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第84回研究例会報告
『どうなる療養病床? 療養場所をさまよう患者たち
〜 在宅と転院の試みから見えてきたもの〜 』
城北病院 MSW川合優

2006年12月23日、『どうなる療養病床? 療養場所をさまよう患者たち 〜在宅と転院の試みから見えてきたもの〜 』をテーマに城北病院MSWの信耕氏と金沢リハビリテーション病院のMSW伍賀氏のお二人からの報告があった。医療関係者や学生など、会場は50名以上の参加者で一杯であり、椅子が足りなくなる程の大盛況でした。
 まず、信耕氏から政府が推し進める、「医療制度改革大綱」をもとに療養病床の位置づけについての話しがあった。医療費適正化という名のもとに、長期入院の是正や診療報酬の見直し、病床転換が実施されてきている。療養病床については、現在ある療養病床38万床(医療療養病床25万床、介護療養病床13万床)を、2012年度までに15万床(医療療養病床のみ)に削減することが決まっている。そのため、現在、療養病床をもつ病院は病床廃止や病床転換をせざるをえず、混乱している状態である。また、2006年4月の診療報酬改定や、リハビリの日数制限により病院の収入が減少し、現場では人件費削減が人員不足をまねいている。では、診療報酬上、医療・介護の必要度が低いと判断される患者様は本当に政府の言う社会的入院であるかを検証するために、信耕氏は実際に療養病床に入院されている患者様をモデルに、退院して在宅で介護保険を利用し生活した場合の利用料について算出した。その結果、なんと一ヶ月約37万円もの利用がかかることもありうることが判明した。これにより、療養病床に替わる居宅サービスがあまりにも貧弱であることが浮き彫りとなった。
 次に、今回の療養病床の転換期において、実際に2007年2月より、病院から有料老人ホームに転換する金沢リハビリテーション病院の伍賀氏より、施設転換に伴う退院調整に関わる中で見えてきた様々な課題や、療養病床の現状について報告があった。金沢リハビリテーション病院で退院調整の対象となった76名の今後の療養先については、半数以上の40名は他病院の療養病床か老人保健施設への転院となる予定であることがわかった。その理由としては、有料老人ホームでは利用料が高額で支払えないといった経済的な課題や、医療管理が必要で療養病床でしかみられないような病状的な課題などがあげられる。また、老々介護をしている夫・妻が通える病院・施設が近くに無かったり、どこの施設も一杯で、なかなか入所できないないなど、転院・退院調整もうまく進まないのが現状のようである。
 お二人の発言のあと、参加者との意見交換の中で、「療養病床の廃止で、現場で混乱が起こっていることはわかったが、では、本当に療養病床が適切な施設として日本に必要なのかを議論する必要があるのではなないか?」という意見も出された。
 今回の例会に参加して、政府の進める医療改革の矛盾点が明らかになったように感じた。病床削減を補うはずの在宅サービスの整備が進んでおらず、その狭間でさまよう多くの患者が今後も増え続けることが予想される。今後の政府の動きを注意してみていく必要があるし、本当にあるべき医療・福祉の姿を議論していく必要性があることも改めて感じた。

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