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第76回研究例会報告
「生活保護の現状と課題」
城北病院 MSW 川合 優

2005年6月4日、「生活保護の現状と課題」について、静岡大学の布川日佐史先生の話を伺った。布川先生は2003年8月から2004年12月まで生活保護の在り方に関する専門委員会の委員を務められており、その中での検討内容を中心に、生活保護の近年の動向も含め今回話された。
 生活保護受給世帯は近年増加傾向にあり、2003年度一ヶ月平均で、94.1万世帯、134.4万人で世帯比率は2.0%である。しかし、ある推計によれば、生活保護の条件をクリアし、生活保護の対象となりうる低所得貧困世帯は、全世帯のうちの7.7%存在するという。これはまさに「資産の活用」「稼働能力の活用」「私的扶養の優先」の厳格化等、生活保護の運用の歪みであると布川先生は述べた。
 今回の生活保護制度の見直しの背景に保護財政支出の抑制があり、保護財政支出の抑制のためには早いうちに保護を利用できるようにして、早く生活再建できるようにすることがポイントであり、「利用しやすく自立しやすい制度へ」がキーワードとなった。見直しの内容としては、@生活扶助基準の見直し(多人数世帯の基準額抑制、年齢区分の見直し等)、A保護の要件の見直し(母子加算の見直し、高校就学費用の給付等)B自立支援プログラムの導入である。
その中でも特に、稼動能力の活用に関連して、就労していない人からの申請時に適用される「自立支援プログラム」の導入に布川先生は深く関わられた。自立支援プログラムにおいて、就労自立・経済的自立ではなく社会福祉法でいう自立が定義されたことは大きな転換であると述べた。専門委員会では林訴訟をもとに、稼働能力の客観的評価の指針として、この自立支援プログラムを策定した。自立支援プログラムは稼働能力がある方が生活保護を利用できるようにすることが目的であるが、一方で、この自立支援プログラムが入り口部分での「ワークテスト」の役割を果たしてしまう危険性があることも提起された。
 布川先生の報告の後、現場からの報告ということで、松原病院の小泉さんと城北病院の伍賀さんから生活保護申請の現状の報告を受けた。その中で明らかになったことは、自立支援プログ

ラムが始まってから、「これまで以上に申請を受理してもらえない」、「急迫した状況であるにもかかわらず、稼動年齢というだけで申請受理を拒まれた」等、現場では自立支援プログラムが「ワークテスト」の役割を担ってしまっているということである。その他の参加者の中からも生活保護申請不受理に関わる事例がいくつかあげられた。
 今回、布川先生の話を聞いたことで、「自立支援プログラム」ができた背景やその意図が理解できてよかったと思う。しかし自治体では、その意図とは全く逆の捉え方で、水際作戦の一つの手段として利用されていることも再度確認できた。今後、この自立支援プログラムが適正に運用されるかどうかは我々現場の人間がいかにこの制度うまく利用するか、よいモデルとなるような事例を作れるかにかかっていると感じた。

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