところご多忙のなか快く引き受けていただき、ほぼ企画どおりの特集にすることができた。この他に哲学者の発言なども検討してはいたが、紙数の関係もあり別の機会に譲ることにした。
 今年1月に提出された脳死臨調の最終答申が両論併記のかたちをとったことから、この問題をめぐる議論は−一段と複雑な様相を示しはじめている。他方では、最終答申を事実上のゴーサインとみなして脳死移植を実行に移す動きも強まっている。国民の意見はなお一二分した状況にある0国民的な合意を欠いた見切り発車をわれわれは認めることはできない0読者のみなさんに率先して議論を巻き起こしてただくよう、切に呼びかけるものである。
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