『医療・福祉研究』No6 Dec.1993
仰特集/保健・医療・福祉と地域づくり
老人保健福祉計画についての
      全自治体キャラバン
石川県医労連 書記次長 馬 渡 健 一
 はじめに

 石川県医労連では昨年10月と今年3月と5月に他団体と共同して県下全自治体に対してキャラバンを実施し、老人福祉計画の策定状況について追跡的調査を行ってきました。

 そこであきらかになった老人保健福祉計画策定の問題点や実態の一部の紹介を行い、今後の実効性ある計画実施にするための運動の一助にしてもらえたらと思います。 

 まず、調査結果に入る前に、石川県医労連のキャラバン活動について若干経緯を説明しておきます。

 石川県医労連では86年以来、民医連やその他の時々の要求に関連する諸団体と共同して実行委員会形式で自治体キャラバンを、秋を中心に、ある時は春にも実施をしながら、毎年実施を何とか続けて参りました。

 こうした積み重ねは、「医療キャラバン」ということで自治体当局の皆さん方に毎年恒例の訪問ということで定着し、行かずにいますと翌年には「昨年はこれなかったのですか」ときかれるようになっています。
 こうした積み重ねの中、昨年より自治体申し入れの項目に老人福祉計画の策定状況を調査項目に入れ、全自治体のキャラバンを行ってきました。

1.92年10月の秋季キャラバン


 主催は石川県医労連・石川民医連・石川県労連の三者の実行委員会で実施しました。

 実施期間は10月26日から30日までの5日間、参加者は延ベ50名でした。調査項目は老人福祉計画以外に医療法改正後の影響・国保問題・老人医療費・乳幼児医療費・週休二日・国立病院統廃合・看護婦確保法の7項目、全8項目を申し入れました。

 この時期は、老人福祉計画作りのために高齢者へのニーズ調査が実施中の自治体がほとんどでありました。

 調査結果については金沢市の民間業者に委託するという自治体が2つありました。
 調査用紙は県統一のものを使用している自治体が多く、自治体によっては、県統一のものとは別に自治体独自の調査も行うというところが5カ所ありました。白山麓5ケ村(65歳以上人口が20%以上の高齢化が進んでいる地域)、ここでは民生委員が対象者全員に聞き取り調査を行っていました。

 調査結果の公表についてはすでに福祉計画を発表している(金沢・松任)市段階の自治体以外では調査中の全ての自治体が公表の意思はなく、策定委員会の設置もこれからという状況でした。

 当初の厚生省発表の計画の状況では、石川県は高齢者ニーズ調査開始が平成3年12月から平成4年10月調査終了ということになっていましたが、予定通り終了している自治体は13自治体であり、回答のあった残り20自治体は実施中か、これからという実態でありました(表1参照)。

 このキャラバンでは、ニーズ調査とともに93年4月から実施された福祉の措置権の自治体委譲問題についても聞きました。

 意外にもこの問題がこれからの福祉計画を立てる上で、我々が予想していた以上に自治体担当者に取っては大きなネックとなっていることが明らかになりました。

 それは小さな自治体では、回りの自治体と共同で特養や施設の運用や訪問看護などを実施しているケースが多く、その調整は緊急性に応じて県の福祉事務所が行っていました。

 ところが措置権の委譲で各自治体が今後は実務から今後の運用、計画までやらなければならなく、そのための人の手当、財政問題が重くのしかかっていると言うのが郡部での小さな自治体おしなべて口にした実態でした。

 この点で、今まで行っていた福祉事業が何か財政的に切り捨てられることはないかと聞いたところ、あからさまに何かをやめるという自治体はありませんでしたが、財源問題も含めて今後たいへん苦慮するだろうと言う答えが多く帰ってきたのが特徴でした。


2.93年3月1日キャラバン


 このキャラバンは県民要求実現の会を中心に7団体、参加人員87名、1日で全自治体を廻るという大規模なものでした。申し入れ項目も16項目に上り、1自治体、1項目に十分な時間は取れませんでしたが、老人福祉計画については調査が終了し、策定委員会の設置と日程が決められつつあるという状況でした。

 当初の県の指示では、93年の7月から9月の問に市町村の計画案を策定して出せと言うものでしたから、この時期には自治体担当者の策定委員会にかけるタタキ台の案が出ていたと思われます。しかしながら、ニーズ調査の遅れと同様に、この日程は5月のキャラバンで大幅に遅れているという実態が明らかになります。

3. 93年5月19日のキャラバン


 国民医療を守る共同行動石川県実行委員会、県民要求の会、石川県国公共闘の3団体で実施しました。内容は、「入れ歯保険点数改善」「乳幼児医療費助成」「国保充実」「年金制度改善」「保育制度拡充」「診療報酬改善」の6項目の議会請願要請と老人福祉計画の策定状況調査に絞りました。

