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第92回例会報告

「タクシー労働者との関わりのなかで見えてきたこと」
小野栄子
去る9月26日、松ヶ枝福祉館にて、標記の研究例会が行われた。今回の報告者である、城北病院健康支援センターの保健師広田美代さんは、あるタクシー会社の健康診断を受けもったことがきっかけで、労働・生活実態に興味をいだくようになった。50代半ばにして独身・寮暮らし。心筋梗塞を起こし孤独死をしたタクシー労働者もいた。タクシー労働者の健康状態、労働実態は一体どうなっているのか・・・。実態を把握するため、広田さんは寮を訪問して健康相談を行うようになった。そこで顕在化してきた過酷な労働実態、健康状態等の問題を今回ご報告いただいた。
52歳で寮住まいの男性。夜勤専門の正社員だが、休日にアルバイトしても手取りは34,000円しかない。職を転々として行き着いたのがタクシー乗務だった。このような事例を紹介した上で広田さんは、タクシー労働者が置かれている問題とその社会的背景について考察した。
 マイカーの増加で客は減る一方なのに対し、2002年の規制緩和以降、東京ではおよそ4千台のタクシーが増え、市場競争が激化した。金沢も例外ではない。2001年には金沢市内で1,566台だったのが2007年には1,839台に。タクシー過剰のなか、運賃賃下げ競争と事業の疲弊により、事故の増加、質の低下と同時に、乗務員の労働条件が悪化している。広田さんは、実際の勤務表を紹介しながら、営業収益に直結する「歩合制」で、あまりにも低すぎる賃金実態を指摘。さらに乗務員は不規則勤務と長時間座り続けることによる健康悪化、客とのトラブルによるストレス、経済的不安をかかえていることを紹介。石川県では、タコグラフを取り付けなくてもよく、サービス残業や長時間労働を助長させていることや、タクシーの外に出てはいけないという理不尽な規則があり、労働者に不要なストレスや健康悪化の原因を作っていると指摘した。そして最後に、健康診断では「メタボリック」ばかり見ていては、健康問題の実態は見えてこない。タクシー労働者の衛生管理も情勢的な側面から理解し、賃金保障の問題にも取り組む必要があるとし、報告を締めくくった。
20人ほどの例会参加者からは、タクシー労働者の実車時間、賃金体系はどうなっているのか、雇用形態の問題とクロスさせて考察しては、職業別の疾患率などを調べてみては、など、質問や今後の研究へのアドバイスも行われた。また、タクシー同士の競争だけでなく、バス会社との競争も激化しているなか、地域の交通、公共交通としてタクシーをどう位置づけるかも課題であるという意見も出されていた。
 これまで、トラック運転手等の労働実態はテレビでよく取り上げられているが、タクシーについてはあまり着目されてこなかったように思う。顕在化されていない労働問題はまだたくさんあると気づかされた例会だった。今回、広田さんにはタクシー労働者がかかえる全般的な問題点をご報告いただいたが、次回は保健師の立場から、より専門的な報告もお聞きできるのではないかと思い、引き続きの研究に期待している。

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