−<特集>介護保障のあり方を考える
訪問着護を通して考えること
                 山 本 真由美

1.城北病院の在宅医療の概略
 私はベッド数250床の病院の中にある在宅医療室(定数4.0名)に所属し、訪問着護を担当しています。現在94名の方がその対象となっており、死亡・施設入所等で対象から除外されたり、逆に新しく対象となる方があったりと一ケ月約4〜5名の変動があります。この一年間では対象数80名から現在の94名と14名の増加であり、年々増えていく傾向です。対象者の年齢は38歳から94歳と幅広く、80歳以上の高齢者が6割以上を占めています。
 通院困難となった原因としては脳血管障害の後遺症、筋骨格系疾患(骨折や骨の変形等)、神経系疾患による歩行障害や痴呆の進行などがあげられます。また多くの方は高血庄、心臓病、糖尿病などの慢性疾患をあわせもち、定期的な医学管理も欠かせない状態です。
 日常生活動作(食事・排泄・更衣・移動等)に常時介護を必要とする方は35名であり、軽介護の方をあわせて66名となり全体の7割が要介護者です。残りの3割の方々も日常生活は家族やヘルパーの援助が必要です。現在の対象者の居住地域は主として金沢市北部・金沢駅を中心として半径約7km、内灘町・津幡町周辺と幅広い地域にわたっています。


2.在宅生活の実際一丁氏の場合
 丁氏は68歳の男性で脳出血および脳梗塞の後遺症のため自力での寝返りも困難であり、かつ失語症のためコミュニケーションもとりにくい状態です。それでも「入院して3ケ月になるから」ということで公的病院から退院を促され、当院へ家族が相談にこられ在宅医療への準備の目的で入院となりました。喋下障害のため肺炎を起こしやすく、吸引器をもっての在宅生活となりますが、本人の「家に帰りたい」という強い希望で退院の運びとなりました。
 家では長男家族と同居していますが、長男夫婦は仕事を持っているため、妻が夫の介護  全般にあたっています。妻も心臓病があり、介護力としてもリスクが高い状態です。食事は喋下しやすいようにミキサーにかけたものにとろみをつけるなど食べやすい工夫をしています。きちんと飲み込むのに時間がかかるので、一回の食事介助に約1時間を要します。喉の奥で疲がゴロつけば、吸疾が必要です。尿意がないのでオムツによる排泄となっており、日中は2〜3時間毎の交換が必要です。
 また、寝たきりのためどうしても便秘がちとなり3〜4日に一回浣腸と棉便で排便を促しています。ベッドから車椅子への移動は小柄な妻が抱えて介助しなくてはなりません。日中は車椅子に座って寝室から居間へ移動することも多く大変です。妻はまさに夫につきっきりの生活となっており、家事と夫の介護で忙しく時間が過ぎていきます。退院にあたって妻の介護量の軽減   を目的に市のデイケアーを申請しましたが、医療依存度が大きいという理由で週1回の利   用が限度であるとの返事でした。週1回では妻の通院時間を確保するのがやっとであり、せめて過2回の利用が可能にならないかと老健施設でのデイケアーを利用することになりました。週2回の訪問者護・2回のデイケアー(うち1回は入浴もする)、そして月1回の医師の往診と必要時の臨時訪問を入れることでT氏の生活は軌道に乗っていきました。訪問着護時には排便の誘導・口腔ケア・全身の観察・吸痍などを行い、妻の介護状況や疲労の具合を把捉し必要な援助をすることとしました。T氏はコミニユケーションも困難であるため、時には夫婦とも行き詰まり状態になって、重苦しい雰囲気になっているところへ訪問するといった場面もありました。でも第三者である訪問スタッフが入ることで、二人の間で止まった空気が風が吹き込んだように動きだし、気持ちが切り替えられたかのようでした。
 T氏はその後食事時に窒息状態となり緊急入院しました。その後も誤喋性の肺炎で入退院を繰り返しています。T氏は医療の依存度が大きいのですが家で暮らしたいという思いは強く、それをかなえるためにはやはり市の各福祉サービスの利用が欠かせないところなのです。しかし重症者のサービス利用には回数の制限や家族の付添いが条件付けられたりと様々な制約があるのが現状です。

3.在宅生活を支える援助−K氏の場合
 K氏は72歳の男性で老年痴呆・バーキンソン病により全介助となっています。高血庄の妻と二人暮らしですが、身体の緊張が強いため車椅子への移動はもちろん体位を変えることすら妻にはできません。妻には排尿時のオムツ交換、食事・洗面の介助を指導し、週2回の訪問着護で排便誘導し便による汚染がないように努めました。しかし、背部にすぐビランができてしまうため必要時には毎日訪問し創処置を行っています。
 K氏の場合、陰部から背部にかけての清潔保持と体位交換が必要なのですが現在の一日一回の訪問では十分にケアしきれません。巡回看護サービスのように適時必要なケアが行なえるような訪問看護が求められる一例です。

4.訪問者謙と医療・福祉サービス
 現在の医療制度は医療費削減等の目的で医療機関の再編がすすめられ、一般病院からの長期入院患者の追い出しや老人の医療費定額制の導入等により「長期に必要な」医療を受け続けることは困難になってきています。各種医療処置を必要としながら退院を迫られたり、退院させられる人達がたくさんいます。T氏のように重症であればあるほど在宅生活を支えてくれるはずの福祉サービスは受けにくくなり、ますます介護者の負担が大きくなってきます。重症者はもちろんのこと、たとえ安定した状態であっても様々な疾患を持って生活している人の場合、そこでは医療は欠かせないものです。在宅生活の中では看護や介護も一連の流れの中にあり、その人の生活や身体状況を考える上でどこからどこまで医療、ここから福祉などと線をひけるものではありません。
 高齢者の生活を支えるために必要な医療と福祉を一体化させて、その人にとってのサービスを整えていくことが大切な点ではないでしょうか。「重症だからデイケアーの利用が困難」というのではなく、「重症だからこんな工夫をしよう」という発想で関係スタッフが各施設間の壁を越えて話合い、実行できるような柔軟きが求められていると思います。
 在宅生活では各家庭において必要とされる援助は様々です。定期訪問のみで十分な家庭もあればK氏の場合のように介護力が弱い家庭では巡回サービスの方が望ましいようです。東京都の一部の地域では看護・介護両スタッフがチームを組んで24時間、何時でも対応することが可能なケア体制を整えているところがあります。金沢市でも訪問スタッフを充実させれば可能だと思います。
 訪問着護・在宅支援システムは「公的介護保険」の導入が問題になるなど、制度的にもここ数年で大きく変わりつつありますが、基本的に求められているのは希望するすべての人に必要な援助を質量共に確保し提供することです。訪問者護ステーションはそれらを提供する重要な拠点になると思うのですが金沢市ではこの春に開設される1ケ所を合わせて
もまだ2ケ所しかありません。
 私達は広範囲の患者さん宅を廻っていますが、緊急対応という点では十分でなく、救急車での澱送による病院対応を行うこともあります。やはり中学校区、もしくはそれをもう少し広げた範囲規模でステーションを設定することが望ましいのではないでしょうか。

5.おわりに
 年をとっても、たとえ重い障害を持っても、自分の住み慣れたところで安心して生活を続けるためには何が必要か、今の生活の中で自らの老後を考えてみると、その答えは難しくはないと思います。
         (城北病院 保健婦)




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