 参加者は94名、1コース3つの自治体として申し入れ時間を取って老人福祉計画については細かく聞くようにしました(表2参照)。

 まず、計画作成状況ですが、7月の県への提出に向けて春には打ち上げたいとしていた各自治体が、5月段階でまだ多くの自治体が策定委員会を開いていないか、検討中という自治体が半数近くありました。 

 その策定委員会の構成も、老人会の会長や地元の医師、社会福祉協議会などのメンバーを中心とした実質的な審議になりうるのかどうか疑わしい構成の自治体が多く、施設の現場指導員やヘルパーなどを参加させている、議会から議員が入っているという程度でした。

 策定委員会の審議内容や調査結果を住民ヘフイードバックするという作業はいっさいやられておらず、町の計画は策定して県へ提出したが、住民にはまだ公表していないという自治体もありました。

 ある自治体では、「今年に入って県は策定についてトーンダウンしてきた」という担当者の詰もありました。

 県は今年に入って計画のヒアリングを各自治体にしており、その際になんらかの指導があったのではないかと思われます。

 ニーズ調査結果の公表については、県に既に提出済みの段階でしたから、ほとんどの自治体が請求があれば検討すると回答した反面、計画のそのものの公表については約半数の19自治体が「公表予定はない」「考えていない」というものでした。


 そして、国や県への要望についてはどの自治体の担当者も率直に語ってくれました。

「県の計画策定の研修会で『財政措置はどうなるのか』と質問したところ返答すらなかった」「財源の裏付けない。用地問題が大きい」「何でも地方交付税というのは拘る。」「10年を見通した計画を立てろと県は言うが、小さな村では村民のみ通しも見えない」「厚生省の痴呆出現率は数値が低く町の実態にあわない」「1/4市町村負担方式では約7兆円はどの負担になる。」「計画の先取りをやっているが、県の様々な足かせがある。」「正直言って押しつけられているかんじだ。」など財政問題を中心に市町村負担が大きくのしかかっている実態が浮き彫りにされました。

 ある自治体では「我々がいかに計画をつくっても上、すなわち首長の腹一つ」という担当者もいました。「財政措置の伴わない計画なので議会には報告しない」という担当者のはなしもあり、国や県、首長の姿勢が大きなファクターであることがうかがえます。

 今回のゴールドプランでは、その費用負担は国が1/2以内、県が1/4以内を「補助できる」としているだけで、施設福祉サービスには新たに町村負担が導入されています。

 実際、過疎の進んだ村で、聞き取り調査を行って、この村にはヘルパーが何人、施設がこれだけと積み上げて計画をしても、残りを各自治体が負担しなければならない状況では、計画の実効性は薄くならざるを得ません。

 これは、特に施設建設・確保の点では中小の町村は深刻で、近隣町村とのすり合わせが必要になる
と語っており、措置権委譲の点からいうと矛盾が深刻化していることが明らかになっています。

 おわりに


 最後に、この1990年に策定された国の「高齢者保健福祉推進10カ年戦略」すなわちゴールドプランは、いうまでもなく消費税導入の際に政府が「高齢化社会」に対応するために「福祉目的税」という説明をしたことへの対応策であり消費税の「ムチ」にたいしての「アメ」でありました。

 しかし、ある識者にいわせるとこの計画がまじめに実現するならぱ、イギリスのNHS(ナショナル・ヘルスサービス)に量的にははぼ匹敵する体制になるであろうとも言われています。 

 また、私たち医療労働者にとっては、医労連の看護婦闘争で厚生省の「看護婦受給計画」の見直しをさせたさいに、厚生省は「ゴールドプランとの関係で整合性をつけた」というのが言い訳でした。

 ゴールドプランの完全実施をしても医療機関の看護婦は大幅に増えないことは医労連をはじめ数多くの識者の方が指摘しているところでありますが、賃の計画策定指針が指摘してありますように、この計画の策定上の留意点は「老人保健計画と福祉計画の一体的作成」すなわち保健・医療・福祉の連携を指示しています。私たちが、このゴールドプラン籠定を監視し、実効牲のある計画にしていくならば、医療機関における看護婦の不足の問題も地域の保健・医療の面から再度クローズアップされるにちがいありませんし、保健・福祉も含めた人的体制の確保の問題を看護婦不足問題だけにとどまらず、われわれが世論に訴えて看護婦闘争の時のような大きな世論にまた再度押し上げ、国や自治体に迫っていくたたかいを構築する必要を感じました。
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