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第87回研究例会報告
『障害者自立支援法−完全施行1年を経て見えてきたもの−』道見 藤治
2007年9月30日、表記テーマにて研究例会があった。1部は3名の方より報告を受け、2部はオープンディスカッションを行なった。
 報告から。石川県視覚障害者の生活と権利を守る会事務局長、不破伸一さんからは「自立支援法と障害のある人の願い」として次のような報告があった。
@「障害者にも負担を」が前面に
 日常生活用具給付事業に定率1割負担と所得制限が導入されてきた。金沢市ではマル障、福祉タクシーにも所得制限が導入され、サービスを受けることが出来ない人が増えてきた。一時的な見直しでなく「応益負担」そのものを撤廃してほしい。
A制度がわかりにくくなった
 いきなり導入されたこと、運動の成果でもあるがあわてて「見直し」したこと、さらに地域生活支援事業は地域によって実施状況が違うことなどから、制度を一望しにくくなった。
Bみえない将来像 憲法理念に沿った問題解決の方向が曖昧に
 ※憲法に示された人権を障害のある人にも保障させるという目標が、地域の実情・ニーズという言葉でうやむやにされているよう。厚生労働省に言っても、「周知する」、「よい事例があれば紹介する」ということで、誰が障害のある人の福祉に最終責任を持っているのかはっきりしない。
C財源不足を理由にした削減の対象とはしてほしくない
障害のある人への福祉は、人間らしく生きるためのサービス。財源不足とは関係ない。
D大きな制度変更にはあらかじめ当事者と国民の意見を聞いてほしい
 福祉を向上させる制度、わかりやすい制度、使いやすい制度をつくる早道であり、民主主義の基本。
E障害ゆえに必要なサービスは、社会が負担する原則の確立を
 ソーシャルネットかがやき、西脇瑞枝さんからは「事業者からの声」として次のような報告があった。
 利用者負担が当初1割負担と出された時は、障害年金だけで生活している利用者さんが実際に生活していけなくなると心配した。しかしそのうち減額されほっとした分、事業者への給付額がどんと低くなり、特に居宅介護の給付額が安く設定された。特に、長時間のヘルパーの利用では長くなるほど減額の巾が大きくなり、介護保険の単価に比べてすべて安くなっている。せめて介護保険と同額にならないと、ヘルパーの給料が保障されない状況で特に人材不足となっている福祉事業者の先行きが見えてこない。これが進むと障害のある方へのヘルパー事業をする事業者が少なくなり、サービスの担い手が少なくなることであり、結果として利用者の生活が危ぶまれ、従来利用者が事業者を選択してきたことが、反対になり、事業者が利用者を選ぶことになりかねない。
 地域生活支援事業として市町村事業になった移動支援についても安全性重視で支援内容に制限があったり、通学の送り迎えは家族がどうしても出来ない場合でも考慮されていない。支援費制度では、外出援助が全国どこでも使えたが、市町村事業になってからは使うのが非常に困難になっている。障害のある人たちにとって、自由に外へ出かけられるようになったことは大きな福祉の前進であったはずである。金沢市の移動支援についての考え方は、障害のある方たちの行動を制限することであり、これは大きな福祉の後退であるといえよう。
 施設から出て生活の場と日中活動の場でそれぞれの利用者が生き生きと生活できるようにという自立支援法の構想であるが、大型施設では新しい制度への切り替えには慎重で、経過措置があるためか緊張感が伴っていないように見受けられる。給付額が少なくてもわれわれ小さな事業者は、利用者が求めるものをどのように作っていこうかと頑張っている。大型施設への多額の建設資金や施設整備、施設給付などを見直し、地域で生活している利用者が安心してその人らしい生き方が出来るようになることがわれわれの使命であると思っている。利用者の権利を守るためにも利用者と事業者が一緒に歩みながら、事業者の場合は、働く人の権利を保障することにつながるだろう。
 金沢大学教育学部、河合隆平さんからは次のような報告があった。
障害者自立支援法によって、「児童福祉」としての障害児福祉から「自立支援法」としての障害児福祉へと変質したところに大きな矛盾と問題がある。自立支援法施行に伴う2006年度児童福祉法改正は、「自立支援法」としての障害児福祉に向けた「途中下車」であり、2009年度の改定で結論が出される予定である。今回は、とりわけ障害児施設の問題について報告した。
改正児童福祉法第24条の2には、障害児施設給付費支給に関する事項(施設利用にあたり給付決定を受けた保護者が施設に申請して利用開始;いわゆる「契約制度」)が挿入されたが、児童相談所の職務(第26条)および都道府県の措置権限(第27条)は未改正のままである。したがって、障害児施設利用については、措置制度と利用契約制度が法制上、併存している状態にある。
施設利用状況については、知的障害児施設で就学前入所が微増傾向にあり、乳児院・児童養護施設からの措置変更が7%である。肢体不自由児施設でも20%が社会的入所であり、入所経路の半数が児童養護施設からという施設もみられる。こうした状況において、児童の施設入所(支給決定)にあたっては、保護者の「契約能力」だけではなく「養護能力」を加味する方向にあるが、厚生労働省の「原則として利用契約制度に移行」という基本方針に変更はない。
2006年10月の自立支援法本格実施以降、満18歳未満措置率の都道府県間格差が生まれており(たとえば、三重;96.6%、山口;0%)、費用負担の問題から退所等が後を絶たない現状がある。利用契約者と措置者の負担格差、滞納・未収への対応、学校教育との連携・連絡(就学奨励費、給食費など)などの課題が山積している。
 オープンディスカッションでは法実施後の施設運営、利用者の変化の報告があった。医療や介護・福祉事業者の確保と養成が大変厳しい実態になっている問題が出た。法については、応益負担の撤回、事業報酬の低さの改善、日割りの撤廃等の意見・要望が出た。
 今回の例会テーマは時宜にかなったテーマであり、現状と問題を参加者が共有できた。残念にも出にくい時間帯のため参加者が少なかった。

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